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012 一番弟子、一番です

 王都の朝。

 ホテルで目を覚ましたデシルはいつものように体を動かすために外へと飛び出す。

 このタイミングで昨夜書いた手紙を出そうと思っていたが、どうせなら今日発表される試験の合否も一緒に書いておこうと思い、書きかけの手紙は部屋に置いてきてある。


 合格発表は学園の校舎前の掲示板に張り出される。

 受験番号ではなく名前で、そして成績も同時に公開されるらしい。

 今年の合格ラインや自分がどれだけ点数が足りていなかったかも丸わかりだ。

 今回は落ちてしまったが、また来年挑戦する者には一つの助けになるだろう。


 そんなオーキッドの合格発表をデシルは王都で初めて出来た友達であるオーカ・レッドフィールドと見る予定だ。

 オーカは性格的に問題児ではあるが、能力的には優等生である。

 お互い落ちる心配はまったくしていない。だが、ドキドキはしていた。

 それはこれから始まる学園生活への期待と未知の不安、両方が入り混じったドキドキだった。


(私はどうやら他の人より強いみたいですが、学園は集団生活の場! 強いからって自分勝手に振る舞えば追い出される! これから毎日知らない人との生活……。私はやっていけるでしょうか師匠)


 いま師匠がここにいたのならば、デシルの問いに対して「私はやっていけなかったからわからない」と答えるだろう。

 ここから先はデシルが自分で考えるしかない。


 考え事をしながらジョギングコースを走っているうちに時間は過ぎた。

 デシルはホテルに戻り身支度を整えて朝食を食べる。

 そして、オーカとの待ち合わせ場所である学園の門の前に向かった。

 時間はちょうどいい。学園に着いて数分待てば結果が貼りだされることだろう。


「オーカさんはどこかなぁ……。あっ、いた!」


 学園前でデシルはすぐにオーカの鮮やかな赤髪を捉えた。

 彼女は背も高いのでより目立つ。


「オーカさん、おはようございます! お待たせしちゃいましたか?」


「あっ、デシルちゃんおはよう。全然待ってないよ。一時間くらいかねぇ」


「いっ、一時間も!?」


「だってぇ……ドキドキして他のことが手につかないんだもん。しゃーないからずっとここで待ってたってわけ」


「その気持ちはわかります! でも一時間は流石に早く来すぎですね!」


 実際デシルも試験前はソワソワして他のことが手につかなかった。

 ただ、持てる力のすべてを出し切った後のデシルに緊張はない。

 普段通りお腹いっぱいご飯も食べてきた。

 周りの受験生はすでにげっそりして顔の青い者もいるというのに。


「学園職員たちが動き始めてるなぁ……。そろそろ発表みたいだ。デシルちゃんは受かってる自信ある?」


「はい! あります!」


「そりゃそうか……デシルちゃんに自信ないって言われたらここにいる全員が自信をなくすよ。ちなみに私も自信はある!」


「そうこなくっちゃ! オーカさんだって自信ないなんて言い出したらここにいる全員が卒倒しますよ!」


「アハハハッ! その通りだね!」


 緊張で爆発しそうな受験生の中で浮いてる二人をよそに、合格発表の準備は粛々と進み……ついにその時が来た。

 バッと巻かれた大きな紙が広げられ、それが掲示板にビシッと固定される。


 そこにはもちろんデシルとオーカの名前があった。

 デシルに関しては筆記と実技両方でぶっちぎりの一番。他の者の追随を許していない。

 オーカは筆記があまり良くないものの、実技はデシルに次いで二位で総合的に上位につけていた。


 合格を知って二人は喜んだが、大声で騒ぐことはなかった。

 顔を見合わせ、まずは黙ってハイタッチをした。

 二人にとっては当然の結果、通過点なのだ。

 ただ嬉しいのは嬉しいので、しばらくは二人で喜びを分かち合った。




 ● ● ●




 合格発表後は忙しくなった。

 制服の採寸、教科書や必要な道具の購入、入寮の手続き……などなど、あっという間に数日が過ぎた。


 その合間をぬってデシルは師匠への手紙を出した。

 合格を知らせる言葉のあとに長々とお礼を書き加えようかと思ったが、あまり良い言葉が思いつかず、ただ『おかげさまで合格しました』とだけ書いた。


 そして、入学式の日に返事が届いた。

 それも式の最中に派手な方法で。


「ふ、不死鳥だああああああ!!」

「えっ!? 嘘でしょ!?」

「怪しい店で売ってるパチモンじゃないのか!?」

「入学式に幻獣が出るなんて縁起がいい……なんて言ってる場合じゃねぇ!」


 七色に輝く光を放つ神々しい鳥が入学式が行われている体育館に入ってきたのだ。

 不死鳥は誰もが知る存在ではあるがめったに人前に姿を現さない。

 何度でも生まれ変わり続け死ぬことのない鳥で、その羽根や血、涙にはあらゆる癒しの効果があるとされているが確かめた者はほとんどいない幻の存在だ。

 そんな生き物がいま体育館を旋回している。

 それを冷静に受け止められたのはデシル、そして学園長マリアベル・オーキッドだけだった。


(あれは……ヘネス!)


 二人とも同じ名を思い浮かべる。

 ヘネスとは賢者シーファの友人である不死鳥の名だ。

 大賢者といえど不死鳥は飼えるものではない。

 まれに姿を現し、シーファの家で羽根を休めていく。それがヘネスだった。

 デシルもマリアベルも会ったことがある。

 今回は珍しくシーファの頼みを聞いて、デシルへの手紙を持って現れたのだ。

 それは彼なりの祝福だったのかもしれない。


 ヘネスは下にいるデシルめがけて降下する。

 デシルは腕を出してそこにヘネスを留まらせ、口にくわえた手紙を受け取った。

 その後、場を混乱させていることを理解しているであろうヘネスはしばらく体育館を飛び回り、散々人間をからかったあと外に飛び立っていった。


「お、お騒がせしてすいませんでした……。私の知り合いみたいなもので……」


「不死鳥と知り合いになれるなんてどんな人生送ってきたんだデシルちゃんって……」


「あはは……」


 その後もしばらく「不死鳥をパシらせる女」などと騒がれたが学園長の一喝で静かになり、また長い話が再開された。

 マリアベルは喋りつつもその視線をデシルに向ける。


(もう間違いない。あの金髪ポニーテールで大人しそうな顔をした子がデシル・サンフラワー。そしてシーファの一番弟子! ふふっ、シーファと違ってあまりにも素直そうだったから一瞬人違いかと思ったわ……)


 マリアベルの胸に熱いものが込み上げてくる。

 自分の作った学び舎で旧友の弟子を受け入れるという事実を肌で感じ、感動で打ち震えているのだ。


「……長々と話しましたが、何はともあれ楽しい学園生活にしましょう!」


 締めの言葉はまるで自分に向けた言葉のようだった。

 いろんな人に囲まれて、今日からデシルの学園生活が始まる。

入学試験も終わりついにデシルの学園生活が始まります!

引き続き頑張って毎日更新していこうと思います!(二回更新を続けるかは考え中です)

少しでも面白い、続きが気になると思っていただけましたらブクマ、評価、感想などなど頂けると嬉しいです! 励みになります!

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