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010 一番弟子、その力を見せつける

「君が魔法を教えてくれるというまで、この細く引き締まった腰を離さないと思ってくれたまえ!」


「あたしだってこの小さいけど立派な背中に抱き着くのをやめないんだから!」


「わかりましたから試験に戻ってください二人とも!」


 自分に教えを乞うルチルとオーカを何とか落ち着かせ、デシルは次なる試験会場に来ていた。

 移動の際にルチルが他の教師に怒られているのがチラリと見えたが、まあ仕方ないと気持ちを切り替えた。


 次の試験は武術の試験。

 試験官と一対一で武術をぶつけ合ってその能力を示すのだ。

 武器は手に持てる物なら基本何でもよいが、魔法は武器強化および肉体強化魔法のみである。

 製造工程で魔法が封じ込められているいわゆる魔法武器の使用は禁止だ。

 あくまでも受験生本人の武術で戦う必要がある。


 デシルの使用する武器はもちろん師匠からもらった黒い鞘が特徴の刀である。

 これは珍しい武器ではあるが魔法の類はかかっていないただの刀だ。

 ただ振り回すだけなら大したことはない武器だったのだが……。


「ぐわああああああーーーッ!!!」


 デシルの相手をしていた試験官が、白線で描かれた四角い枠線の中から吹っ飛び地面に落下した。

 これでデシルの十九回目の勝利である。


「こ、こんどは何でやられたんだ?」

「風の衝撃波に見えたが、風魔法は禁止のはず……」

「まさか剣を振っただけであの衝撃波を!?」


 周りの受験生たちはもはやデシルの多彩な攻撃を楽しんでいる。

 しかし、当のデシルは一回戦えばいいはずの試験官と何度も戦うことにうんざりしつつあった。


「もうやめましょうよ! 後ろが詰まってます!」


「なぁに……他の試験官がいるし、俺一人ぐらいいなくても構わないさ……。さぁ、もう一回だ……勝てるまでやるぞ……」


 試験官の男は三十代くらいで、試験官を務めだしてから数年受験生に負けたことはなかった。

 そのプライドがデシルを掴んで勝てるまで離そうとしないのだ。

 一回目は武器の両手剣を刀に切り刻まれ敗北。

 二回目はみね打ちで鎧の上から叩かれて敗北。

 三回目は素手で投げ飛ばされ敗北。

 四回目は……。


「くっ……! 申し訳ないですけどここまでにしてください!」


 デシルの姿がフッと消えたかと思うと次の瞬間には試験官の後ろを取った。

 そして、人差し指に魔力を集中させると首筋をトン……と突いた。

 男は気絶し地面に倒れた。


「数時間も寝たら起きると思います。殺してないですからね!」


 ちょっとヤバいんじゃないか……という目で倒れた試験官を見ていた受験生にくぎを刺すデシル。


(ここの先生たちは悪く言えば自分勝手と言うか、欲望に素直です。良く言えば、生徒からでも教わろうとするほど向上心がある。良い人たちだと思うけど、ちょっと熱くなりやす過ぎますね……。それに私はまだまだ誰かに教わる人間であって、教えるなんて大それたこと……)


「ぐわああああああーーーッ!!!」


 考え事をしていたデシルの耳に新たな悲鳴がこだまする。

 それはオーカが試験官を殴り飛ばしたため生まれた悲鳴だった。


「はんっ! どんなもんだい!」


 両手に装備されたガントレットは『素手は流石にマズイ』と学園側から貸し出された防具で、オーカは本来武器を持たない。

 つまり、純粋な肉体強化のみで試験官を倒したのだ。


「やっぱ強いなオーカ・レッドフィールドは……」

「もっと強い子がいるとは思わなかったけど、それでもすごいのはかわらないわ」

「強化魔法だけのタイマンなら教師でも敵わないや!」


 オーカに対する恐れはデシルのおかげで多少薄れていた。

 純粋に彼女を称賛する声がちらほらと聞こえてくる。


「うんうん! そうだろうそうだろう! やっとあたしの魅力がわかってきたか!」


 ニコニコ顔のオーカは大変美人だ。

 でも普段のちょっとムスッとした顔もかわいいと思うデシルであった。


「オーカさん、やりましたね!」


「デシルちゃんも流石だね。さっ、次の試験もこの調子でいくよ!」


 次なる試験は基礎体力試験だった。

 魔法は一切使わず純粋な身体能力を測定する試験である。

 配点はあまり高くないと言われていて、みな手を抜いているわけではないが他に比べるとリラックスした状態で試験を受けていた。

 そんな中でもデシルは全力だった。


「うふふふっ、今の反復横跳びなんだけど~、残像が見えて数えられなかったから、とりあえず満点で許して~」


 試験官ですら目で追えない瞬発力を見せつけたり、持久走を全力疾走したり、握力計を破壊したりしつつ基礎体力試験は終了した。


「はぁはぁ……まさか普通の身体能力でもデシルちゃんに敵わないなんてね……。勝ってるところと言えば身長と体重とあとはスリーサイズくらいだ。それもまあ、そのうち追い抜かれるかもしんないけど」


「私も胸とか大きくなるんですかね?」


「そりゃなるさ。今でも年の割に大きいと思うけどね」


「でもオーカさんほどじゃないです」


「この時期の三歳差は大きいんだなぁ、これが。デシルちゃんもここを卒業するころにはボインボインで胸が邪魔で仕方ないことに悩んでるかもしれないよ。あんま大きすぎると料理の時とか手元見えないらしいし」


「そ、それは困ります!」


 そんな他愛のない話をしながら、二人は次々と試験会場をまわった。

 オーカとの出会いで旅立った時の不安や緊張は薄れ、デシルは持てる力を存分に発揮することができた。


 オーキッド自由騎士学園の入学試験は日が落ちる前にすべて終了。

 あとは合格発表を待つのみとなった。

 笑顔の者、悲しむ者、まだ終わった実感がつかめない者、すべての受験生がぞろぞろと校門から出ていく。


 そんな中、デシルとオーカは必ず明日一緒に合格発表を見ようと誓い、その日は別れた。

 一緒にいたい気持ちもあったが、合格していればこれからも学園で一緒にいられるのだ。

 ならば、今日は一人で静かに過ごそう。二人の気持ちは同じだった。


(師匠にお手紙を書きましょう。旅立って数日しか経ってないのに、もう伝えたいことがいっぱいあるんです。本当にいっぱい……)


 デシルはスキップでホテルへと帰っていった。

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