032 一番弟子、反省と称賛
デシルが国王エンドールに案内された部屋は、非常にこじんまりとした部屋だった。
机や椅子こそ立派なものだが、落ち着く雰囲気を醸し出している。
「だだっ広い部屋よりかはこういう部屋の方が落ちついて話せるわい。堅苦しい場所は嫌いでなぁ。今日の試合も演習場には行かずにとある部屋の窓から見ていたのだ」
「あっ、だから試合が終わってすぐに演習場に来ることができて、光の波紋の影響もなかったんですね」
「その通り! まあ、本当に外せない仕事となるとこういうこじんまりした部屋でやるわけにもいかんが、今日は普通にデシルくんとお話するだけだから問題ない!」
国王はどっかりと椅子に座る。
デシルも促されたのでもう一つの椅子に座った。
そして、デシルは開口一番に謝罪した。
「すいません! 王様の騎士さんに酷いことしちゃって……」
「いやいや、構わんよ……あっ、構わんは流石にマズイ言い方だな。王国騎士たちはいざとなれば私のために命を懸けてくれる存在だ。立場は上でも彼らに対する尊敬を忘れてはいかん! ゴホン!」
咳払いでエンドールは一度仕切りなおす。
「アズールも含めて騎士たちは最近たるんでおった。それを自分を守ってくれる存在だからといって強く指摘できなかった私が悪いのだ。謝るのは私だデシルくん。君の友人を侮辱するようなことを言わせてしまい本当に申し訳ない……。ただ、アズールは気性は荒いが根っこは決して悪者ではない。それだけはわかってやってほしい……」
「そ、そんな頭を上げてください! 確かに今でも思い出すとちょっとムカッとしますけど、私は仕返しをしてしまいました! もう謝ってもらう権利なんてないんです! 謝るのをやめてください!」
「そう言ってくれるか……。優しい子だ。こんな君がシーファの弟子とは心底驚いた」
「あっ、そうです! 師匠の話を聞かせてください! 王様は師匠に会ったことがあるんですか!?」
「お、おう……あるぞ。順を追って話すから落ち着いてくれ……」
エンドールはさっきまでしおらしかったデシルのテンションが急に上がって困惑する。
同時にデシルがシーファをどれだけ慕っているのかを察した。
「私がシーファと出会ったのは……どこだったかな? えとえと、どこかの森の中だったのは覚えている。その時の私はまだ小さくて、毎日繰り返される次の王としての武術の稽古や勉強に嫌気がさしていたのだ。それで脱走した! そして遠くに逃げようとした! 馬鹿な子どもだった……。上手く王都の外に脱したが、迷い込んだ森でモンスターに襲われることになった」
「そこを師匠に助けてもらったんですね!」
「お、オチがとられた……。まあその通りだ! 颯爽と現れた彼女は目にもとまらぬ早さでモンスターを倒し、私を助け出した! 心から感謝した! カッコよかった! あこがれた! 彼女のように誰かを守れるような者になりたいと思った時、王という役職は最高のものだと思いなおした」
「そこから今みたいな立派な王様になったんですね! 稽古も勉強もこなして!」
「そうだ! だが、一つだけ叶わないことがあってな。シーファには助けられた時以降彼女には会えていないのだ……。王になる前は先代の王である父の命令で会わせてもらえず、王になった頃にはシーファは歴史の表舞台から姿を消していた。幼い私は命を助けてもらった感謝よりも安堵の感情が強く、十分な礼ができなかった。しかし、できるようになった今はもう会えない……」
「でも師匠は元気です! 無理やり呼び出しても来ないと思いますけど、そのうち会う機会がありますよ!」
「うむ、会えるのならば会いたいものだ! だが、今でも十分満足しておるよ。今日の君の戦い方からシーファの面影を見た! 彼女は生きていたんだと、そして君のような素晴らしい弟子を育成していたんだと! それだけで私は嬉しいのだ……」
「でも、私ってまだまだ師匠には及びませんし、今日も怒ると感情の制御ができなくなる事がわかっちゃって……。本当は優しい子なんかじゃないんです……」
「それは違うぞ!」
国王エンドールはブンブンと首を横に振る。
「むしろ感情を失ってるのにデシルくんはアズール相手に手加減をした。あのあふれ出る魔力の量ならば消し飛ばしていてもおかしくなかったはず。それを無意識に抑えた。根っこが優しい者でなくては出来はしない!」
「そうですか……?」
「そうだとも! 正直、シーファは恩人ではあるが彼女も荒い性格をしていたのを覚えている。泣いている私にかなり罵倒の言葉を浴びせかけてきたのだ。私の身勝手な行動で危険を招いたのだから当然だが、そこまで子どもに言うのか……とは思っていたよ。だから私の中のシーファの弟子のイメージからするとデシルくんは優しすぎる!」
「そうですね!」
デシルは納得した。
国王が昔の師匠より自分の方が優しいと言う理由がハッキリしたからだ。
罵倒も『恐怖を植え付けて二度と同じ行動をさせないようにしよう』という師匠なりの優しさだと一緒に暮らしていたデシルには理解できる。
しかし、付き合いが浅い者には誤解されやすいのだ。
「デシルくん、今日は君に会えてよかった。ずっと心のどこかに引っかかっていたものが取れた気がするよ」
「私も師匠の昔の話が聞けてとっても嬉しかったです。学園に入ってから師匠の話をできる人は学園長先生しかいませんでしたから……」
「そうか……。シーファも今となってはほとんど忘れられた人間とはいえ、調べれば悪評がわんさか出てくる。それを知られれば君の立場が悪くなってしまうのか……。正直、私にもなぜあれほどまで嫌われているのかはわからん。確かに好かれる人格ではないが、彼女はその力で人々を救ってきたはずだ。私の時のように!」
「私も師匠が悪い人だなんて思ってません。確かにちょっと……いや、かなり厳しい人ですし口下手ですけど……。やっぱり誤解されてるのかな……」
「デシルくん、これから君の前にはシーファのことを悪く言う者も現れるかもしれない。だが、忘れないでほしい。私にとってシーファはヒーローだった! それは今も同じだ! この世界にはシーファを信じている者もいるのだ! 君は見せつけてやればいい、シーファから受け継いだ技を! そして、広めていけばいい、シーファの教えを!」
「はい! 今日はありがとうございました! 大変勉強になりました! あ、そうだ! 今度師匠の教えを王国騎士の皆さんにも伝えましょうか? かなり厳しいですけど、きっと強くなるはずです。私も心を鬼にして頑張ります! 時には痛みを伴う厳しさも修行には必要なんですよね……ふふふ」
「あ、うん……そうだなぁ。しばらくはいいかなぁ……。今日見せつけてもらったしなぁ……。また、その時はこちらから連絡するので、急には来ないようにしてくれるとありがたい。いや、ほんとにお願いだぞデシルくん!」
デシルは国王の言葉の歯切れの悪さが気になった。
でも、それはきっと『君の学業を優先してくれ』という国王なりの気遣いなのだと良い方に解釈した。
(私の知らなかった師匠の話! 聞けて良かったなぁ~。さあ、みんなのところに戻らないと!)
◆ ◆ ◆
デシルが戻ったころには合同訓練は終わっていた。
身支度を整えた学園の生徒たちは城門の前でデシルの帰りを待っている状態だった。
「すいません! 勝手に抜けたのに皆さんを待たせてしまって……。それに試合でもお騒がせしてしまって……」
「いいってことよ! なっ、みんな?」
オーカの言葉を受け、Oクラスの生徒たちは口々にデシルに声をかける。
「実はさっき帰る準備ができたばっかりなんだ! そんなに待ってないさ!」
「デシルちゃんがサボるために訓練を抜けたなんて誰も思ってないよ」
「試合もカッコよかったー! 少し怖かったけどね!」
「オーカさんのために本気で怒る姿は素敵でした。正直相手の騎士さんも態度が良くなかったのでスカッとしました」
「そんな申し訳なさそうな顔すんなよ! 退屈だと思ってた行事がデシルのおかげで最高のショーに変わったんだ! ……ってこの言い方は流石に失礼か? すまん!」
「俺、後ろ振り向いた時に体を固められちゃったから、最後の試合見れてないんだよなぁ……。だからまた今度そのすごい魔法を見せてくれよな!」
わいのわいのとデシルに群がるクラスメートたち。
その隙間をぬってヴァイスがデシルの背後をとり耳元でつぶやく。
「お疲れさま……。やっぱデシルはすごいね……。私は出番なかったけど……これからも友達でいてくれる……?」
「もちろんですヴァイスさん! そしてみんなも!」
夕日を浴びて団結する生徒たちを見て、ルチルは『青春だなぁ』と思った。
だがルチルまでこの空気に酔うわけにはいかない。
学園に帰るまでが学園行事なのである。
彼女には生徒を無事に寮に帰す義務があるのだ。
「さあ諸君! 夕日に向かって走……ってはいけないよ! 周りに気を付けて落ち着いて帰ってくれたまえ!」
「はーい!」
ルチルを先頭に歩き出すOクラスの生徒たち。
今日の彼らにとってデシルは紛れもなくヒーローだった。
そして、デシル自身も心になにか熱いものが生まれたことを感じていた。
これにて『対決!王国騎士編』は完結となります!
次回からはある人をピックアップする新編です!お楽しみに!
面白い、続きが気になると思っていただけましたらブクマ、評価、感想などなど頂けると励みになります!




