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異世界上陸

 タラップから港に降り立つと、そこは完全に異世界だった。


 いや、異世界だということは重々承知していたつもりだったのだが、こうして大地に足を付け、空気に触れるとより実感が増す。


 粗末な作業着のような衣服を着た、種族も様々な男達が荷物を引きずったり積み下ろしたり、忙しく走り回っている。


 そんな男達の頭上をウミネコに似た鳥がニャアニャアと飛び回り、漁船のおこぼれを狙っている。


 文明レベルは十八世紀に近いだろうか? 港に停泊している船は我らがサンドバイパー号以外は全て帆船のようだ。


 サンドバイパー号のような船を「遺失船(ロストシップ)」というらしいが、なるほど帆船メインの中にあって垂直離着陸に超長距離航行が可能な空飛ぶ船がいかにオーバーテクノロジーなのかが分かる。


遺失船(ロストシップ)」以外にも「新造空船(ニューシップ)」と呼ばれる現在の技術で作られた空飛ぶ船もあるという話だったが、確かに遠くに見える丘の上に飛行船のようなものが浮いている。


 だがそれよりも気になるのは……。


「何ボーっと突っ立ってんだ? ほら行くよ!」


「あ、あぁすみません、ちょっと気になっちゃって。あの、ずっと遠くに浮かんでる大きな山みたいなものは……?」


 俺が空の彼方を指差すと、トーニャもその方向を見て目を細めた。


「ああ、ありゃ浮遊山脈だね」


「浮遊山脈?」


「アンタの言った通り、空飛ぶ山さ。鴉族が住んでるって噂でね」


「そ、空飛ぶ山があって、そこに住んでる人々がいるんですか? 途方も無いな……」


「そうかい? アタシ達にとっちゃ当たり前の光景だからねぇ。空飛ぶ陸地は他にも幾つかあるよ」


「いつか行ってみたいですねぇ」


 俺がそう言うと、トーニャは笑いだした。


「はっは! ムリムリ。サンドバイパーなら近くまでは行けるだろうが、浮遊島にはどれも突破不能の結界が張られてんのさ。さ、無駄話してないで行くよ!」


 トーニャに促されて歩き始めると、突然どこからともなく飛んできた見知らぬ小鳥が俺の肩に止まった。


「うわっ!? な、なんだ? 人懐っこい小鳥だなぁ」


 その青から緑のグラデーションの羽根を持つ美しい鳥は、ぴょんぴょんと俺の耳の傍まで来ると、


「私ッス! サイファスッスよ!」


 喋った。


「お、おわぁぁ!!」


 俺は驚きの余りその場ですっころびそうになった。


「なぁに大声出してんだ!! ……って、サイファス様じゃないか。一緒に来んのかい?」


「トーニャがいるとはいえ心配ッスからねぇ。分体でついていくッス!」


「どうせコーイチについていけば面白そうだからってだけだろう?」


「もちろんそれもあるッス! 大体八割くらいッス!」


 メインじゃねぇか!


「大精霊ってのは凄いんだな。心強いよ」


「はっはっはー! 大船に乗った気でいるッス!」


 しかしなんというか……肩に乗せた小鳥と仲良く談笑する成人男性というのは……周囲から見るとかなりヤバいヤツなんじゃないだろうか?


 そういうわけで二人と一羽で初めての異世界街歩きは始まった。


 港の出入り口付近には複数の出店が出ていた。港で働く人達の食事のためだろうか?


 海産物を中心にイカ(のようなもの)の串焼きや麺の入った海鮮スープ、網で焼いた巨大な貝など様々なメニューが売られている。


「さっき朝飯食ったばっかだろ? 我慢しろ。金もねぇし」


「い、いやそんなつもりは」


「後で別の所で食わせてやるから」


 うう、俺はそんなに物欲しそうにしていたのだろうか……?


「ところでメルティナさんはどこに?」


 俺がトーニャと出かける時には既にメルティナは外出した後だった。


 因みにあの三人娘もだ。


「メルティナはアゲイド市長の所に挨拶に行ってんのさ。色々良くしてもらっててね。アタシ達の運び屋稼業の後ろ盾になってもらってんのさ。三人娘の方は……作戦行動中」


「作戦行動?」


「察しが悪いねぇ! 秘密ってことだよ!」


 き、気になる……。昨夜の反応では何か企んでいる風だったので余計にだ。


 港から出ると、そこは喧噪と怒号飛び交う市場だった。ありとあらゆるものを売り買いする店舗が軒を連ね、客と店主が値切り値切られ、吹っ掛けボラれを繰り広げている。


 とにかく人が多く、年末年始のアメ横を彷彿とさせる。


「はぐれるんじゃないよ坊や! しっかり付いてくるんだ!」


「ま、もしはぐれても私がナビゲートするッスけどね」


 俺は人の波に揉まれながらもトーニャを見失わないように付いていった。


「おお!? トーニャじゃねぇか! 戻ってきてたのか?」


 しばらく歩くと、野太い声でトーニャに声をかける者がいた。

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