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トーニャとグランチ

声のする方へ向かって行くトーニャについて行くと、狭い軒先になんだかよく分からない機械のパーツのような物が所狭しと並べられた店があった。


 店主らしき男は、筋骨隆々な体つきながら身長はおよそ一四〇センチメートル程度という極端にずんぐりむっくりな体型をした男だった。


 体毛も濃く、もみあげから繋がった顎ヒゲは刷毛のように広がっている。


 サイファスの耳打ちによると、これがドワーフ族らしい。


「帝国に行ってたんだろ? 帰ってくんのはもう少し先だと思ってたぜ?」


「ま、こっちも色々あってね。出物はあんのかい?」


「それはお前さんが自分で判断できるだろ? 昨日発掘から帰って来たばっかりだ。見てってくれよ。ところでそちらさんは?」


 ドワーフの男は値踏みするような目で俺を見る。


「ヒエム族のコーイチと言います。最近雇われた船員です。よろしくお願いします」


 俺は打ち合わせ通りの自己紹介を淀みなく答えた。


 自分が異邦人であるという事は普段から極力隠しておいた方がいいというので、当たり障りのない自己紹介を考えておいたのだ。


 服装も、全身をすっぽりと覆う茶色の外套を身に着け、こちらの世界に少しでも馴染むように工夫している。尤も、女性ばかりのサンドバイパー号には俺に合う服が無かったので、外套の中は最初に来ていたカッターシャツとスラックスのままなのだが。


 今回の外出では俺に合う服を買う事もミッションに含まれている。


「そうか。俺はグランチってんだ。それにしても……お前さんところが新人を雇ったのか。しかも男ときた! これぁ何かあるな? なるほど、ついに男日照りで竿役を飼ったってわけかァ?」


「んなわけあるかァ!! 知っての通りウチは女だらけだから、単に男手が欲しかっただけだっつの!!」


 グランチと名乗った男はトーニャと旧知の仲のようだ。軽口を叩きあう姿がサマになっている。


「ハッ! お前の船で男手が欲しい? 鬼族一人にドワーフが二人いたら、男手なんかいらねぇだろ!」


 ん?


「あの船にドワーフが二人って、誰ですか?」


 グランチはキョトンとした顔で。トーニャは少しだけバツの悪そうな顔をして俺を見ている。


「なんだ新入り、知らなかったのか? そのトーニャと船長のマルティナは俺と同じドワーフだぜ? まぁドワーフの女は数が少ないから仕方ねぇけどな。特に若いのはな」


「えぇ!? そうだったんですか!?」


 男と女で見た目が違い過ぎるだろ!


 なんというか、ドワーフの男であるグランチはゲームやアニメでよく見るような、いかにもドワーフ! という印象なのだ。


 しかしトーニャやメルティナは、少なくとも見た目は単なる浅黒幼女といった風情だ。


 ヒエム族の子供だと言われればなんの疑問も無く信じるだろう。


 まぁ中身は完全に大人の女性なので、何らかの長命種族なのだろうとは思っていたが。


「お前ら二人が国から飛び出して、もう結構経つよなぁ」


 サイファスの耳打ち情報によると、ドワーフ族は大まかに、母国に引き込もって暮らす超保守派と、国を出て世界各国で暮らす革新交流派に二分されるらしい。


 ドワーフ族の母国は長年鎖国をしているらしく、外国との交流はほとんど無いらしい。


 噂によるとドワーフの国では他国を遥かに凌ぐ文明が発展しており、それを外部に漏らさない為とか。


 国を出たドワーフ族は基本的には二度と帰る事はないため、外で見かけるドワーフ族は全員革新交流派だ。


 モノ作りに関してプライドが高く気難しい所もあるが、皆おおらかで酒好きが多いらしい。


「俺は手がこんなでよ、ドワーフって連中はハンマーを振れないヤツを同胞とは認めねぇクソみてぇな連中だったからほとほと愛想が尽きてたんだが、国を捨てる踏ん切りもつかなくてよ」


 グランチの右手はよく見ると木製の義手であった。


 複雑な機構があるようには見えないが、生身の手のようにスムーズに動いているように見える。


 術の力だろうか?


「お前らの脱走には随分勇気付けられたぜ」


「おい、その話は……」


 トーニャがグランチの昔話を制した。


「おっと、新入りにゃまだ早い話だったかな?」


「折を見てアタシとメルティナが話すってんだよ」


 世界でも極めて貴重とされる遺失船を個人で乗り回すドワーフの女性二人。この特殊な状況にはやはり色々と複雑な事情があるようだ。


「……ところで、聞きたい事があるんですが……」


「なんだい兄ちゃん?」


「宝嵐から出る物には他にどんなものがあるんです?」


「どんなものって、そうさなぁ」


 グランチは滑らかに動く義手の指先で豊かな髭を撫でながら少し思案する。


「ぶっちゃけ、異世界の道具なんざ大半が使い道の分からんものだらけなんでな。故郷の学者共ならともかく、バカな俺にゃ正しい価値なんてわかりゃしねぇんだ。ただ、そんなもんでも欲しがる物好きは多くてな。そんな奴らに吹っ掛けて儲けさしてもらってるってぇわけだ。……ここだけの話だぞ?」


「なるほど……ちょっと欲しい物があるんですが、もし見つかったら、僕に売って下さいませんか?」


「おいおいコーイチ! こんなインチキ商人からモノを買う気かい!?」


「そりゃねぇぜ! 商売の邪魔はよしてくれよ!」


 俺は「欲しい物」について事細かに、時には地面に絵を描きながら詳しく伝えた。


「あー、なるほどな。それなら余裕で何とかなるぜ。()()()()()()()だってんで、買い手もあんまりつかねぇから大助かりさ。安くしとくぜ」


「本当ですか! まぁその、まだ買うと決めたわけではありませんが……またこのお店には寄らせていただきますんで」


「もういいかい? んじゃ、そろそろ行くよ。今日は久々の寄港で色々と買い出しもあるんでな」


「おう! また寄ってくれよな! コーイチも女に囲まれて大変だとは思うが、今度よく効く精力剤教えてやっから!」


「そんなんじゃねぇって言ってんだろこの馬鹿が!」


 トーニャは舌を出しながらグランチと別れた。


「……まぁその、さっきの昔話ってヤツは、ちょっとデリケートな話さ。いつか酔って話すこともあるかもしれないよ」


「僕、結構お酒強いですよ?」


 俺がそう言うとトーニャは凶悪な笑みをこぼしながら舌なめずりをして言った。


「ヒエム族がドワーフに飲み比べで勝った話なんて聞いた事ないねぇ!!」


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