021 一番弟子、三人目を探す
翌日、朝礼で時間をもらったデシルとオーカは改めて親善試合に出場する意思があるかどうかをクラスメートに尋ねた。
結果は全員参加の意思なし。
拒絶されているわけではないが、二人と肩を並べるのに抵抗があるような空気が教室を満たしていた。
「まあ、まだ本番までには時間があるし、他のクラスから志願者を募ってもいい。数日以内に答えを出してくれれば私は構わないよ」
ルチルは特に焦る様子もなくそう言った。
ということでデシルとオーカは放課後、三人目を見つけるための活動を開始した。
「で、オーカさんが昨日言ってた秘策ってなんですか?」
「ふふっ、デシルちゃんって二人組を作るときに余った経験ってある?」
「え、それは……ないですね。私は師匠と二人っきりでいつも修行をしてましたから」
「あたしはね、よくあるのよこれが。道場でも怖がられてたから、誰も組んでくれない。そういう時どうしてたと思う?」
「むむむ……あっ! 先生と組む、とかどうですか?」
「それも一つの正解!」
「じゃあ、もう一つはなんですか?」
「同じように孤立してる奴と組む!」
オーカは胸を張って言った。
人数が偶数で二人組を作るとなると余りが出るはずはないのだ。
誰かしらはオーカと組まなければならない状況が生まれる。
この場合、すぐに組める友達がいない者がオーカの餌食となった。
「今から実行する作戦はこれの応用。状況が結構違うからね。全体で三人組を作ってるわけじゃないから余る人というのは出てこないし、組ませる強制力もない。でも、孤立してる子を狙うってのには結構意味があるんだ」
すでに入学から日が経って、新入生の中にもグループというものが出来つつある。
その中から一人をこちらに引き抜こうとすると周りの影響もあって抵抗が強い。
だが、孤立している者はその者一人の意思で動けて身軽だし、そもそも友達を欲している可能性もある。
または誰にも相談できず、代表に立候補する決断ができていないのかもしれない。
「一人でいるのが気楽~とか思ってる奴ほど頼られると意外とやる気を出す! だから、あたしたちはこのクラスで孤立してる子に代表になってくれるよう頼み込みにいく!」
「それでその人物に目星は付いてるんですか?」
「ああ! 名前はヴァイス・ディライト! もちろんOクラスの生徒だ!」
オーカは廊下側の一番後ろの席を指さす。
放課後ということでその席にはすでに誰もいないが、そこがヴァイスの席らしい。
「あっ! その子って自己紹介の時にオーカさんに話しかけてくれた人じゃないですか?」
「そう! あの時私に質問してくれたから、その後も絡んでくれるんじゃないかなぁって思ってたけど意外とそれ以降会話してないのよねぇ……」
「授業中もあんまり目立ちませんよね。言い方話悪いですけど存在感がないというか……。そもそも戦闘能力はどれぐらいなんでしょうか?」
「腐ってもOクラスの生徒だから弱いってことはないと思う。授業もそつなくこなしてた……気がする。放課後は寮にまっすぐに帰って人が数なくなったら食堂に来るか、図書室で本を読んでるところを見たよ。とりあえず会って話してみないとわからないこともあるさ。まずは図書室に行って、いなかったら寮に直接押しかけよう」
二人は図書室に向かう。
室と言いながら実際は一つの建物が全部図書室なので図書館と言うのが正確だ。
デシルは意外と本も読むのでこの図書館の静かな雰囲気が好きだったが、オーカは「尻がむずむずしてくるからダメだ」と言ってあまり近寄らない。
今回は事情が事情なので意を決して入る。
「こいつらよくこんなだんまりでジッとしてられるなぁ……」
「オーカさんが落ち着きなさすぎなんですよ。時にはジッと静かに耐えることも戦いに必要なんですよ」
「うーん……それは難しいかも……」
騒がないように目当てのヴァイスを探す。
ヴァイスは真っ黒な長い髪、真っ赤な目、病的なまでに白い肌が特徴の美人らしい。
しかし、そんな美人でありながらなぜか目立たない。
意図して存在感を消しているのではないかと思うほどに。
そんなミステリアスな美人を探すのには結構時間を要した。
「うーん、寮の方にいるのかねぇ……」
「んっ! オーカさんあそこ……!」
あきらめかけたその時、隅っこの机で本を広げて読んでいるヴァイスを発見した。
口元に血のように鮮やかな赤いマフラーを巻いているというのに、なぜか存在感がない。
オーカもデシルが明確な位置を指さすまで認識できなかった。
「生まれつきああなのか、それとも気配を絶つ訓練を受けたか、魔法を使っているのか……。なにはともあれ謎の多い人ですね」
「なんか話しかけるなオーラも出てるし、図書館の静かさもあいまって話かけづらいなぁ……」
作戦会議の結果、図書室では話しかけずに出たところで話しかけることに決まった。
それまでは見失わないようにじっとヴァイスを見張るのだ。
しかし、オーカはジッとていられない。
一分後には貧乏ゆすりを始めた。
「デシルちゃん……あたし耐えられないよ……!」
「ですよね。オーカさんは図書室の中を自由に動いてもらって構いませんよ」
「うぅ……この場所自体が嫌いなんだけど仕方ない。そうする」
オーカはすぐにこの場から去っていった。
しかし、五分後にまたデシルの元に戻ってきた。
「デシルちゃん、デシルちゃん! これ見てこれ見て!」
「オ、オーカさんダメですよ。大きな声出しちゃ……!」
「ごめんごめん……。でも、これ見てよ」
「えっと……今年の入学試験の成績をまとめた本ですか?」
オーキッド自由騎士学園は合格発表の際に成績を全体公開している。
そして、その成績は後からも確認することができるよう本にしてまとめられているのだ。
図書館ではその本を生徒ならだれでも読むことができる。
「ヴァイス・ディライトって子は実技試験三位の実力者なんだよ……!」
「ええ……!?」
三位とはつまりデシル、オーカに次ぐ実力を持っているということ。
さらには筆記の成績も上の中あたりで、筆記が壊滅的なオーカよりも総合成績は上である。
「とんでもない有望株に目を付けたみたいだね、あたしたち……!」
「私は何もしてませんからオーカさんのお手柄ですよこれは……!」
「とにかく絶対に引き入れよう……!」
ちらっと視線をヴァイスの席に向けた時、彼女の姿はもうそこにはなかった。
二人が本を読んでいる間に移動してしまったようだ。
「追わないと……!」
「でも、どこに行ったんですかね?」
「デシルちゃん、魔力探知はできない?」
「ダメですね。人が多い中で個人を判別するにはその人の魔力の特徴を深く知る必要があります。ヴァイスさんの魔力がどんな感じなのか私は知りませんから……」
「そうか……」
「とりあえず一回ぐるっと回って見つからなければ外に出て寮を尋ねましょう。寮には絶対に帰ってくるはずですから」
二人は音を立てないくらいのスピードで館内を回り、ヴァイスがいないことを確認した。
見逃している可能性もあるが、何度もぐるぐる回っていると注意されそうなのでそそくさと外へと出る。
「いなかったみたいですね……。自信はないですけど」
「あの子、存在感が薄すぎるんだよなぁ」
「悪かったわね……空気で……」
「ぎゃああああああああああああ!!!」
図書室を出てすぐのところでオーカが叫び声をあげて腰を抜かす。
これが図書館内ならば一か月は出入り禁止だろう。
「あ……あなたはヴァイスさん!?」
「そうよ……ストーカーさんたち……」
間近で見ると目の下に薄くクマが出来ており、気分が良さそうではない。
ストーカーがバレているのでもちろん機嫌も良さそうではない。
「あのっ! その、ストーカーしてたことは謝ります! でも、少しだけお話聞いてくれませんか?」
「そう……ね……。いいわよ……。立ち話じゃなく……てもっと落ち着いた場所でならね……。私、あんまり外が好きじゃないの……」
「は、はい!」
話してみてもミステリアスなヴァイス・ディライト。
華奢な体にどれほどの力が隠されているのか見当もつかない。
デシルは説得できるか不安を感じつつも、彼女のことを知りたくてうずうずしていた。




