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船大工のゲンさん

「そうッスねぇ……」


 サイファスは顎に指を当てて中空を見上げた。過去を思い出しているのだろうか?


「この船は「遺失船」といって、古代遺跡から発掘され修復された、当時のオーバーテクノロジーが使われている世界でも貴重な船ッス。まぁ私はその古代からここにいるんスけど、正直その頃の事はもうそんなに覚えてないッス。ただこの船がドワーフの国で発掘され、新しく船体を建造する事になった時、これを担当する技師達の中心人物に、異邦人が混じっていたッス」


 遺失船、確かさっきの騎士団も遺失船に乗っているって話だったな。


 この船がオーバーテクノロジーの塊だというなら、やはり船を降りてみないとこの世界の本当の姿は見られないということだろうな。


「皆その人の事はゲンさんと呼んでいたッス。ゲンさんは中年のおじさんで、元の世界でも船を造っていた技術者だったらしいッス。これまでに無かった異世界の技術の数々をドワーフ達に伝えてこの船を作り上げたッス。この部屋の内装を整えたり、異世界の文化を最初に教えてくれたのもゲンさんッス」


 なるほどな。どうりでこの部屋だけ世界観がおかしいわけだ。


「ゲンさんは異邦人だったから「ギフト」も持っていたッス」


「ギフト?」


「そうッス。異邦人がこの世界に来る時に授けられる規格外の能力ッス。コーイチも持ってるはずッス。例えばそう……さっき船が魔光雷の直撃を受けそうになった時に守ってくれた力とか」


 やはり。あれはそういう不思議な力が俺に授けられていたのか。なんだか気持ち悪かったが、これで納得が行った。


「心当たりはある。体の内側から不思議な力が急に湧いて出たんだ」


「フゥム、強力なシールドを作り出す能力ッスかね? やけにシンプルな能力の割に、コーイチの中にはかなり強い光が見えるんスけど……」


「俺の力が見えるの?」


「大精霊ッスから! 私達には物質的なもの以外の目に見えないエネルギーを見る力があるッス。実際どんな能力なのかはもっと使って、鍛えてみないと分からないッスね」


「鍛える? そんな事できるのかい?」


「できるッス。というか鍛えておかないとダメッス。いざという時にその力が身を守ってくれるはずッスから! なんなら私が指導してあげるッス!」


 ギフト……異邦人に与えられる不思議な力、か。


「因みにそのゲンさんは、どんな能力を持ってたの?」


「ゲンさんの能力は「工具創造(クリエイトツール)」という名前で、ゲンさんの欲するあらゆる工具を一時的に出現させる能力だったッス。最初は金づちとかのこぎりとか単純なものしか出せなかったッスけど、その内チェーンソーとかインパクトドライバーとかプラズマ切断機とか出せるようになって……最終的にはクレーン車とかショベルカーとかを出して操縦していたッス」


「いや、最後のってもはや工具じゃなくて建機だよね?」 


 しかしなるほど、鍛えるとそこまで能力が伸びる可能性があるのか。ただバリアみたいなものを作り出すだけの俺の能力がここからどう伸びるのかは分からないが、やってみる価値はありそうだ。


「しかし今の話を聞いてちょっと思ったんだけど、もしかして異邦人っていうのはそのギフトを役立てるために召喚されてくるんじゃないのかい?」


 俺はなぜこの世界に呼ばれたのか。


 異邦人は大抵の国では国賓のような扱いを受けると聞いたが、この俺にそれほどの価値があるとは到底思えない。俺に出来ることといえば、アイドルをプロデュースすることくらい。


 しかし「ギフト」だ。


 これを全ての異邦人が漏れなく持っていて、それが極めて国家の利益になるようなものならば要人としての扱いを受け、国家同士で奪い合いが発生しても不思議ではないかもしれない。


「確かに、世間では異邦人といえば「ギフト」というイメージはあるかもッス。強力な力を持つ異邦人は誘拐されたり洗脳されたり、散々な目に合う場合もあるッス。けど……」


「けど?」


「私が思うに異邦人の価値はどんなギフトを授かったかではないと思うッス。それはあくまでオマケとか、急に知らない場所に呼び出した事に対する迷惑料みたいなものだと思うッス。異邦人の本当の価値は、この世界には無い技術や概念を異世界から持ち込み、広める事にあると思うッス」


「この世界に無い技術や概念を、広める……」


「そうッス。ゲンさんがドワーフの国に新しい造船技術や建築技術を教えてくれたように、異邦人達の価値は必ずギフトとは別の所にあると思うッス」


 ギフトとは別の所に価値……。


「俺にも……価値はあると思う?」


「もちろんッス。……私はこの船内で起きた事なら何でも知ってるッス。プライバシーはゼロッス。……コーイチが甲板で叫んでた事も知ってるッス。アイドルはいないかもッスけど、この世界に呼ばれたからにはコーイチにしか出来ない事がきっとあるから、それを探して欲しいッス」


 出会いはふざけたイタズラからだったけど、サイファスは伊達メガネの奥から真剣な眼差しで俺を見つめてくる。


 初対面だというのに、彼女は俺の事を本気で心配してくれているらしい。


 あ、でも初対面なのは俺だけで、船の中の事が見える彼女にとっては初対面な気がしてないのかもしれない。


 まぁそれでも、会って間もない事には違いない。


「心配してくれてありがとう……でも、どうしてこんなに良くしてくれるんだい?」


「……ゲンさんとの約束ッス」


「約束?」


 サイファスは何かを思い出すように、視線を宙に彷徨わせる。


「ゲンさんは、何千年も一人きりでいて心が摩耗しきった私にかまってくれて、異世界の色んなものを見せてくれたり教えてくれたりして、元気付けてくれたッス。私がお礼を言うと、礼はいいから、いつか私の前に別の異邦人が現れて困っていたら、助けてやってくれって言われたッス。異邦人は皆一人ぼっちでこの世界に放り出されるから、俺みたいに心細いハズだからって……」


 うう、ゲンさん、めっちゃいい人じゃん……!!


「だからコーイチ。頑張るッス! この世界で生き抜く為に! そして……私の退屈しのぎの為に!!」


「え?」


「え?」


 うん、絶対退屈しのぎがメインだなこいつ。


 ズズン……。

 サイファスとの会話が一段落したタイミングで何かが爆発したような音が遠くで聞こえた。

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