昭和哀愁を愛する人達へ
子供の頃、アニメはよく見ていた、
ドラエモン、ガンダム、ルパン三世、宇宙戦艦ヤマト、メジャー的なアニメは勿論だが、サブ的なアニメ、脚光が必ずしも当らない、そんなアニメが特に好きだった。
1章『ハクション大魔王』
晩秋の夕刻、タケシは何気なしにテレビの電源ツマミを引きテレビを見始めた、ブラウン管からは小学三年生の心を踊らすには十分な軽快でコミカルな音が流れ出す、『くしゃみ1つで呼ばれたからにゃ〜』、タケシは笑った、その笑みは彼自身の歴史で『最も自然に笑った。』と、なる笑みだ、物語はドジで茶目っ気のある主人公と、古い壺の世界から現れる妖精達との、ドタバタ、ファンタジーコメディだ。
貴方は心から笑ってますか?
タケシ『呼ばれて飛びてて、ジャジャジャジャーン‼』『それからどうした?』『お母さん?今日の晩御飯はコロッケにしてよ!』独り言もあるが、いつもより口数の多いタケシに母が驚く、同時に母も笑う、母はタケシを背に忙しく小刻みに夕食支度に励んでいる、日が暮れ始めて、オレンジ色の雲をが拡がり、家々からは温かい電の灯が見え始めた。
タケシは、このアラビアンナイトのような衣装姿の妖精『魔王』がいたく気に入った、魔王は呪文を唱える時にマジックハンドのような魔具を使うのだが、この魔具が生き物のように動く事にタケシは笑いが止まらなかった、時には指先から雷を発し時には人差し指で方向を指す、この『万能魔具』は物語の中では重要なポイントアイテムだった、だから、タケシはこの魔具を心底気に入り使用している魔王も同様に気に入った。
タケシは毎週このアニメを楽しみにしていた、30分という時間が刹那と感じる程短く感じた、人が没頭する事を野生動物が本能に感じるように、子供ながらにもタケシも感じていた、しかし、タケシは、このアニメを学校の同級生に話す事は一度もなかった、その理由としては、このアニメがマイナー的なアニメで話の筋が合わないだろうと高を括っていた事と、1人で楽しみたいという感情が『ピタリ』と一致したからだった。
タケシにとっては、同級生が話すアニメはとてもアンバランスなアニメに感じ退屈感があった、お決まりの『正義のヒーローvs悪者』が単純にも感じていた。
その日が訪れてしまった。
タケシは、その日も朝から楽しみに思い下校の道なりを早足で歩き早々と宿題を片付け、一週間の蓄積された『楽しみ』を散気させようとテレビを素早くつけた。
いつもの様に流れ出すオープニングソング後にタケシは愕然となった『100年の眠り』というタイトルに、一瞬で終わりを感じ取ったからだ。
物語は、魔王達ら壷の妖精達が主人公の『次のくしゃみ』で100年の眠りについてしまうという終話だった、タケシは悲しさのあまりにアニメの世界と自分の世界を無意識に重ねていた、100年後、僕は生きているわけ無いから魔王と会える日も今日が最後なんだ、こんなに楽しい時間を過ごせるのも100年後なんだと、自分では全く回避できない『時間の流れ』に呆然するしかなく涙を流した。