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009 一番弟子、いろいろバレ始める

「ルチル! あたしが来てやったぞ!」


 ついに赤土の狂犬オーカ・レッドフィールドの試験の時がやってきた。

 彼女の周りに人はいない。

 七人が並ぶはずの場所にはオーカ一人だけが立っていた。

 みな彼女と同時に試験を受けるのを拒んだのだ。


「オーカくん……言葉遣いさえ直せば君に弱点はないのだけどね」


「うるせぇ! それは試験には関係ないだろ! 今日は目にもの見せてやるっ! あの時と一緒だと思うなよ!」


 デシルと会話している時のかわいらしさは鳴りを潜め、闘志むき出しの獣……まさしく狂犬がそこにいた。

 受験生たちは自主的に彼女から距離をとっていく。


(うわぁ……オーカさんやっぱ怖いなぁ……。不機嫌な時の師匠ほどではないけど、そもそも師匠は比べるもんじゃないですし……)


 見守るデシルもこれには苦笑い。

 周りの人間がオーカを怖がる気持ちも少しわかった。

 でも、そんな気性の荒さは彼女の強さでもある。


「いくぞ!」


「来たまえ」


「我が(かたく)なな意思よ、天より降り注ぐ石となりて大地を穿(うが)ち、その強さを証明せよ! 赤土の隕石(レッドメテオ)!!」


 キラッと空に何かが輝いたかと思うと、次の瞬間には巨大な赤い岩が地面に突き刺さっていた。

 ルチルが風魔法を発動し、自分とオーカだけを風の壁で隔離していなければ爆音や粉じんで周囲はとんでもない事になっていただろう。


「ゲホゲホッ! まったく……オーカくんは加減を知らないね……」


「全力を出してこその試験じゃないか?」


 オーカもルチルもまったくの無傷だった。

 オーカは石の壁、ルチルは風の壁を生成しそれぞれ衝撃や破片を完全に防いでいたのだ。

 ただ、隕石の直撃を受けた石柱は七つすべて破壊されていた。

 デシルの時以上に試験会場はざわついた。


「と、とんでもねぇ! やっぱバケモンだ!」

「こんなんと一緒に試験だなんてやってられねぇぜ……」

「クレーターになっちゃってるけどこれからの試験どうなるの?」

「やっべ、石降ってくるの早すぎで見てなかったわ」


 バケモノ扱いはいつもの事として、試験会場の被害は相当なものだった。

 地面はへこみ、その中央には赤い巨石が突き刺さっているのだから。


「うーん、私一人で整地は骨が折れる。応援を呼ぶしかないね……」


 ルチルは他の教師に迷惑をかけるのが嫌なので少ししょんぼりしている。

 それを見ているデシルもなんだか不安な気持ちになった。


(どうしたんだろうルチルさん……。これくらいの整地ができないほど落ち込むなんて……。はっ! もしかして期待してたオーカさんが周りの迷惑を考えずに魔法を使ったから点数が付けられないとか!? それは大変だ! オーカさんが試験に落とされちゃう!)


 いても立ってもいられないデシルはとりあえずルチルの代わりに試験会場を整地しようと思った。

 それでオーカの点数がどうにかなると思わなかったが、少しでも心証良くしたかったのだ。


「ルチルさん! 私が整地しますね!」


「えっ!? ちょっとデシルくん……」


 制止を振り切り巨石に向かったデシルはそれに両手をつけて目をつむる。

 数秒後、巨石は光に分解されデシルの体に吸収された。

 次に地面に手を付け、へこんだ地面を盛り上げる。

 最後に試験に使う白線を引き直して整地は完了した。

 石柱だけはルチルが作る必要があるためノータッチだ。


「ふぅ……こんな感じでどうですかね?」


 やり切った表情のデシルに対して周囲はしんと静まり返っていた。


「あれ?」


「デシルくん……君いったいなにをしたんだい?」


 ルチルに両肩をがっちりと掴まれる。

 彼女の目は今までにないくらい鋭く、デシルは勝手な行動が怒られていると思った。


「す、すいません……勝手なことをして……。でも私……」


「君を責めているわけじゃないんだ! いま魔法を分解して吸収したよね!? それも他人の魔法を! たったの数秒で解析して!」


「え……あっ、はい。でも、時間がかかった方なんですけどね。そんなに時間がかかったら魔法を分解、吸収をしているうちに次の魔法でやられるってよく言われましたから……」


 ルチルは絶句する。

 受験生たちはもはやわけがわからず騒がない。


「デシルくん……そもそも普通の人は他人の魔法を分解して吸収することはできないんだ。他人の魔力は他人の血のようなもので、そのまま取り入れれば体が拒否反応を起こすからね」


「ええっ!? そうなんですか!?」


「さっきの雷球もすごかったよ。あれを余裕で放てる者は受験生どころか自由騎士でも多くはないさ」


「で、でも、あれはみんな手加減して……」


「デシルくんはそうかもしれないけど、この試験を受けているみんなは全力だったんだ。もちろん、手加減した君を非難するつもりはまったくないよ。むしろ手加減してくれなかったら会場が消し飛んでたかもしれないんだからね」


「えっと、つまりどういうことですか……?」


「デシルくんは強すぎるね! 私が君の生徒になりたいくらいだ! ぜひともその魔法を私に教えてくれたまえ!」


「……ええええええええっ!? オーカさん、嘘ですよね!?」


 この事実を信じたくないデシルはオーカに助けを求める。


「あたしの負けだよデシルちゃん……。世界は広い……。何も知らず自分が一番強いと思ってたのが恥ずかしい……。こんなあたしがデシルちゃんの側にいていいのかね……」


「当たり前ですよ! オーカさんは私の友達です!」


「ありがとうデシルちゃん……。早速だけどさっきのすごい魔法をあたしにも教えて!」


「はい! ……じゃないですって!!」


 自分より強い人たちがいると思ってやってきたオーキッド自由騎士学園。

 しかし、その想像は脆くも崩れ去った。

 今この試験会場には武術、魔術においてデシルに勝っている者はいないのだ。


(し、師匠……どうして教えてくれなかったんですか!? 私が他の人よりずっと強くなってるってことを! お手紙大量に送り付けて聞き出してやりますからね!)


 デシルは心の中で叫んだ。

 オーカとルチルに体を揺さぶられながら。

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