052 一番弟子、陣取りに挑む
「では、休憩も終わったようだし、これから始めるゲーム……じゃなかった訓練の説明を始めるよ」
生徒を集め、騎士団長であるアルバは言った。
訓練内容はルチルと共に考えたのでルチルが説明してもよいのだが、それでは普段の授業と同じで林間学校感が出ないということでアルバに任された。
団長なのに人前で話すことにすごく緊張するアルバはカチカチになって説明を進める。
といっても、その説明自体は単純なものだ。
これから行うのは四人対四人の陣取り。
山中に作られたフィールドの中に設置された自チームの石柱が砕かれないように守りつつ、相手チームの石柱を砕けば勝利である。
四人というのはパーティのを作るうえでの最低数だ。
この人数で上手く動けないとより多くで動くことは難しい。
団員が頑張って調整してくれたフィールドは広い。
激しい傾斜やたくさんの木々、川が流れていたり岩場があったりとあらゆる状況での戦闘を考えなければならない。
総じて学園にいた時よりも実戦的な訓練と言えるだろう。
「フィールドの地図は試合開始五分前に渡すよ。相手の石柱の場所は書かれていないのであしからず。五分しか準備時間がないのは、実戦だと素早く状況を判断する必要があるからだよ。地形を把握して素早く作戦を立てるんだ。四人しかいないからそこまで複雑な作戦は無理だけど、それでも何も考えないで動くのは無謀さ」
速攻に自信があるなら四人で攻めるのもいい。
この場合、敵より先に石柱を発見しなければ負けるので索敵能力も必要だ。
序盤は四人で守りを固めるのもありだ。
突っ込んできた敵を数の力で返り討ちにしてから攻めるのも面白い。
安定なのはやはり攻撃と守備に役割分担することだが、これが正解になるかは相手の出方次第だ。
「じゃあ、一番手の班の子たちはフィールドに入って。団員も一番手に選ばれてる人は速やかにフィールドへ。かわいい後輩を待たせないように」
アルバの指示でデシルたちの班は全員バトルフィールドの初期地点、つまり壊されてはいけない自チームの石柱の前にやって来た。
この石柱は入学試験の時にルチルが使った石柱ほど硬くはないが、魔法の流れ弾がかすった程度で壊れないくらいには硬い。
生徒ならば本気の魔法をクリーンヒットさせる必要がある。
「さぁ、どうしましょうか! 作戦を立てましょう!」
試合のサポートをしている団員から地図を受け取って作戦会議が始まった。
話を切り出したのは実質的にリーダーであるデシルだ。
「まず相手の戦力ですが、私が一番強い団員さんと戦いたいって言ったせいで強い人ばかりです! 団長さんはいませんが、学園に来てたあのラーラさんが入ってますよ!」
「あのへんなテンションのおば……お姉さんか。見た感じ相手の中では一番強いよ。Bランク自由騎士の力は侮れないね。優しく手加減する性格にも思えないし」
「じゃあ……デシルが相手をするのが良いんじゃない……? まあ……相手の中では強いと言ってもデシルとは比べ物にならないでしょう……」
「あ、私今回はルチル先生から手加減しろって言われてるんだった!」
ヴァイスの提案を聞いてデシルはハッとする。
彼女は今回地形を変えてしまうような派手な魔法は禁止されているのだ。
その他にも雷と光の魔法も禁じられているし、空を飛んでもいけない。
というか一般的な属性魔法は全部禁止されている。
「それでどうやって戦うおつもり? いくらデシルさんが強いからって、それではプロの自由騎士の相手は……」
「あ、大丈夫だと思いますよ」
「へ?」
キャロの心配をよそにデシルはけろっとした顔をしている。
「強化魔法は許されてますし、武術は使っても問題ありません。この状況でルチル先生レベルを相手にしろと言われるとちょっと悩みますけど、おそらく相手の騎士団員さんくらいなら……言い方は失礼ですけどね」
「ああ……そう……。ルチル先生でもちょっと悩むで済むのがすごいですわ、デシルさんって」
額に手を当てるキャロ。
その肩をオーカが抱いて耳元でささやく。
「今のうちに慣れといた方が良いよ。デシルと仲良くなると驚くことばかりだし」
「ええ……そうしますわ。私も夏休みには家族が驚くくらい強くなって帰るつもりですから、ちゃんとデシルさんを見ておかないと」
「その意気だ! 意外と根性あるじゃん委員長!」
「なければこんな優秀な班に入りませんわ!」
「で、作戦はどうしますか?」
会話が終わったところでデシルが話を本題に戻す。
時間はもうあまりない。
「すまん! あたしはこういう頭を使うの苦手! だから、みんなで突っ込まない?」
オーカは案の定脳筋思考である。
「そうね……。地形は今回のために変えられているとはいえ……山そのものは騎士団員の人の方が慣れてるわ……。速攻戦術は基本的に不利だと思う……。デシルが本気ならそれでいいけど……体術中心では一人倒すのにも時間がかかるわ……」
ヴァイスは冷静である。
彼女もいずれ多くの血族をまとめる身だ。
意外と戦術指揮は上手いのかもしれない。
「ここは座学二位の私にお任せあれ! えっと……まずは紙とペンを用意してくださる?」
「そこまで時間ないですよ!?」
キャロは頭は良いが、同時に頭が固い。
臨機応変にとはいかない。
「じゃあ、ヴァイスさんの案を聞きましょう! それでいいですね?」
もう時間はわずか。
誰も異を唱えなかった。
「じゃあ……私の考えた作戦を……」
頼られたことが嬉しいのかヴァイスは少し得意げにその作戦を語り始めた。
● ● ●
(さて、団長曰く今年のオーキッドは強いって話だけど、流石にこの訓練は俺たちに有利過ぎたんじゃないか?)
団員の男は魔法で生徒チームの石柱を探りつつ、森の中を進む。
流石はこの山を普段から訓練場所にしてる騎士団の団員、その足取りは軽快だ。
これで彼自身はまだまだ若手と言うのだから、アルバは良い人材を揃えている。
(地形は俺にとっても初見だが、山という環境自体には慣れてるしな。こりゃ手加減した方が後から仲間に冷やかされなくていい感じかな?)
彼の余裕は次の瞬間消し飛んだ。
唐突に魔力の存在を感知したからだ。それもすぐ近くに!
「だ、誰だ!?」
思わず叫ぶ彼の前に、その少女は現れた。
小細工なしに正面から突っ込んでくる。
「うわっ!?」
驚きつつも訓練用の剣を構えて応戦する団員。
流石に実戦を潜り抜けているだけはある。
怯えて戦いえないということはない。
しかし、冷静ではなかった。
「やぁっ!!」
少女の手刀で手首を打たれ、剣を取り落とす。
とっさに距離をとって得意の風魔法をばらまいて不利な状況をごまかす。
だが、その時には少女の姿はなかった。
「気配は……消えてる!? そんなバカな!? 俺の感知魔法にひっかからない学生なんて……」
「無意識に索敵範囲を地上だけに絞っているから引っかからないんですよ」
彼が「上か!?」と言いかけた時には、少女の手刀が首筋に決まった。
全力で手加減されたその手刀でも彼の意識はとんでしまった。
「やっぱり途中まで気配を消して近づいたのがまずかったでしょうか。驚かせてしまったから団員さんも冷静な戦い方ができなかったように思えます。でも、師匠に指導を受けた気配遮断の魔法を鍛えたかったですし……」
少女デシルはすぐに反省点を探す。
とはいえ反省点は騎士の男性に状況を理解させぬまま倒してしまったことである。
状況を理解して戦わなければ成長はないのだ。
彼から成長の機会を奪ってしまったのではないかとデシルは思っていた。
「いや、私が誰かを成長させるなんてうぬぼれてますね! 友達ならまだしもプロの騎士さんをだなんて! 今は試合中なんですからできる範囲で全力でいいんです!」
答えを出したデシルは感知魔法をフィールド全体に広げる。
無論、逆探知できないように工夫をこらして。
(むむむ……うわっ! まさかあっちのチームさんは四人全員で攻めですか!? 確かに地の利がある以上それが一番ですけど……。本気なんですね!)
生徒相手に本気を出してくれるのは嬉しいことだ。
それだけ実力を認めてくれているということだから。
(この位置だとヴァイスさんがラーラさんとぶつかりそう。それと自陣を守ってるオーカさんとキャロさんが騎士団員さん二人と戦うことになりそうですね)
デシルは少し考えた結果、助太刀に向かわずこのままゆっくりと敵陣に向かうことにした。
理由は一つ。その方が友達の成長につながると思ったからだ。
(真剣勝負ならば助けに入ります。でもこれは授業なんです! オーカさんが、ヴァイスさんが、キャロさんが強くなることの方が勝つことよりも大事です! だから、無気力試合と言われようが私は助けに入りません!)
自分が悪く言われようとも友のために……デシルの決意は固い。
ただ、試合を観戦している生徒や団員たちは、デシルが静観の姿勢をとったことを非難するどころか心底安堵していた。
(ひぃ……俺でも勝てないなぁやっぱ……)
アルバもまたホッとしていた。
団長が一日目から生徒にボコボコにされるのは、いくらデシルが規格外とはいえこれからの林間学校に影響が出そうだったからだ。
主にアルバのメンタル面において。
(それにしてもあんな子を目の前にしてよく戦ったよあいつも。よく頑張った! まあ、実力差がありすぎて、近くで見ても恐ろしさに気づけなかっただけかもしれないけど……。それでもよく頑張った!)
アルバは団長としてデシルと戦った団員に拍手を送った。




