二度寝の代償
「早く起きろ!寝てる場合じゃないんだ!」
さっき、似た様な言葉を聞いてた気がする。だが今は、もう少し寝ていたい。ということで、
「んーっ、おやすみ」
2度寝を開始した。
どの位時間が経ったのだろうか。俺は、頬に走った激痛で目を覚ました。
「いってぇ。何だ?人が気持ち良く寝てるのに」
目を開けると、そこでには赤い化け物がいた。
俺の目の前で何かを咀嚼している。
黒い布で覆われているが、布が掛かっていない所は肌色で、断面が真っ赤だ。
ーー腕だった。あの黒い布は、制服の切れ端だと判断出来る。
体が動かない。気づかれないように目線だけを動かして、自分の胴体を見てみる。
胴ーーある。
腕ーーある。
足ーーある。
ここまで来て、異常に気付いた。
踏まれている。
現在、俺は化け物の真下にいた。
さっき声を上げたことで、気付かれなかったのは、不幸中の幸いだろう。
しかし、どうやってここから抜け出そうか。 化け物が食べるのに夢中になっている間に、周りの状況を把握する。
生徒、そして教師は、最初に比べて大分減っていた。
残っているのは、40人位だろうか。
全校生徒が436人だったから、犠牲者は約400人か…。歴史上、稀に見る大量無差別殺人事件である。
(こいつら、裁判に出したら速攻で死刑だな。)とか考えながら、目線を化け物に戻すと、奴も俺を見ていた。
目が合ってしまった。
「ヤッベェ……。 お腹いっぱいで、見逃してくれたりしないかなぁ」
「KeAaaaaaaa!!!」
俺は血の付いた腕で持ち上げられた。
「ちょっ、ちょとまった! 俺マズイから! 毒も持ってるし! だから、食べない方が良いって!!」
当然俺は、毒など持っていない。
化け物は、俺の抵抗をもろともせずに口へ運ぶ。
ーーブチブチッーー
「があぁぁあああああ!!!!」
左腕を食い千切られた。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い痛いいぃっ!!!!!
激痛に意識を持っていかれそうになりながらも、歯をくいしばって耐える。
傷口からは、大量に血が流れていて、どんどんと感覚が無くなっていく。
ーーああ……俺、死ぬのか。
もっとやりたかったことはたくさんあったが、不思議と悪い気分では無い。 今までの思い出や記憶が、走馬灯のように浮かんでくる。 そういえば、俺がいなくなったら、俺の部屋はどうなるんだろう。ゲームは売らないで、ちゃんと片付けて保管しておいて欲しいな……そんなことを思いつつ、脳に血が行きわたらなくなり、身体の機能は失われていく。
だが、虚ろになり掛かった目で確かに見た。
首を無くし、崩れ落ちる化け物と、その後ろで佇む人影を。
そこで俺は意識を手放した。