トーニャと昼食①
その後も俺とトーニャは買い出しで市場をうろつき回った。
食材や消耗品の店以外にも、俺が興味を持った店に何軒か寄ってくれた。
初対面のあの態度は何だったのかという親切ぶりだ。
トーニャなりに何か思うところがあったのかもしれない。
時折トーニャが何か言葉を口に出しかけてやめる様子が何度も見えたのは不気味だが……。
トーニャが俺の為に寄ってくれた店は、術具屋や本屋だ。
この世界では術が使えない人間は猫より役に立たないとされているらしい。いずれは俺も術を使う訓練をした方がいいそうだ。
なんでも異邦人は元々この世界に生きている人々よりも大きな術力を持つ場合が多いそうだ。
それも唐突にこの世界に誘拐される異邦人に対するオマケかな?
市場を歩いていて、金属製品が少ない事にも気づいた。屋台で料理している人々の調理器具なんかも、包丁や鍋の殆どが石や陶器製だ。
石製の包丁でも「土術」によって鋭さを増せば、どんな食材も難なく切れるらしい。
こんなレベルで「術」が生活に密着しているとなれば、術不能者が役立たずとされてしまうのも理解はできる。
また金属製品が少ない大きな理由の一つは、金属の多くが「術」の効力を阻害してしまうかららしい。
代表的なものが鉄と鉛だそうで、近くにあるだけで術の力が大幅に減衰するそうだ。
金属の中には逆に術を阻害しないものもあって、代表的な物が銅、銀、金の三つ。
この世界で見かける金属は大抵この三つのうちの何れからしい。
因みにサンドバイパー号に乗り込んできた騎士団は金属の鎧を身に纏っていたが、あれは精霊銀という特殊な加工を施された銀製の鎧だそうだ。故に術を阻害しない。
「昼飯でも食おう」
陽が高くなり始めた頃、トーニャが唐突にそんなことを言った。
「いいですねェ! どこかオススメのお店でも?」
「あ、ああ。夜は酒場なんだが、昼は定食なんかも出してる店があってね。そこの「ムンダリ鶏の唐揚げ」が絶品なのさ。い、行くかい?」
どうにも言葉が棒読みだ。あらかじめ考えておいたセリフを読んだかのようだ。
「もちろんお供しますよ! 色んな物を食べてみたいですしね!」
明らかに何かを隠している様子がありありと伝わってくるが、変にもじもじとしたトーニャの態度から悪意は感じられないので、ここは素直に乗る事にする。




