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008 一番弟子、実技試験に挑む

「デシルちゃん、実技試験は一緒に回ろうっ!」


「はい!」


 食事と休憩を終えたデシルとオーカ。

 二人がこれから挑む実技試験は、筆記と違い全員一斉には行われない。

 魔法の威力の試験、基礎身体能力の試験、実戦を意識した試験……などなどいくつか試験は存在し、学園の各地に試験会場が設けられている。


 そこを受験生は好きな順番で受けることができるのだ。

 得意なものを先に受けておくのか、得意だから後回しにしておくのかは人それぞれ。

 ただ、受けるたびに魔力や体力は消費されていくので、スタミナに自信がないものにとっては試験をどの順番で受けるのかも重要だ。


「デシルちゃんはなにか得意な事とかあんの?」


「うーん、これと言って得意なものはありません。特別苦手なこともありませんが」


「へー、そうなんだ。じゃ、あたしが一番得意な魔法の試験から受けようか!」


 オーカはそういうとデシルの腕を引っ張って歩き出した。

 それを見るや否や、魔法の試験を受けようとしていた者たちが走り出し、試験会場には長い列ができてしまった。


「ど、どうしてこんなことに……」


「はっ! みんなあたしの後に魔法を見せるのが嫌なのさ! 自分の魔法のみみっちさがわかっちまうからなぁ!」


「は、はは……そうなんですね」


 やっぱりオーカは少し怖い人だと思いつつも、彼女の魔法に対する自信にデシルは感心する。

 何かを極める者はたいてい自信家だ。

 魔法とは想像力、自分はこの程度と予防線を張る者は大成しない。

 「お前は慢心するぐらいでいい。私がいつでもへし折ってやれるから」と師匠も言っていた。

 その結果、心も骨もへし折られ続けてデシルは控えめな性格になったが、決して自分に自信がないわけではない。

 自分に自信がないということは、師匠の教えを信用していないということになるからだ。


(私もみんなをビビらせるくらいの気持ちで挑もう! それくらい自信をもってやらないと、実力者ぞろいの試験を突破できない!)


 決意を新たにするデシル。

 その間にも少しずつ列は進み、試験会場の様子がハッキリとわかる距離までやってきた。


「試験は的当てか。まっ、例年通りだな」


「あの石柱に魔法を当てるんですね」


 試験内容は三十メートルほど離れた場所にある石柱に魔法を当てるというものだった。

 石柱は横一列に七つ並んでおり、七人同時に試験を受けられるようだ。


(あっ、ルチルさんだ)


 ここの試験官は筆記試験の後にぼーっとしていたデシルを心配してくれた教師ルチル・ベルマーチだった。

 彼女は真剣な表情で手に持った紙に何かを書き込んでいる。

 しかし、肝心の魔法を見ていない。


「試験官はルチルか!」


「知ってるんですかオーカさん?」


「あたしにこの学園の受験を勧めに来たのはあいつさ! 雑魚に教わることはないって言ったらボコボコにされた! だからこの学園に来たんだ!」


 乱暴だがシンプルな関係性だった。

 オーカは鼻息を荒くする。

 それをなだめようとデシルは話題を変える。


「ルチルさんはなんで魔法を見ないんでしょうか?」


「石柱はあいつの魔法で作られてて、他の魔法が触れたらその威力を感知し、自分に伝えるように作られているんだ。それを七つ同時とは地魔法使いの私でも恐れ入る」


「実力は評価してるんですね、ルチルさんの」


「負けたもん。認めないのはカッコ悪いってあたしにもわかるさ。だが、それも今日までだ! 目にもの見せてやらぁ! ……その前にデシルちゃんは行ってきな」


「先に行っていいんですか?」


「ああ、あたしの後に試験を受けようとするとおそらく時間がかかる」


 その言葉の意図はわからなかったが、デシルは大人しく次に試験を受ける七人に入った。

 いま、試験を受けている七人はいろんな属性の魔法を放っているが、どれも威力が低いとデシルは思った。


(なぜみんなあんなに威力を抑えてるのかな? 魔法を弱体化するフィールドなんて発動されてないと思うし、どうして……はっ! もしやこの試験は威力だけを見ているわけではない!?)


 デシルは考えた。

 七人並んで試験を行うのは、周りの受験者に迷惑をかけないように威力を抑えさせるためだと。

 周りの被害を考えず高威力の魔法を放つ者は自由騎士にふさわしくない。

 だから、みんな威力を落として魔法を放っているのだ。

 ただ、普段からすごい強い魔法を使いすぎて威力を抑えるのが上手くいっていないだけなんだ。


(流石はオーキッド学園! 裏の試験内容まで察しろと言うことですね!)


 デシルは学園側の思惑を見抜いた気がして少し得意げだった。

 そして、そのルールを守った上であの石柱を破壊してやりたいと思った。


(暴走するのは気を抜いてる時だけ。制御することに集中すれば、あの石柱だけを完全に破壊することくらい私にもできる!)


 デシルを含めた七人の順番が来た。

 緊張の面持ちであるほか受験生と違い、自信満々の表情でやってきたデシルを見てルチルも「ほぉ」と感心する。


(大人しそうな子だと思っていたけど、なかなか自信家のようだね。あのオーカと仲良くお話してくれてたみたいだし、ぜひとも二人で合格してほしいものだ。とはいえ、まったく贔屓する気はないよ。実力主義による平等がオーキッドの理念だからね)


 顔を引き締め、ルチルはあらためてルールを説明する。


「あの石柱に向けて全力で攻撃魔法を放つだけだよ。破壊してもらっても構わない、できるならね。チャンスは三回。その中で一番良かったものを成績として採用するから安心して励んでくれたまえ」


 説明が終わると同時にピッと笛が吹かれた。

 スタートの合図だ。


(威力を抑えてちょうどあの石柱を破壊できるくらいの……)


 デシルは手に閃光がほとばしる雷の球体を生成。

 それを誰よりも早く目標に向かって放った。

 雷球は残像を残しながら石柱に直撃。それを粉々に砕いた。


「よしっ!」


 思った通りの結果を得られたので、デシルは腕を振り上げて喜ぶ。

 しかし、デシルの魔法を見ていた他の受験生たちは大きくざわつく。


「試験に使われる石柱って、壊せというくせに壊せないように作ってあるって知り合いの在校生に聞いたけど……」

「拡散しやすい性質を持つ雷魔法を一瞬でハッキリとした球体に……」

「詠唱してないじゃん」

「それに普通の雷魔法より光り輝いていたような……?」

「オーカに気に入られてるだけあるな……。あいつレベルがもう一人なんて今年は最悪だ……」

「やっべ、魔法撃つの早すぎで見てなかったわ」


 驚いていたのは受験生だけではなくルチルも一緒だった。

 彼女は騒ぎこそしなかったものの、教師としてデシルの魔法をより深く観察していた。


(発動も早い、威力も高い……。なによりもデシル君自身に余裕が見られる。詠唱は使い慣れた魔法や自分にとってレベルの低い魔法ならば必要ない。つまり彼女にとってあの程度の魔法は慣れたものか、レベルが低いということか……。それがとんでもない事だって彼女自身は理解しているのかな?)


 周囲のざわつきを自分がルール違反をしたのではないかと勘違いして震えているデシルを見て、ルチルは『理解していないな』と確信した。


「デシルくん、お見事だったよ。君は石柱を破壊したから魔法は一発だけで構わない。これ以上の点の付けようはないからね。気にせず次の試験に向かってくれたまえ」


「は、はい! ありがとうございました!」


 デシルはさっと移動し、少し会場から離れたところで待機。

 オーカの試験を見守る。


(ふふっ、どうやらデシルくんには先生と呼んでもらえそうだね)


 デシルの魔法を見ても先生としての余裕を見せるルチル。

 あの程度の雷魔法なら教師であると同時にAランク自由騎士である彼女にもできるのだ。

 しかし、そんな彼女が余裕を失う事件はオーカの試験後に起こった。

 もちろんデシルの手によって……。

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