028 一番弟子、王城へ
「うわぁ……やっぱり近くで見るとお城って大きいですね!」
「遠目で見てても十分デカかったけどいざ目の前に来るとすごいなぁ」
「ちょっと派手すぎるかしら……」
デシル、オーカ、ヴァイスの三人は目の前にそびえたつ王城を見上げ感嘆の声を上げる。
今日はいよいよ王国騎士との親善試合の日なのだ。
王城に来たのは代表である三人はもちろんのこと、一年生全員に加えてその担任教師も来ている。
なんでも親善試合の後には王国騎士との合同訓練もあるらしい。
よくよく考えれば三人の試合だけで全クラス移動なんて大掛かりなことはしないよね、とデシルは思った。
「さあ生徒諸君、王城に入るとしよう」
ルチルの号令がかかる。
Oクラスの生徒たちは開かれた城門から中へと入っていく。
学園からの移動は徒歩ということで一般の方に迷惑が掛からぬようクラスごとに時間をずらして移動している。
その一番乗りがOクラスだ。
その後、兵士たちに誘導されてやってきたのは広い演習場だった。
すでに白線で試合のステージも作られている。
さらには観覧席も設置されていて準備は万端といった感じだ。
「ふぅむ、一日のイベントのためにここまでの準備をしてくださるとは……」
「観覧席は常設なのですよ。演習などは高いところから見た方が動きがよく見えますからね」
感心するルチルに話しかけてきたのは青い髪の女性だった。
赤いフチの眼鏡をかけていて、その中の眼光は鋭い。
ルチルには彼女こそ学園長が毛嫌いしていた『あの女』、つまり騎士団長だとわかった。
ちなみに学園長はケンカになりそうということで王城には来てない。
王国側も国王が演習場に来ていないのでおあいこだ。
「ルチル・ベルマーチさんですね、Aランク自由騎士の。ご活躍はかねがねお聞きしています」
「いえいえ、私などまだまだ……」
「そう謙遜なさらずに。年も近くて同性、それでいて仕えるものは違えど騎士となれば勝手にこちらも意識してしまうのですよ。あなたは素晴らしい自由騎士ですから」
「あ、ありがとうございます。まあ、今は自由騎士というよりも教師ルシル・ベルマーチといった感じですがね」
「不思議です。あなたほどの人がなぜ教師をなされているのですか?」
「もともと教育者になりたかったものでして……。そこに深い理由はないのですよ、これが不思議と」
「そうですか……それはもったいない。あなたの力を生かせる場所は他にあると思います」
騎士団長アズールはチラッと生徒の方に視線を向ける。
初めての王城ということで生徒たちは娯楽施設に来たように浮足立っている。
なるほど、ああいう若者の姿が気に入らないのだな……とルチルは理解した。
「ご心配いただきありがとうございます。ですが、私は教師を天職だと思っておりますので」
「それは残念ですね。あなたとは価値観の違うようです」
「一緒の人間などそうはいませんよ。あなたの考えも否定はしません。参考にはさせていただきます。ただ、最後に一言だけ……今日は真剣勝負でお願いしますよ」
ルチルはくるりとターンして生徒の元へ戻っていった。
その背中を見送るアズールの目にはかすかな怒りが宿っていた。
● ● ●
「ケンカ売っちゃったかな……。私もまだまだ青いものだよ」
ルチルがため息をつく。
演習場のにいる学園関係者はルチルと代表生徒三人、他は観覧席に移っていた。
「あれがウワサのキツイ女騎士団長か……」
「オーカくん知ってるのかい?」
「学園の先輩方がおせっかい焼きに来てね。口が悪い奴がいるけど出てこないし気にするなって」
デシルとヴァイスもうんうんとうなずく。
三人ともアズールの悪評を聞いていた。
そのアズールはというと今は白線で作られたバトルステージの向こう側、王国騎士サイドにいるためこの陰口は聞こえていない。
「でも、さっき先生と話してるのを見る限り、そこまで荒っぽい人には見えませんでしたね。確かに私たち生徒への嫌悪は感じましたが」
「うん……。男社会の騎士団で勝ち残った女の人って聞いてたから……てっきりオーカみたいなタイプだと思ってた……」
「あー! 私も思ってました! もっとこう『うがー!』とか『どりゃー!』な人だとばかり!」
「ちょっとちょっと二人とも……。それはあたしが荒っぽい人って言ってるの?」
「そうです」
「そう……」
「うっ……!! まぁ、その通りだけど!」
デシルとヴァイスから口を揃えてそう言われるとオーカも否定できない。
というか、オーカも自覚はある。
「じゃ、荒くれ者のあたしが一番手として目にもの見せてくるわ!」
「全力で戦ってくれたまえ。ただ、くれぐれも無茶はしないように」
「オーカさんなら絶対勝てます!」
「荒っぽいのも……悪い事だけじゃないし……」
「うんうん、わかってるって!」
後ろ手を振ってオーカがバトルフィールドに入る。
今回の試合形式は三人チームの勝ち抜き戦だ。
一対一で戦い、相手をフィールド外に出すか「降参」と言わせる。
状況によっては審判が止めに入ることもある。
負けた者はその時点でフィールドを去り、勝った者はフィールドに残って次の相手と戦う。
そして、三人目が敗北した時点でそのチームの負けである。
場合によってはオーカが相手を三人全員倒して、デシルとヴァイスは出番なしなんてこともあり得る。
あまり親善試合に適していないルールなのは間違いない。
なぜそんなルールなのか……理由は明らかだ。
王国騎士は何人も演習場にはいるが、戦う準備をしているのは一人のみ。
つまり、一人で充分だと言っているのだ。
「なめられたもんだねぇ。なあ、おにぃさんよ」
フィールドに入ってきた青年王国騎士に声をかけるオーカ。
騎士の中では練度が低そうに見える若手だ。
一応、生徒に合わせて弱い奴を出そうという意識はあるようだが、そもそもガタイが違う。
女性にしては高身長のオーカでも青年騎士の前では子供に見える。
「俺も子供の相手をさせられて困ってるんだ。まあ、これでも下っ端なんで先輩方には逆らえませんて。ちゃんと手加減はしてやるし安心しな」
「そう? ありがとう、もらえるもんはもらっとくよ」
審判であるアズールが旗を上にあげる。
同時にフィールド内の二人は戦闘態勢をとる。
「はじめっ!!」
勢いよく旗が振り下ろされた。
試合開始だ。
「かはっ……!」
いきなり青年騎士が胃液を吐きだし悶絶する。
その腹にはオーカの腕から伸びる異常に太い槍のような赤い岩が刺さっていた。
今までの彼女からは考えられない速攻戦法、その名も……。
「赤土隆起撃! 単純だけどキくだろ?」
オーカの言葉に返事が出来ないまま、青年騎士は地面に崩れ落ちる。
仰向けになった腹から血は出ていない。
本来ならばとがらせて敵を貫くべき岩の先端をわざと丸くしてあるのだ。
「安心しな。手加減はしてある……ってな」
決着はついた。
第一試合はオーカ・レッドフィールドの勝利だ。




