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029 一番弟子、親友の戦いを応援する

 赤土隆起撃(レッドスティンガー)――。

 オーカの新技であり、派手さをモットーにしていた彼女に起こった変化の象徴である。

 腕から鋭い岩を伸ばすだけのシンプルな仕組み。

 だからこそ、これまでの彼女の魔法とは一線を画す発動の早さを誇り、ほぼ無詠唱を実現している。

 大技と小技を使い分けられるようになったことで、オーカの戦法の幅は大きく広がった。


「審判さん、これはあたしの勝ちでいいよね? おにいさん気絶してるし。それとも場外まで運んだ方が良い?」


 オーカはまだ判定を出さない審判、騎士団長アズールをせかす。

 だが、そんな煽りが必要ないほどアズールはわかりやすく怒っていた。


「勝者……オーキッド自由騎士学園オーカ・レッドフィールド……」


 この世のすべてに興味がなくなったかのような冷めた瞳。

 しかし、その奥には怒りの炎が燃えていることがわかる。

 彼女は判定を終えると、地面に転がっている青年騎士に近づき、彼を思いっきり蹴飛ばした。


「起きなさい、愚か者」


「ぐああああああっっ!! あっ!? 騎士団長どの!? 私は……」


「負けです。いや、死にましたね、実戦なら。なぜ試合開始と同時に防御魔法の展開を怠ったのですか? いつも指導していたはずですが……。理由があるならば言ってみなさい。ほら、早く言いなさい!」


「ひっ……! あ、相手が子どもで、しかも女の子だったもので……油断しました!」


「相手が……女の子だから……?」


「あっ……」


 青年騎士は的確にアズールの地雷を踏んでしまった。

 その顔はみるみる青くなっていく。


「悲しいですね……。私がもっと若くて美しい女の子だったら、指導したことを覚えてもらえるのでしょうか……。残念ながら私はもうオバ……お姉さんなので、より厳しい指導をするしか方法がありません。あなたは一か月特別訓練です。頑張ってください」


「そ、それだけはお許しをっ!!」


「他の者は何をしているのです! この愚か者をさっさと連れて行きなさい!!」


 青年騎士はずるずると引きずられてどこかへ消えた。

 生徒たちはもちろん騎士たちもドン引きである。

 そんな空気をなんとかするため、デシルはオーカを褒めることにした。


「オーカさんやりましたね! 修行の成果が出てましたよ!」


「だろ? ここまで上手くいくとは思わなかったけど。こりゃ二人の出番はないかもな~」


「私はぜんぜんそれでもかまわないけどね……。そもそもあっち側の二人目は存在するのかしら……?」


「そういえば、あんたの部下の準備が遅れてるみたいだけど大丈夫かい審判さん? 何なら不戦勝でもいいけど?」


「ぐうっ……!」


 なめられていたのだからこれくらい当然だと言わんばかりにオーカはアズールを煽る。

 さらに不機嫌になったアズールが引っ張り出してきた二人目の騎士は、先ほどの青年より一回り年を取っていそうな中年騎士だった。

 中年と言っても体はたるんでおらず、幾多の実戦を潜り抜けてきた者の風格がある。

 彼は装備を急いで身に着けるとフィールドに入りオーカと対峙する。


「よろしくなお嬢ちゃん。へへっ、最近の子は本当に発育が良いねぇ……。おっと、戦闘力のことを言ってるんだぜ?」


「年の割に嘘が下手だねオジサン。私ぐらいのスタイルの女の子ならみんな男の視線には敏感だよ。どこ見てるのかなんてすぐわかる」


「そうかいそうかい、そりゃ失礼したな。できればその綺麗な体を傷つけたくはないんだが、あいにく俺も手加減して特別訓練なんてのは嫌なんでね。本気でいかせてもらうぜ!」


 下品なトークにさらにイラつくアズールが震えながら旗を上にあげる。

 部下ならば彼女の不機嫌になるポイントを把握していそうなものだが、それでも口に出てしまうほどオーカは魅力的だったのだろう。


「はじめぇ!!」


 叫ぶような試合開始の合図。

 同時にオーカは同じ戦法を試みた。

 速攻の赤土隆起撃(レッドスティンガー)である。


「流石にそれは食らわんよ!」


 中年騎士は風をまとった剣でそれを砕いた。

 剣を振るスピード、威力共に申し分ない一撃だ。


「こっちからも行くぜ!」


 騎士はどうやら風魔法が主体らしい。

 剣にまとわせるだけでなく、遠距離からの鋭い疾風でオーカを攻撃する。

 それに対してオーカは岩の壁を作って風を打ち消していく。


(ルチルの風に比べたらぬるいもんだな……。しかしながら、相手はなかなか小回りが利く。赤土隆起撃(レッドスティンガー)はあたしの魔法にしては発動が早いが、属性そのものが速攻に適している風魔法には及ばない。ならば赤石巨人(レッドゴーレム)……は動きが遅すぎるし相手の剣は威力もある。じわじわ砕かれてジリ貧になって終わりだ。残るは……)


 敵の攻撃を避けつつ勝ち筋を探るオーカ。

 スピードに勝る風魔法使いに対して、地魔法使いが接近戦を挑むなら砕かれない防御力が必要だ。

 しかし、今の彼女にはない。

 となると答えは一つしかない。


「お嬢ちゃん、逃げるしかないなら降参してくれてもいいんだぜ?」


「そうだな……どうしようかなぁ? でも、まだこっちもダメージは受けてないしなぁ……きゃ!」


 オーカは彼女を良く知る者が聞けばわざとらしすぎて噴き出してしましそうな悲鳴を上げる。

 切り裂く疾風が彼女の制服のかすって、深い谷間をあらわにしたのだ。

 さらにスカートには深いスリットが入り、抑えていないと下着が見えてしまいそうな状態になる。


「いやぁん、恥ずかしい! こ、降参しちゃおっかなぁ……」


「ちょ、ちょっと待てお嬢ちゃん! ほら一旦攻撃をやめるからもうちょっと頑張ってみないか?」


 急に紳士になる中年騎士。

 無論目的はオーカが動くことでスカートがめくれることを期待しているのだ。

 もはや騎士団長がアズールでなくても怒られる案件である。


「そ、そう……? じゃあ、ちょっとだけよぉ?」


 オーカはあろうことか自分からスカートをぺろりとめくった。


「おっ! あっ……」


「あたしは女っ気がなくてねぇ……。いつもスパッツを履いてるのさ!」


 決め台詞のように叫んだオーカは呆然とする中年騎士を放置し、自分の前に石壁を展開。

 その行動の理由はすでに発動しておいた自分の魔法に巻き込まれないようにするためだ。


赤土の隕石(レッドメテオ)!」


 ドゴォという爆音と地響きを伴って赤い巨石が天より飛来した。

 入学試験時に発動した時よりは威力低めで直接騎士を狙ったわけではない。

 しかし、落下時に起こる衝撃波はすさまじいものだ。

 直前まで呆然としていて対応が遅れた中年騎士はバトルフィールドの外へと吹き飛ばされてしまった。


「ごめんねオジサン。期待させちゃって」


「う……うぐ……まあ、胸とふとももは見れたので構わないぜ……ガクッ」


 男はそれだけ言って気絶した。

 その表情は安らかだったという……。

 反比例してアズールの表情はさらに険しくなっていく。


「そいつも連れていきなさい! 半年の特別訓練を命じます!! 性根から叩きなおす必要がある!」


 これにはその場にいる誰もが納得した。

 とはいえ戦ったオーカは少しだけかわいそうな気がして中年騎士をかばう。


「まあ、素の実力はあっちの方が上だったと思うよ。私が少し魅力的だっただけのことさ。騎士としてどうなのかと聞かれれば、ダメだろうけどね」


 オーカはなるべく気さくに話しかけたつもりであった。

 しかし、これがアズールのスイッチを押してしまった。


「オーカさんと言いましたね……。どうですか? 三人目はこのアズール・マリガンが直接お相手するということで」


「……いいね。お願いするよ」


 返事を聞いて背筋が凍るような笑みを浮かべるアズール。

 オーカも実力の差はこの時点でわかっている。

 怒りという感情とともにあふれ出す彼女の魔力はすさまじい。

 それこそルチルと肩を並べるほど……。


 だからこそ、オーカはアズールに挑まねばならない。

 ルチルを超えるには、ルチルレベルの者と戦わなねばならないのだ。

 しかし、ルチル自身が相手ではいけない。

 彼女の自分に対する優しさや気遣いはオーカも痛いほど感じていた。

 ルチルは今の段階で自分と本気で戦ってはくれない。

 大切に思ってくれているからこそ。


「オーカくん、君ならわかっていると思うけど……」


 そっとルチルがささやく。

 止めたいのはやまやまだが、気持ちを汲んで止められないといった様子だ。

 その気持ちはオーカにも伝わる。


「勝てそうにないね。だから、もしもの時はあの鬼の女騎士団長を止めてくれ、ルチル先生。それまでは全力で挑む!」


 そのオーカの姿勢にデシルはドキッとした。

 正直、試合観戦を楽しんでいた自分と本気で自分の力を伸ばそうとしているオーカに差を感じたからだ。

 普段なら照れてやらないような媚びた声も、勝つために必要だから恥を忍んでやったのだと……。

 一瞬で終わった第一試合も、きっとあの戦法でいいのかと悩みに悩んでいたのだろう。


(今の私を師匠が見たらきっと悲しむ……。友達の本気の戦いを本気で応援してあげられないなんて! 今からでも態度を改めます!)


 デシルは大きく息を吸い、叫んだ。


「オーカさん頑張って!!!」

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