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儲け話

ギルド連合商業国「ムンダリ連合国」の港湾都市「アゲイド」が次の目的地だそうだ。


 メルティナに聞いた所によると、近辺の国の殆どが「王」を頂点に頂く君主国であるのに対して、この「ムンダリ連合国」では国民に選ばれた元首が存在するという。


 またギルド連合とは言われているが、各ギルドはそれぞれが別々のほぼ単一種族によって運営されているため、実質的には複数の種族による連合国家というのが実態に即しているらしい。


 例えば総合商人ギルドはヒエム族(人間)、鉄工ギルドと大工ギルドはドワーフ族、縫製ギルドと細工ギルド、薬品ギルドはエルフ族……といった具合だ。


 生産と物流、商業に最も重きを置いたムンダリ連合国は、国家にとって多少なりとも益のある限りは来るもの拒まず。


 色々訳アリなサンドバイパー号の後ろ盾となり、仕事を斡旋してくれる懐の深い国……というのがメルティナの談だ。悪く言えば混沌としているとも。


 しかし国民の大半が金勘定に敏感かつ抜け駆けしようとする者に目を光らせているため、他の国家などより大規模な汚職は圧倒的に少ないそうだ。


 その代わり個人レベルの小規模な賄賂や袖の下は逆に日常茶飯事らしく、よっぽどのことで無い限りは金で解決できるらしい。


「ま、とにかくウチの船にはその金がもう無いワケ。借金こそないものの、ほぼ一文無し。素寒貧。無い袖は振れない」


 良い感じに日本風の言い回しに意訳されて聞こえているけど、コレ本当は何て言ってんだろ……?


 俺は朝、昼に続き三回目の魚料理にげんなりしながらメルティナの話を聞いた。


 因みにこの魚は自分たちで「漁」をして捕ったものだ。


 この船の主兵装である「振動砲」を海面に向かって撃ち、気絶して浮かんできた魚を掬うという大雑把な漁法だ。


 振動砲はその名の通り指向性を持たせた空気の振動を撃ち出す兵器だそうだ。「音響砲」とも言われるらしい。


 殺傷能力は無いが、人間を含む生物に対して効果が高く、行動を阻害する事ができる。


 普通遺失船は大抵軍用艦なのでもっと強力な兵装を持っている事が殆どらしいのだが、サンドバイパー号は商業用として使われている。


 多くの遺失船のように重武装では安全保障上の理由から各国での通商許可など下りる筈も無い。しかし海賊や遺失船を奪おうとする者たちから身を守るには非武装という訳にもいかない。それで設置されたのが振動砲というわけらしい。


「幸い積み荷は没収されなかったから、元々帝国で買い取ってもらう予定だった物や、宝嵐で拾った遺物を売れば多少の金にはなるだろうけれど……大した金額にはならないでしょうね」


「因みに元々帝国に持っていく予定だった物というのは何なんですか?」


「ムンダリ製の金細工が主よ。アクセサリーや置物。アマンドラ帝国の富裕層に高値で売れるの」


「なるほど」


「どう? 何か金儲けのアイデア浮かんだ?」


 メルティナが特に期待していなさそうな顔で聞いてくる。


「いやぁ、ははは。そうすぐには……。僕にできる事なんて多くないですから……」


 俺がそう言うと、食堂の別の机で同じメニューを心底嫌そうにつついていたソフィが机を強く叩いた。


「もっとマジメに考えんか! 誰のせいでこんなことになったと思っておるのだ!?」


「こらソフィちゃん! それは言わないお約束!」


 ミランダがソフィを諌めるが、ソフィは涙目だ。


 そんなに俺の事が嫌いなのだろうか……


「余は……余はもう魚など食いとうない……! 不味いし骨や内臓は面倒だし、上手に食べないとトモエに叱られるし……! しかし金が無ければ豆も野菜も果物も買えぬ!! このままでは余は、余は……!!」


 な、なるほど。魚って大人でも上手に食べられない人結構いるからなぁ。


「魚はもう食べたくないってのは同意ね。やっぱ肉よ肉。あとお酒。もう二日も飲んでないのよ!? この私が! あ~、酒飲みたい……」


「余は肉も嫌いだけどね!」

 いやちょっと待て。メルティナが酒好きという設定はどうなんだ。見た目完全に幼女なんだぞ。どう見ても犯罪だ。


「ウチも肉食いたいわぁ。特に牛。一頭丸ごといきたいわぁ。ホンマは米も食いたいんやけど、このへんじゃあ手に入らへんし……懐かしいわぁ」


 一頭って……食いしん坊キャラを強調してくるな。米は俺も恋しいよ、ホントに。


「コーイチって、元の世界ではぷろでゅーさーってお仕事してはったんやろ? なんでも可愛い女の子を人気者にするいう……それって儲からへんの?」


「うーん、難しい質問だね。僕のいた世界にはたくさんのアイドルがいたけれど、その中でも大人気のアイドルとなればほんの一握り。それ以外のまだ売れていないアイドル達の中にはその日暮らしの貧乏な子達もいるから……」


「って事は!!」


 同じテーブルで食事していたミランダが俺に向かって身を乗り出し、目を輝かせている。


「その「ほんの一握り」になれば儲かるってことだね!?」


「あ、あぁ。まぁそうだね」


「じゃあ!!」


 俺は間髪入れずに答えた。


「ダメだ」


「えぇ!?」


「人気アイドルになるというのはとても大変で難しい事なんだ。地道な活動、地道なレッスンがひたすら続き、それが全く報われない事も多い。それでも諦めず、少ないチャンスをモノにできた人だけが人気アイドルになれるんだ。その場の思い付きで金儲けの為にやろうなんて、そんなモチベーションじゃ絶対に続かない。アイドルは遊びじゃないんだ」


 アイドルなんて儲ける為にやるような仕事ではない。ただ儲けるだけなら他に良い商売がいくらでもあるはずなのだ。


 それでもアイドルをやるならば、その先にある、もっと純粋な思いが必要だ。


 俺はできるだけ優しく、諭すようにそれをミランダに伝えようとしたのだが。


「遊びじゃないもん!! 遊びで言ってるんじゃないもん!!」


 ミランダは荒々しく立ち上がると、食堂から飛び出して行った。

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