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049 一番弟子、山を目指す

 デシルたちが委員長キャロラインと班を組むことを決めた翌日。

 Oクラスの教室ではルチルによって林間学校の説明が行われていた。


 まずはキャロが言っていたように四人一組の班分けが行われた。

 Oクラスは二十人、つまり五つの班が出来あがる。

 デシルは予定通りオーカ、ヴァイス、キャロラインの四人で組むことができた。

 他の班も生徒同士の話し合いの結果、数分で班が出来あがった。

 このクラスは割と全員仲良しなのだ。

 少なくともみな授業となれば協力し合える関係になっている。


 次に林間学校の詳細が語られていく。

 期間は五泊六日、舞台は『クランベリーマウンテン』。

 王都からオーキッド学園自慢の早馬の馬車を使えば一日とかからずにたどり着ける自然豊かな山だ。

 この山が選ばれた大きな理由は、とある自由騎士団によって管理されている比較的安全な山だからである。


 その騎士団の名は『深山の山猫』。

 Bランク自由騎士にしてオーキッド自由騎士学園の卒業生である『アルバ・バーンズ』が団長を務めている騎士団だ。

 この団はアルバだけでなく団員の中にもオーキッドの卒業生が多く、よく学園の授業や行事に協力している。

 しかも、アルバとルチルは同級生なのだ。

 こういった理由もあって『深山の山猫』は六日も生徒の面倒を見るという難しい仕事を受けた。


「深山の山猫はそこまで歴史のある騎士団ではないけど、かつての私の同級生が団長を務めている団さ。彼は信用できるし、頼れる団員も多い。万が一トラブルが起こってもすぐに対応してくれるだろう。安心して自らの能力を高めることに集中してくれたまえ。迷った時には助言を求めるのもいいよ。きっと答えてくれる」


 ルチルがそういうならば誰も疑うことはない。

 生徒たちはプロの自由騎士と一緒に授業を受けられることに期待を膨らませた。

 もし何かあってもBランクが団長ならAランクのルチルが何とかしてくれるだろうという、ちょっと失礼なことを考えてる生徒も多少いた。


 その後、説明はスケジュールの話に移った。

 とはいっても、現段階で決定していることなど始まりと終わりの日だけだ。

 いや、この日程すら多少ズレることもある。

 山に行ってからの予定は教師と騎士団によって決定され、生徒には明かされない。


 これには情報が漏れることによって生徒が危険に晒されるのを防ぐ目的もある。

 どうしても学園の警備より林間学校の警備は薄い。

 学園に恨みはある者や、生徒に悪意を持つ者が襲ってくるならばこのタイミングが適切だろう。


 オーキッドは名門だけあってお金持ちの生徒も多い。

 そして入学試験は厳しく、落ちる者も多い。

 合格と不合格ではその後の人生に大きな違いがでてくる。

 犯罪の動機は生まれやすい。

 対策をしておくに越したことはないのだ。


 ということで今日は例年の林間学校で行われたことが紹介された。

 山の場所や関わる人間は変わっても、そこまでやることは変わらない。

 『山という特殊な地形を生かした実践訓練』

 『せっかく山に来たので山登りをして日の出を拝む』

 『山に自生している植物の中で食べられるものを学ぶ』

 『川で流れに逆らって泳ぐ』

 『みんなでご飯を作って食べる』……などなど。

 ほとんど想像の範囲内、突飛なことは行われないはずだ。


「林間学校では楽しいイベントも用意されてるし、自由騎士のみんなは後輩がかわいくて仕方ないから優しくしてくれると思う。でも、これは立派な自由騎士を目指す授業の一環だということを忘れないでくれたまえ。ずっと緊張の糸を張りつめていてとは言わないけど、油断すると……ね」


 ルチルの言葉に生徒たちは気を引き締める。

 いや、もともとそんなことはOクラスの生徒たちにはわかっていた。

 王国騎士との親善試合を見て、彼らはまた少し成長したのだ。

 居眠りや提出物の遅れも減少傾向にある。

 一部を除いて。


「ふっ、君たちにはいらない注意だったかな。なんたって優秀な子ばかりだからね。相手がプロの自由騎士だからって委縮しすぎる必要はない。今まで学んだことを胸に堂々と向かっていってくれたまえ」


「はい!」


 生徒たちの大きな返事で今日の学級活動は締めくくられた。

 デシルもみんなと同じくワクワクがピークに達しようとしていた。

 王国騎士との親善試合は戦いのことで頭がいっぱいで、学ぶことは多かったものの楽しめるイベントという感じはなかった。

 

 しかし林間学校は違う。

 真剣にやるべき事の中に楽しむべきイベントも用意されている。

 それがデシルには楽しみで仕方なかった。


「あっ! いけないいけない! 騎士団の方から渡しておいてと言われたプリントを配るのを忘れていたよ。まあ、プリントと言うか地図のようなんだけど……」


 最後の最後でルチルから配られたプリントは本人の言うように地図だった。

 それも学園から林間学校の舞台であるクランベリーマウンテンに向かうための地図だ。


「その日までに読んで大切に持っておくようにとのことだよ。私からは以上」


 地図を渡された意味もわからぬまま、今度こそ授業は締めくくられた。




 ● ● ●




 林間学校当日。

 昨夜、デシルは初めてワクワクして眠れないという経験をした。

 眠れないといっても普段より一時間ほど睡眠時間が短くなっただけだが、睡眠を重要視するデシルにとっては異常事態だった。


「うおおおおおおおお! オーカさん! ヴァイスさん! キャロさん! 元気ですか!」


「元気だけど……デシルちゃんは元気すぎるね!」


「集合時間が早すぎる……。眠い……」


「委員長であるこの私がワクワクして寝不足だなんて……。バレるわけには……はっ! 私ったら何を言って……! 冗談ですわよ!」


 生徒たちは朝早くに校庭に集められていた。

 遅れている者はいない。

 山への移動を今か今かと楽しみに待っていた。

 そう、みな馬車に揺られて楽しい移動時間が始まると思っているのだ。

 中には食べ物をリュックに入れている生徒もいる。


「うーん! みんな集まってるね! はいちゅうもーく!!」


 拡声魔法で生徒全体に話しかけてきたのは見知らぬ女性だった。

 小柄で、短い髪にカチューシャをつけている。

 その隣にルチルが立っているので、侵入者ではないようだ。


「みなさんこんにちわー!!」


 その女性は耳に手を当てて生徒からの返事を待つ。

 生徒たちは困惑気味に返事を返した。


「なぁにそれ! みんな眠たいのー!!」


「君のノリが古臭くて困惑しているんだよラーラ」


「何それ! 私がおばさんって言ってるの!?」


「言ってないよ」


 ルチルのツッコミに憤る女性。

 そんな彼女の代わりにルチルが生徒たちにその正体を紹介する。


「彼女はラーラ・ラービット。自由騎士団『深山の山猫』に所属するBランク自由騎士さ」


「は~い、ルチルより年上なのにBランクに甘んじてるおばさんが私で~す」


「やめたまえ。まあ、ちょっと感情の起伏が激しいところがあるけど、根っこは良い人さ。年齢のことは触れないように」


 このやりとりを見ただけで触れる生徒はいないだろう。

 とにかく、すでに自由騎士が学園に来ているのだ。

 ここで長いお話でもあるのだろうかと生徒は身構える。

 その空気を察してラーラは口を開いた。


「あ、別にあらたまったお話はないよ。そんなのみんな退屈だもんね。学園長のお話とかみんな長いなぁって思ってるもんね」


「学園長の批判はやめたまえ。聞かれているかもしれないよ」


「やっば! さっさと本題に入ろ~っと。みんな、配ってもらった地図は持ってきてる?」


 ラーラが生徒たちに語りかける。

 生徒たちはポケットやリュックからサッと地図を取り出した。

 意味深な渡され方をしただけあって流石に忘れてきた者はいない。


「おっ、優秀ね! 今年のOクラスは期待できるなぁ~。じゃ、今からその地図を頼りに皆さんには自力でクランベリーマウンテンに向かってもらいます」


 ……?

 ほとんどの生徒の頭の上に疑問符が浮かんでいる。

 このお姉さんは何を言っているのだろうか?


「ルールは簡単。山にたどり着けばいいだけ! 乗り物は魔法で作ったもの以外禁止。逆に魔法だけならば何を使ってもらっても構わないよ~。あとは協力も禁止ね。他人の作った魔法にタダ乗りされると実力がわからないし~」


 生徒たちは彼女が何をさせようとしているのか理解し始めている。

 が、頭が理解を拒んでいた。

 クランベリーマウンテンは学園から遠い山ではないが、自力で行けとなるとためらう距離である。


「ほら! マラソンはもう始まってるよ! たどり着くのが遅いからといって罰ゲームはないからリラックスして向かいなさい! でも、速い子にはご褒美があるわよ~」


「……と、言うことだ生徒諸君。クランベリーマウンテンに向かってくれたまえ。私も同行するし、ルートの各所には休憩所や給水所があらかじめ設置してあって、君たちが安全に移動できるように護衛の騎士も配置されている。回復魔法の使い手ももちろんいる。まあ、無理はしないように」


 ルチルの口から「向かってくれたまえ」の言葉が出た以上、もうこのマラソンが撤回されることはないのだろう。

 生徒たちは走り始めた。

 目指すは遥かなるクランベリーマウンテン!

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