騎士団の攻撃
「あ~、やっぱこうなるッスねぇ。ミレイユちゃんはリアクションが面白いんでからかい甲斐があるんスけど、後始末が大変ッスよね~」
サイファスは天井を見上げながら呑気にそう言った。
「ミ、ミレイユってあの女騎士だろ? 彼女がどうした?」
俺が聞くと目の前の空中に船の外の様子を映した映像が出現した。
さっきも思ったが、これ一体どういう仕組みなんだ。後で聞こう。
「撃ってきてるッス」
映像を見ると、少し離れた空中に、見るもの威圧するような巨大な竜を象った戦艦のようなモノが浮かんでいた。
その船体から小さな煙が上がると、少し遅れてこの船の至近距離で爆発が起こっていた。
「お、おい大丈夫なのかい!?」
「大丈夫ッスよ~! トーニャが頑張ってくれたお陰でこの船の対術・対物理シールドの出力は七割まで戻ってるッスから。それだけあれば逃げるのに十分ッス」
「でも、逃げても追いかけてくるんじゃないのか? 相手も遺失船なんだろ?」
俺がそう言うと、サイファスは自信満々といった様子でニヤリと微笑んだ。
「あはは、楽勝ッスよ! 相手は打撃力に特化した炎の大精霊を擁する船『セスランス』ッス。その上炎の大精霊グランヴォルカは強制の術で無理矢理従わされ、本気を出せない状態ッス。かたやこちらは正式な契約を結んだ何の縛りも無いこのサイファス様! しかもこっちは機動性重視の船ッスから!」
「なるほどね」
向こうは炎で攻撃重視。こっちは風で機動性重視。分かりやすい。
「まぁ低火力なんで沈めるのは難しいッスけど、こっちは戦争したいわけじゃないッスからね。コーイチも急いでブリッジに行くッス。皆心配してるッス」
「分かった。助けてくれてありがとう!」
「また気軽に来るッス! 他の皆もよく遊びに来てるッスから!」
通路に続く分厚い扉はいとも簡単に開く。サイファスが何らかの方法で制御しているのだろう。
俺は微妙に振動する廊下を小走りで進み、ブリッジへ急いだ。
「来たわね! 念のため席について、ベルトで体を固定してちょうだい!」
ブリッジに飛び込むと、メルティナが席に座り、前を向いたまま言った。
「私の隣が空いてるよ!」
俺はミランダに言われるまま空席に座り、ベルトを締めた。
ブリッジに備え付けられたその他の座席には、すでにソフィとトモエが座っていた。
「サイファス様に助けてもろたんやろ? 良かったわぁ」
「何一つ良くない!! なんでそんな呑気なのだトモエは!! アイツら、余のし、し、下着が入った引き出しまでまさぐりおって! そんなトコに人が隠れられるワケがなかろうが!! 不敬罪で処刑ものだぞ!? その上今は砲撃までしてきおって!! 余がし、し、し、死んだらどうするつもりなのじゃ!?」
ソフィはトモエの態度に噛みつきながら、青ざめた顔で全身をぶるぶると震わせている。今の状況がよほど怖いらしい。
俺も怖いことは怖いのだが、サイファスにさっき楽勝だと言われたばかりだからか、心に余裕ができてしまっている。
「大丈夫やソフィ。サイファス様が守ってくれてはる」
「あんなんが大精霊とか、余は未だに信じられんのだがな!」
うん、気持ちは分かる。
「それこそ不敬だぞぅソフィちゃん! サイちゃんは偉大なる大精霊だぞ!」
その偉大なる大精霊を、今愛称で呼んだよねミランダさん?
「あのクソアマ、ここで叩き落としてやりたいとこだけど、流石にそこまで帝国に弓引く訳にも行かないからね……歯がゆいけど! ここは全速力で離脱するわ!」
クソアマというのはミレイユのことだろうか? メルティナは大層お怒りのご様子……怖い!!
「高速巡航形態、第一段加速! 加速終わるまで舌噛むから黙ってて!」
無言でミランダの方をみると、彼女も無言のまま俺に向かってこくこくと頷いた。
小さな揺れが断続的に続く中、ブリッジの真正面の空中に、超巨大な魔方陣のような物が出現した。
船が徐々に魔方陣に近付いていき、魔方陣と接触した瞬間。
「んいいぃぃぃぃぃ!?」
超加速が俺を襲った。
こ、これが所謂Gというやつだろうか? 体が椅子に張り付けにされると同時に、全身の血液が背中側に押し流されるのを感じる。
こんな感覚、ジェットコースターでもなかなか味わえないぞ!
船体の揺れも小刻みなものに変わった。
視界の端が暗くなり始めたところで段々と加速が緩んできた。
「った~……! この急加速! 何回やってもスリル満点だね!」
ミランダが実に楽しそうに感想を述べる。
一方ソフィは顔を真っ青にして深呼吸している。
「はいソフィ、吸ってぇ~、吐いてぇ~」
「すぅ~、はぁ~」
「吸ってぇ~、吐いてぇ~。吐いてって言うてるけど、こないだみたいにゲロは吐いたらアカンよ~」
「お、おま……余計な事を……ウプッ」
ソフィは口を手で押さえて必死に堪えている。
頼む、負けるなソフィ!
「それで、これから予定通りに帝国の港町に向かうんですか?」
俺は帝国国境空挺騎士団から逃げ切って一息ついているメルティナに訊ねた。すると意外な答えが返ってくる。
「いえ、予定を変更して別の街にいくわ。さっきミレイユに帝国の通商許可証や船舶登録証を取り上げられたから、そもそも帝国にいる事すら出来ないわ……はぁ~」
深いため息。
「す、すみません……僕を庇って下さったばかりにこんな状況になってしまったのでしょう? 本当に申し訳ない……」
そう、話の内容を聞く限り明らかだ。騎士団はこの船が異邦人である俺を救助したと聞きつけてやってきた。
しかしメルティナは俺を騎士団に突き出さなかった。
お陰で騎士団に疑われる羽目になったのだ。
「はは、良いってことよ。コーイチはこの世界に来たばかりだから、もっと色んな人や場所、国を見てから身の振り方を考えてもらいたかっただけ。あそこで帝国に渡してたら、彼らは貴方を二度と手離さないでしょうからね……って、もしかして騎士団と一緒に行きたかった?」
俺は自分の顔の前でブンブンと両手を振った。
「とんでもない! あんな強引な事をする人達に連れていかれるのは正直怖いですし、言うことを聞かなかったらどうなるのかも想像がつきますから。助けて頂いて本当にありがとうございます!! いつかきっと……必ず何かお礼はします!」
「お礼……か……」
メルティナは脱力するように深く椅子に体を預け大きく一つ溜息をつくと、再び体を起こして神妙な顔で俺の方を向いた。
「コーイチってさぁ……お金儲けとか得意?」
「は?」




