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027 一番弟子、決戦前夜のお泊り会

「ええ……では、明日の勝利の願って乾杯っ!」


「かんぱーい!」


「乾杯……」


 王国騎士との親善試合を明日に控えた夜。

 デシル、オーカ、ヴァイスの三人はデシルの部屋で団結式を行っていた。

 式と言ってもやることは持ち込んだお菓子やジュースを飲んでわいわいおしゃべりするだけである。

 試合に関する準備はこれここまでずっとやってきたのだ。

 決戦前夜の今くらいは修行や試合のことを忘れてリラックスしてもサボっているとは言われないだろう。


「いやぁあたしたちほんと頑張ってきたよなぁ~。今日も筋肉痛で体中が痛い!」


 ビンに入ったジュースをコップにも入れずごくごくとそのまま一気飲みするオーカ。

 彼女は甘いものが結構好きで、目の前に置かれた様々なスイーツが気になって仕方ない。


「疲れた後には甘いものってね! まあ、回復薬みたいに一気に体の疲れがとれるわけじゃないけどさ。そういえば、デシルは回復魔法も使えるんだよね?」


「はい、使えますよ。ただ、緊急時でもない限り体の疲れをとったり、軽いケガを治すのには使いません。体に備わっている治癒能力が衰えてしまいますから」


「確かにそれはそうだね。せっかくのパーティだから痛みも忘れたかったけど、この痛みを自分の力で治すのも修行ってことだな~」


「このくらいならまだ心地よい痛みですからね。まあまあ修行の話はこれぐらいにしてお菓子を食べましょう! ヴァイスさんもどんどん……」


「あ、ごめんなさい……。もういただいているわ」


 普段の食事の時と同様にヴァイスはスイーツもよく食べる。

 彼女の体は細いが別に食は細くないのだ。

 それになぜか今日は彼女の食べる動作も軽快であった。


「私、夜型だから夜になるとちょっと元気になるのよ。まあ……とはいえ本調子ではないけど……。ビックリした?」


「少しだけビックリしましたけど、またヴァイスさんの新たな一面を見られて嬉しいです! どんどん食べてくださいね!」


「ん……ありがとう」


 ヴァイスはいつも首に巻いているマフラーを外してバクバクと食べる。

 もう二人に牙を見せることを気にしていない。

 それは牙を隠し通せないと思ったからなのか、二人には知られても構わないと信用から生まれた行動なのかはまだ定かではない。

 ただ、ヴァイスが出会ったころよりも柔らかな表情を良く見せるようになったことだけは確かだった。


(こんな素敵な友達に恵まれて私……幸せです! 明日の試合、何としてもいい結果で終わらせて見せます! そして、またこうやってみんなで集まって祝勝会を開きましょう!)


 そう固く心に誓うデシル。

 ルチルから何度か試合では手加減するようにと釘を刺されていたが、それすら吹っ飛んでしまいそうなほど彼女の心は熱く燃えていた。

 それもそのはず、デシルはこれまでの人生で友のために感情を高ぶらせたことがないのだ。

 どれほどの才能を持ち、努力を積み重ねても初めて体験することには正しく対応できないこともある。

 デシルが明日どのような行動を起こすのかは……やってみなければわからない。


「なぁに真剣な顔してんの? 今は明日の事なんて忘れてパーっとやる時じゃん?」


「早く食べないと全部食べちゃうけど……」


 ただ、そんなデシルの心を理解してくれるのもまた友達なのだ。

 オーカとヴァイスはわざと意地悪な顔をしてデシルの顔の前でドーナツをちらつかせる。


「あっ、ダメダメ! ダメです! 私にもドーナツください!」


「なら口を開けな! ほら、あーん!」


「あ~んっ! んぐっ、おいしい~!」


「デシル、こっちもよ……。あー……」


「んぐぐっ! 口の中……いっぱいに……なっちゃいましたぁ……。でもやっぱりおいしい!」


 もぐもぐ、ワイワイとパーティは二時間ほど続いた。

 明日は試合当日。

 寝不足で挑むわけにはいかないので、お話の続きは布団の中で行うことになった。

 オーカとヴァイスは今日デシルの部屋に泊まるという申請を出している。

 理由も親善試合に向けての作戦会議なのですんなり許可が出た。

 そもそも一日二日他の部屋で寝ることに許可が出ないことの方が少なかったりする。


「この部屋のベッドは大きいとはいえ、流石に育ちざかりの女の子三人だと狭く感じますね」


「あたしなんてもう体は大人だからね!」


「中身は子どもより幼いけど……」


「なんだとこの~! よく食べる割に子どもよりほっそい体してるくせに~!」


 からかわれたオーカがヴァイスに抱き着いて体をくすぐり始める。

 普段は低音ボイスのヴァイスもこれにはたまらず甲高い笑い声をあげる。


「はひっ……! んっ! ちょ、もうっ……! ああっ! あはははははっ!!」


「良い声で鳴くじゃないの……。ますます気に入った! ほらほらほらっ!」


 その光景がほほえましくてデシルは目を細める。

 心が熱くなったり、穏やかになったり……友達といるとこんなにも楽しいのだ。


「なぁにそんな保護者みたいな目をしてるんだ? デシルもくすぐり攻撃だ~!」


「あっ、ちょ! オーカさんっ、んんっ! あはっ、ははははっ! あ、あんまりやりすぎるとっ! あぶなっ! ぐ、ぐふふふふふふっ!! ああっ!」


 デシルの体がカッと青く輝き、オーラが放出される。

 そのオーラに弾き飛ばされてオーカは壁にぶつかってしまった。


「ご、ごめんなさい! 体に危険が迫ると無意識のうちに防御魔法を発動するように教え込まれてるんです!!」


「あ、ああ……よーくわかったよ……。くすぐりも立派な攻撃だもんなぁ……ぐふっ」


「ある程度なら問題ないんですけど、オーカさんのはちょっと激しい……ってオーカさん!? 大丈夫ですか!?」


 その後、オーカが壁にぶつかった時の音や意識を取り戻させるために叫んだりしたことが原因で寮母がやって来て三人は説教をされた。

 なんとかお泊り会を解散させられることはなかったが、明日は本番と言うこともあるので今度こそ静かに寝ようということになった。




 ● ● ●




(やべぇ……さっき騒ぎすぎたせいで眠れないなぁ……)


 デシルとヴァイスに挟まれて真ん中で寝ころんでいるオーカ。

 目の前にはすでにすぅすぅと寝息を立てているデシルがいる。


(寝ている時は年相応……いや、ちょっと幼く見えるなぁ……。でも起きてるとあたしよりもよっぽどまともな人間なんだよねぇ……。まっ、あたしがガキ過ぎるんだろうけど……)


 デシルは長い金髪が邪魔にならないようにお団子にしている。

 いつもと少し違う雰囲気の友人の寝顔からオーカは目が離せない。


(なんて綺麗な顔立ちなんだろう……。本当の親は知らないらしいけど、これは結構良いところの子なんじゃないか? 捨てられてたのも結構ワケありだったりして……なんて、安っぽい話はナシ! デシルはデシル、私の大切な友達だ)


 それはそれとして、オーカはそっとデシルのほっぺに触れる。

 すべすべの肌、ほどよい柔らかさに弾力……触っているうちに夜が明けそうなほど至福の感触だった。


(あぁ……なんて柔らかいんだ……。昔、親父や兄貴が私の身体をベタベタ触ってきたのも、こういうことだったのか……。なんか愛おしくなってくる……。デシルって全身柔らかそうだし、このまま寝ぼけたふりして抱き着いて寝ちゃおうかな? そうしようそうしよう、バレないって!)


 オーカが体を横に向け、デシルに抱き着こうした次の瞬間。


「んんっ……!?」


 思わず声が漏れるのも仕方がない。

 オーカは抱き着くはずが逆に背後からヴァイスに抱き着かれてしまったのだ。

 ヴァイスも穏やかな寝息を立てており、無意識にオーカに抱き着いてしまったことがわかる。

 両手でぎゅむっとオーカの大きな胸を鷲掴みにしてくるが、無意識なので仕方がない。

 足を絡ませて逃げられないようにしてくるが、無意識なので仕方がない。

 そうオーカは判断……してくれた。


(うふふ……私が寝たと思ったら大間違いよ。こっちは夜行性なんだから夜は寝れなくて仕方がないの。だからこの魅惑の肉体を少しの間だけ夜のお供にさせてもらうわ。あんまり長くいじっているとオーカが寝れなくなるから本当に少しだけ……)


 ヴァイスはオーカの体を触り始めたが、そのぬくもりを肌で感じたせいか数秒で眠くなってしまった。


(オーカの体って……私よりずっとあったかい……。それに背中も大きくてなんだか安心する……)


 ヴァイスはオーカの背中にぴったりと張り付いて眠ってしまった。今度は演技ではない。

 オーカもまた背中にヴァイスのぬくもりを感じ、それに安心感を覚えると急に眠気がやってきた。

 おぼろげな意識でデシルの腕を抱き、オーカは眠りに落ちた。

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