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059 一番弟子、恐るべき怪物と戦う

「ふっ、我ながら恐ろしいものよのぉ……。あんな怪物を人間にけしかけるのだから」


 クランベリーマウンテン山中。

 黒地に金のラインが入ったローブを着込んだ男が一人。

 彼もまた犯罪集団『病魔の鉄鼠』の仲間だ。

 少なくとも今回の作戦では。


「古代兵器……改造竜種『恐竜』タイプ:ティラノ……。もっとも獰猛で破壊することしか考えられぬ竜よ。いくらお前でもどうにもなるまい……A級自由騎士ルチル・ベルマーチ! ククク……」




 ● ● ●




「さて、どうしたものかね……」


 ルチルは武器である教鞭で手を軽くたたいて考える。

 敵は竜種。しかもより戦闘に特化された恐竜だ。

 ただの竜ならばルチルを中心にアルバたち『深山の山猫』と協力すればなんとかなる。

 Aランクの騎士とはそういうものだ。


 しかし、今回の相手は竜種以上。

 セオリー通りの戦い方は出来ない。

 それに『深山の山猫』の団員たちは生徒を保護するために散ってしまっている。


「二人で仲良くと行こうか。学生時代みたいにさ!」


 アルバが武器であるハンマーを構える。

 優しい性格とは裏腹に、身長以上もある戦鎚を振り回すのが彼だ。


「それが今この状況では一番だろうね」


「そうこなくっちゃ!」


 アルバが恐竜ティラノの懐に入る。

 意外にも簡単にもぐりこめた。


「顎が発達しているし図体はデカいが、その割に足の大きさがお粗末じゃないかね!」


 巨大モンスターを相手にするときのセオリーである足を狙うアルバ。

 彼のハンマーが炎を噴き上げる。


爆炎破壊鎚(バーニングバーンズ)!!」


 爆発の勢いで加速したハンマーがティラノのちょうど人間でいうくるぶしの部分、足間接にクリーンヒットする。

 これまた大きなモンスターを相手にするときに有効である間接狙いだ。

 大きくても生物である以上、目や関節などの弱い部分は基本的に共通している。


 ただ、その弱点を突いたとしても効果がない場合がある。

 単純に威力不足の時だ。

 彼のハンマーは恐竜にとって足を指で突かれた程度でしかない。


空気針(エアロニードル)!」


 ルチルもまた弱点である目を圧縮された空気の針で狙うも刺さらない。

 空気で出来た針など弱そうに聞こえるが、簡単な金属の鎧くらいならば簡単に貫通する魔法だ。

 それを連射しても目を潰すことすら出来ない。


「ルチル……ダメかもしれないね」


「リーダーが安易に弱音を吐いてはいけないよ。士気が下がる」


「ああ、すまない……。気分まで学生に戻っていたよ。君といた時は、困ったら君がなんとかしてくれていたから」


「今回もなんとかなるならしたいのだけどね……」


 攻めあぐねる二人を見ているのか、そうでないのかわからない恐竜。

 しばらく硬直してから天を仰ぐと、その口に大きな炎をため込み始めた。


「お、おいおい! ここが自然豊かな山だってわかっててやってるのか!? 炎なんて吐かれたらこいつだって焼かれることになるのに! それにこいつを放ったであろう悪党どもも仲良く燃えるぞ!? ちゃんと調教できてるのかよ!?」


 慌てふためくアルバなどお構いなしに、炎は天へと吐き出され、流星のごとく地上を焼く……はずだった。

 しかし、山に着弾するギリギリのところですべてが炎の塊が消し去られた。

 同時にルチルが崩れ落ちるように地面に膝をつく。


「ル、ルチル!? 君がやってくれたんだな!? でも、どうやって」


 過呼吸状態の彼女は返事ができない。

 それだけ膨大な魔力を消費したのだ。


 その魔法とは『真空魔法』。

 空間を一時的に真空状態にする危険な魔法だ。

 禁術として一般的な使用は禁止されているが、そもそも使える者が少ない。

 使えたとしても一瞬で、人間は真空状態で一瞬は耐えられる。

 攻撃に転用できる者、しようとする者は共にいなかった。


 ルチルもまた同じで、攻撃に使えるほど極めてはいない。

 しかし、真空魔法は防御には適している。

 術者の手から離れて魔力の供給を受けていない魔法ならば一瞬で消し去れるのだ。

 そして、今回のような魔法ではない炎そのものは空気の供給がなければ燃えない。

 だからルチルは巨大な炎でも一瞬で消し去れたのだ。


 生徒を守るために学んだこの魔法で、生徒を守ることに成功した。

 だが、ティラノ自体は未だに健在。まだまだ炎を吐ける。

 広範囲に真空魔法を展開したルチルはもう戦えない。


 たくさんの生徒を守りながら戦うのでなければ、彼女ももっと戦えただろう。

 しかし、彼女は教師だ。その想定は無意味。


(情けないが……もう君に頼るしかない……。デシルくん……!)


 ティラノが再び天を仰いだその時、地上に稲妻が走った。

 そして……。


「フルボルテージブロー!!」


 ティラノの腹に決まったボディブローがその巨体を天へと吹っ飛ばす。

 そんなことができるのは、デシル・サンフラワーしかいない。


「大丈夫ですか!? ルチル先生! アルバ団長!」


 すさまじい威力の魔法を放っても息一つ切れないスタミナ。

 人を気遣う心。

 ルチルとアルバは心底安心感を覚えた。


「ああ……ちょっと無理してしまったがね……。情けないことに……しばらく戦えそうもない……。後を頼むよ……デシルくん!」


「はい! 任せてください! あの師匠の弟子だから得意なんですよ。ただ敵を倒すだけの魔法は……!」


 デシルの体が赤く発光する。

 体内で魔力が加速し、どんどん練りこまれていく。


戦闘形態(バトルモード)、電光石火……!」


 赤い稲妻が体中からほとばしる。

 ポニーテールがほどけ、赤と金が入り混じった長い髪が触手のように揺れる。


(いなずま)の荒さ……!」


 刀を抜き、天に掲げる。


「光の速さ……!」


 刀の先端から稲妻が天に向かって落ちるように伸びていく。


「石の硬さ……!」


 赤い稲妻は空中の恐竜に刃のように突き刺さり、貫く。


「火の熱さ……!」


 恐竜の巨体が発火し、燃え尽きていく。


天に昇る落雷ヘブンリー・サンダーボルト!!!」


 破壊の大魔法をその身に受ければ恐るべき竜とて命はない。

 最後には焼け焦げた骨のみが地上へと落ちて砕け、灰となって山々に散っていった。

 それを見届けたデシルはうーんと背伸びをする。


「はぁ……流石に電光石火状態で大魔法を使うと体に負担がかかります。でも、みんなを守れたので良しです! さあ、残った悪い人たちも倒しましょう!」


 グッと親指を立てるデシル。

 その姿に鼓舞され、ルチルは生徒を守るために再び立ち上がろうとする。


「その必要はないよ! 先生!」


「はっ……君たち!」


 山頂に現れたのはデシル以外のOクラスの全生徒、十九名だ。

 みな、突然の襲撃をはねのけてここまで登ってきた。

 誰一人として命を落としたものはいない。

 全員自分の脚で立って歩いてきた。


「わからないことも多いけど、とりあえず全員無事に山頂に到着! これで林間学校の全プログラムは終わりだね」


 オーカの言葉にルチルはうなずいた。

 彼女にもいろいろ言いたいことはあったが言葉にならなかった。

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