045 一番弟子、師匠の本心を聞く
「……と、突入です!」
すぐそこに師匠がいると知り、怖気づく自分と仲間たちを奮い立たせるデシル。
ここまで来たからには帰るわけにもいかない。
三人はサンライトコーヒー王都中央店に意を決して入る。
「いらっしゃいませ」
店員にそう言われると同時にデシルは匂いの発生源を探す。
(……いた! どうやら店の奥の席に師匠と学園長はいるみたいです! 良かった、その席からなら注文する場所は見えない!)
そのことをオーカとヴァイスに伝えるデシル。
三人はサッと商品を注文し、師匠と学園長の座っている席からは障害物があって見えないかつ、近くて声が聞こえる席に滑り込んだ。
「バレてないですかね?」
「今のところ大丈夫な気がするけどね」
「とりあえずコーヒーを飲んで……店員さんに怪しまれないようにしましょう……」
三人はひそひそと話したのち、コーヒーをゆっくりとすする。
すると、近くの席から聞きなれた二人の声が聞こえてきた。
「こういうお店で良かったの? 別に悪いお店じゃないけどチェーン店だし、これでも私は学園長だからちょっとくらいお高いお店でも良かったのよ?」
「いや、あんまりあらたまった店は疲れるし合わないわ。こういう大衆向けの店でいいの。気を遣わなくて済むし。それにサンライトって名前も良い。デシルのファミリーネームに近くて」
この時点でオーカとヴァイスは師匠の口からデシルに関してデレデレな言葉しか出てこないことを悟った。
しかし、デシル本人はまだわかっていない。
「ふふっ、そういえばさー。昨日の学食でのディナーの時、シーファったら何か言いたそうな顔してたわね? あれは何を言いたかったの?」
いきなりデシルが気になっていたことを尋ねる学園長マリアベル。
デシルは耳に手を当てて聞き逃すまいとする。
「そ、それはね……。学食の料理もおいしいけど、デシルの料理の方が私は好き……って言おうとしたのよ。でも、これからデシルはこの学食をたくさん食べるわけだし、作ってる人にも悪いかなと思って言わなかった。マズイわけではまったくないし……」
「んまっ! シーファの口からそんな大人の気遣いが聞けるとは夢にも思わなかったわ!」
「茶化すな。帰るわよ」
「あーもう! そういうツンツンしたところは変わってないわね~」
席を立ちかけたシーファを抑え込み、マリアベルは会話を再開する。
「それでデシルちゃんはどうだった? 成長していた?」
「……想像以上だった。正直、私としかほとんど関わっていない人生だったから、友達を作るのにも苦労するかもと思っていた。でも、特に仲が良さそうな子が二人いて、クラスメートとも良好な関係を築いているのを見てホッとしたわ。送り出してよかったとやっと安心できた」
「そう、それは良かった! それで能力的にはどう? あなたの元での修行に比べると学園生活は甘い環境だと思うけど」
「私の修行レベルのことをやってたら廃校になるわよ。別に生徒たちが甘えてるとは思わない。デシルも同じ。昔より確実に成長している。ただ厳しく体を鍛えるだけで人は強くなれない。デシルが学園で得たものは大きい。顔つきもグッと良くなった。具体的なことを言うと、光波紋を発動できるようになった」
「光と雷の波動で動きを封じ込める相当高度な魔法よねぇ~」
「難易度の高さもあるけど、何より暴走して発動するのがあの魔法というのがデシルの良いところよ。普通の人間なら破壊的な魔法になるし、私だってそう。だから何回でも褒めるわ」
「昔のシーファはすーぐイラっとしてたもんね!」
「……否定はしない。それをどうにかしようとしてただ動きを封じるだけの光波紋を作り上げた。それなりに苦労してね。それをデシルは暴走とはいえもうできる。いや、デシルにはもともと宿っていたのかも。あの子は優しい子なんだ……。その優しさを独り占めしたい気持ちもあったけど、私みたいに森の中で一人ひっそり暮らすような人間にはしたくなかった。だから送り出したの」
「シーファもあれからいろいろ考えてたのね」
「時間はたくさんあったからね。私だってずっと愚かなままじゃない。人にまっすぐに気持ちを伝えられるように努力しているつもりよ。まあ、まだまだだけどね……。デシルには上手く伝わってないかもしれないわ」
「そうかもね~。まっ、昔に比べれば進歩してるって! 昔のあなたなら二回は怒って店から飛び出ていくようなこと私言ってるもん!」
「そこまで荒れてはいなかったわよ」
「そうかしら?」
「ボケてきてるんじゃない? もう年だし」
「なんですって!!」
怒ったのはマリアベルの方だった。
ケンカかと思ってバタバタと店員が奥の席へと向かっていく。
そんな中、黙って師匠の話を聞いていたデシルが口を開いた。
「オーカさん、ヴァイスさん、お店を出ましょう。どうやらバカなのは私だったみたいです。こんなことに付き合わせてごめんなさい」
「いいってことよ。気にすることないさ。デシルちゃんが師匠を疑ってもしょうがないと思うし」
「親の心って……意外とよくわからないものよ……。聞いてみないとね……」
「ありがとうございます。すいません……」
デシルたちは店を後にした。
もちろん注文した商品はすべて食べて。
(ごめんなさい師匠……。気持ちが何もわかっていなくて……。しかも、盗み聞きなんてしちゃって……。このことは師匠が家に帰るまでに謝ります。でも、今は前に出ていく勇気がありません……。一旦気持ちを整理させてください……)
後悔と共にデシルが帰った後、落ち着いたマリアベルとシーファは再び席に腰を下ろしていた。
「デシルちゃんたち帰っちゃったわね」
二人はデシルたちが店に入ってくる前から接近に気づいていた。
付け焼刃の気配遮断ではやはり大賢者と大魔法使いの感知を潜り抜けることは出来なかった。
「尾行してくるとは驚いたわ。まあ、疑わせてしまった私が悪いんだけど……」
シーファは顔が真っ赤だ。
デシルに聞かれているとわかっているのに本心を話したのだからこうもなる。
「普段が無口だから、よくしゃべると嘘っぽく聞こえるのね……。本当に私はまだまだよ」
「デシルちゃんしょんぼりしてたわ。あとでフォローしとかないとね」
「もちろん、そうするつもり。私が家に帰るまでにはね。一旦気持ちの整理をつけてから……」
シーファの発言を聞いてマリアベルは思った。
(あ、これはギリギリまで言い出せないわね……)




