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068 一番弟子、一つの結果

 授与式当日、デシルたちは王城の控室で衣装のチェックを行っていた。

 といっても、デシルたちは学生なので正装といえば制服だ。

 今回勲章の授与に至った出来事も、学園の期末試験をこなしている最中に起こった。

 まさに制服はこの場にふさわしい衣装だろう。


 アズールも騎士なので騎士の制服を着ていればいい。

 問題は自由騎士であるラーラであった。

 『深山の山猫』に制服は存在しない。

 彼女は何を着ていいか授与式を直前に控えた今になっても決められずにいた。


「あははははは! まさかこの私に勲章が授与される日が来るとはね~。なーんも正装なんて用意してなかったわぁ! こうなったら私も学生時代に来てた制服を引っ張り出そうかしら? まだギリギリ現役で通せると思わない?」


 みな同意を求められても困った顔をすることしかできない。

 流石に無理と面と心の中で思っていても、面と向かって言うことはためらわれる。

 ラーラは八割ほど本気で現役で通せると思っていそうだからだ。


 結局、自由騎士として最も正しい服装は活動している時の衣装だろうという意見が出たので、ラーラはまさかの普段着で式に出ることになった。

 一見ふさわしくない服装かと思いきや、三人娘もアズールもあの戦いの時の服装なので案外これが正解のように思えた。


 そして、式は開かれた。

 謁見の間にはきらびやかな服装の紳士淑女、磨き抜かれた鎧をまとった騎士たちがずらりと並ぶ。

 デシルたちはぎこちない足取りでその視線の中を歩く。

 現役の騎士ならばまだしも、学生である少女が三人も勲章を授与されるのは前代未聞のことである。

 みなじっくりと三人娘を見つめる。

 ついでに顔面蒼白で今にも倒れそうなラーラにも注目が集まっている。


(むりむり……きっつい……。こんなとこ歩けないよ……。わたしだけそんなすごいことしてないよ……)


 こういう状況はダメなラーラ。

 ふらつきながらも一歩一歩進んでいく。

 それを見てすでに涙を流しているのは、関係者として式に呼ばれたアルバだった。


(まさか俺の騎士団から勲章を授かる騎士が現れるとはなぁ……。それも団長である俺よりも先に……。いや、今回ばかりは素直に嬉しさが勝つぞ! おめでとうラーラ!)


 対照的に泣きそうで泣いていないのは用事を済ませて国外より帰還したルチルだった。

 彼女は祝福をしつつも、涙は卒業までとっておこうと思っていた。

 教師は生徒の前であまり涙を見せるものではない。

 とはいえ、こらえるのに必死なのは間違いなかった。


(デシルくんは元から立派な子だった。でも、また何歩も成長したみたいだね……。ヴァイスくんは夢の第一歩だ。彼女の夢は異なる種族をつなぐこと。夢を叶えた時にはまた勲章を授かるだろう。そして、オーカくん……君が誇らしそうな顔をしているのが私は何よりも……)


 学園長マリアベルもまた、胸にくるものがあった。

 それはデシルを通して見える師匠シーファの姿だ。

 かつての友の教えが、たくさんの人々を救った。

 そして、祝福を受けている。この事実が何よりも嬉しかった。


(シーファ……ここにはいないけど、この祝福はあなたへの祝福でもあるのよ……。デシルちゃんを育ててくれて、ありがとう)


 デシルたちは玉座の前に並び立つ。

 そして、国王エンドールが一人一人に勲章を渡していく。


「アズール・マリガン」


「はっ!」


「変わったというよりも、初心を思い出した……といった感じだな。今のお前がいるならば、この国が亡ぶことはない。これからもこの国に仕えてくれ。この度は大儀であった」


「一度死なねば治らなかった愚か者には、身にあまるお言葉です。このアズール、命を散らすことなくこの国を守り続けることを誓います。永久に」


 アズールの一言一言で場の空気が引き締まる。

 その存在感とオーラは明らかに以前より鋭くなっていた。


「ラーラ・ラービット」


「……あっ!? は、はひっ!」


 放心状態だったラーラはエンドールに名前を呼ばれて我に返る。

 そして、その顔はまた青くなる。


「だ、大丈夫か?」


「す、すいません……。国王様にお気を遣わせてしまって……。ここに相応しくないのはわかっているのですが……」


「そんなことはない。そなたの判断がなければ敵のアジトを発見することはなかっただろう。通常ならば学生を連れて依頼内容に入っていないことは行わない。しかし、今回連れていたのは普通ではない学生たちだった。冷静な戦力分析と状況判断力は勲章にふさわしい働きだ。まことに感謝する」


「あっ、ありがとうございます!」


 判断だけではなく、ラーラは果敢に戦った。

 何度も空に跳びあがっては地面に叩き落され、それでも戦い続けて飛行する恐竜のすべてを倒したのは功績以外のなにものでもない。


「ヴァイス・ディライト」


「はい」


「私も君のことは聞いている。その小さな体に大きな使命を背負っているのだな。この勲章はきっとその使命を果たす一つのカギになる。受け取ってくれ。そして、この国を守ってくれてありがとう。吸血鬼の姫君よ」


「とても光栄です……。この勲章は私だけでは決して頂けなかったものです……。人間の友達と一緒だったから授かったもの……。だからこそ、一族にとって意味があるのです……」


 ヴァイスの一族を人間と共存させるという夢はここで終わらない。

 ここからが本当のはじまりだ。


「オーカ・レッドフィールド」


「ハイッ!!」


「うおっ、相変わらず元気な子だ!」


 国王も授与式モードから普段のフランクな口調に戻る。

 そんな柔らかな魅力がオーカにはできつつあった。


「私はこう見えても国のうわさには敏感でな。君のことも出会う前から耳に入っとったよ。初めて会った時はうわさ通りの子だと思ったものだ。今の自分の実力を理解してはいるが、それを認めたくなくて誰にでも牙をむく。まるで毛を逆立て猫のようだった……というと言いすぎかな?」


「むしろ猫なんてかわいすぎですよ。みんなはあたしのことを狂犬と呼んでたんですから。まあ、あの頃に比べれば丸くなったと思います。素直に格上だと認められる友達も出来ましたからね。あ、今はもちろん先生も尊敬してますよ」


 オーカはチラッとルチルの方を見る。

 ルチルは恥ずかしがって顔を手で隠してしまった。

 昔に比べれば素直な子になったものだと誰もが思っている。


「ただ、狂犬の二つ名を返上する気はありませんよ。あたしは『赤土の狂犬』を一人前になってからも使うつもりですから。一流の騎士ってのは学生時代から逸話を残しているもんです。でも、私の場合は学生になる前から逸話の残してる。この二つ名はあたしの騎士人生そのものを表す言葉にするつもりです」


「ふっ、いらぬところまで丸くなっていないようで安心した、と言わせてもらおうかな」


「どーもです。それに、なんか狂犬の二つ名を否定すると今までの自分を否定してるみたいで嫌になるんですよ。必死だったころのあたしだってあたしだし、誰かが悪く言ってもあたし自身が否定するもんじゃないかなって。それも全部あたしは背負っていくっていう覚悟の表れ……みたいな。ガラにもないこと言ってますかねぇ?」


「いや、それでこそ赤土の狂犬だ!」


 オーカはこれからも壁にぶつかるだろう。

 しかし、彼女ならばそれを乗り越え……いや、ぶち壊して進む。

 誰も狂犬を止めることは出来ない。


「デシル・サンフラワー」


「はい!」


 最後に名前を呼ばれたのは、今回の王都襲撃事件で最も大きな働きをしたデシルだ。

 謁見の間の空気が変わる。


「まずはありがとう。君がいなければこの国は滅んでいたかもしれない。そう言うと君は謙遜すると思うが、それが王として私が下した判断だ。だから、君には特別な勲章を与える」


 今までの四人には『薔薇(ばら)の勲章』が送られていた。

 デシルに送られるのは薔薇よりも上の勲章……黄金に輝く『向日葵(ひまわり)の勲章』だ。


「この国で一番の勲章だから、もっと慎重に与えるか判断するべきという声もあったが、今ここで君にピッタリのヒマワリを与えずにどう感謝を伝えられようかというものだ。遠慮も謙遜もすることなく受け取ってほしい。そして、自分自身の素晴らしさをもっと知ってほしい」


 デシルは輝く向日葵の勲章を手にした。

 口からはクセになっている謙遜や遠慮の言葉が出ていきそうになる。

 それをグッと飲み込み、彼女は言葉を紡いだ。


「今日は遠慮も謙遜もしないようにします。勲章にふさわしい行動をしたのだと、私自身が認めるために。でも、感謝はさせてください。私が自分の力を人のために使おうと思ったのは、学園の先生や友達、行事を通して出会ったみなさんのおかげです。だから、お礼を言わせてください。私を導いてくれたみなさんに、そして……」


 その名を口に出すことに、もはや抵抗はなかった。


「私を育ててくれた師匠シーファ・ハイドレンジアに」

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