第78話 家族
俺達は皆んなで夕食を摂り、自由な時間を満喫している。
ここは奴等を警戒する必要が無いので、本当に久しぶりに身体を休める事が出来る。
元気は早速渚に話し掛け、一緒に将棋を指している。
俺は本棚から小説を手に取り、ソファーに座った。
「おじちゃん、あそぼ?」
俺が本を読んでいると、千枝が遠慮がちに話し掛けてきた。
首をかしげる姿がとても可愛らしい。
「おっ?久しぶりに遊ぶか!?最近は渚さんや隆二達に千枝ちゃんを取られてたからな!」
俺は千枝を抱き上げた。
千枝はとても嬉しそうに笑った。
「誠治さん、千枝、何してるんですか?」
俺が千枝をくすぐっていると、美希が皿洗いを済ませて話し掛けてきた。
「千枝ちゃんに遊んで欲しいってお願いされてさ!久しぶりに癒しを堪能してる所だよ!美希もどうだ?」
俺は、千枝をくすぐりながら美希に言った。
美希は笑って頷き、俺の隣に座った。
「何だか久しぶりですね・・・千枝が風邪を引いた後から、あんまりこんな時間は無かったですから・・・」
「そうだな・・・。まだ九州に行くって言う目標があるから、本当の意味で落ち着いたわけじゃ無いけど、美希や千枝ちゃんとこうやって過ごせるのは嬉しいよ」
俺は肩にもたれかかって来た美希の頭を撫でながら話した。
千枝は遊び疲れたのか、美希の膝枕で眠ってしまった。
「あのさ・・・。美希に相談があるんだけど良いかな?」
「何ですか?」
美希は首をかしげる。
「俺の実家に帰り着いたら、美希が良ければ籍を入れないか?」
俺は美希に照れながら言った。
「はい・・・!嬉しいです・・・!」
美希は涙を浮かべて喜んでくれた。
「それと、千枝ちゃんの事なんだけど・・・」
「千枝がどうかしましたか?」
美希が寝ている千枝を見て聞いて来た。
「これは美希と千枝ちゃん2人に決めて欲しいんだけど・・・。俺と美希が結婚したらさ・・・千枝ちゃんを養子にしたいんだ・・・。ダメかな?」
俺はこれが正しい選択か正直迷っている。
だが、千枝はまだ8歳だ・・・。
姉妹も大事だが、親という存在は必要だ。
美希と千枝にとっては、姉妹ではなく母と娘になってしまう・・・だから、2人に決めて欲しかった。
「良いんですか・・・?」
美希は驚きの表情で俺を見る。
「俺はそうしたい。千枝ちゃんはまだ8歳だ・・・。親が必要だと思うんだ。でも、そうなると美希と千枝ちゃんは姉妹じゃ無くなってしまう・・・。だから、君達に決めて欲しいんだ」
俺は美希を見つめて語り掛けた。
美希は涙を流した。
「誠治さん・・・。千枝の事を考えてくれてありがとうございます・・・!私も嬉しいです・・・!」
美希は涙を流しながら笑った。
(俺の実家に帰り着いたら、千枝にも言おう・・・。喜んでくれたら嬉しいな)
俺は涙を流す美希を抱き寄せ、眠る千枝の頭を撫でた。
俺と美希は、眠る千枝を眺めながら話をして、消灯時間を迎えた。
「はぁ・・・美希が喜んでくれて良かった・・・」
俺は布団に寝転びながら、先程の事を思い出していた。
まだ緊張が残っているのか、なかなか寝付けない。
俺の近くには元気と隆二が布団にも入らず雑魚寝している。
美希達女性陣は隣の部屋だ。
「少し散歩するか・・・。疲れたら眠気も来るだろう」
俺は布団から出て、音を立てないように外に出た。
11月も半ばを過ぎ、夜は本格的に冷えて来た。
「寒くなったな・・・」
俺は小さく呟き、歩き始めた。
「見回りお疲れ様です・・・」
俺が散歩をしていると、何度か見回りの自衛官達とすれ違った。
ここは安全とは言え、見回りは必要だ。
100%奴等が現れないと言う確証はないからだ。
俺はしばらく散歩をして、自分達の仮設住宅に戻った。
「ん・・・?誰だ?」
俺が仮設住宅の近くに戻って来ると、外に人影が見えた。
俺は身構えて、慎重に近づいた。
「美希か・・・?」
俺が人影に話し掛けると、その影はこちらを振り向き、走り寄ってきた。
「誠治さん、黙って居なくならないでください・・・!心配したじゃないですか・・・」
月明かりに照らされた美希の瞳には、涙が浮かんでいた。
「すまない、なかなか寝付けなかったから、散歩してたんだ・・・。不安にさせてゴメン・・・」
俺は美希の髪を撫でた。
「本当に心配したんですよ・・・?」
美希はまだ涙を浮かべている。
「いやぁ、さっきの事を思い出してさ・・・美希が喜んでくれたのが嬉しくて、眠れなかったんだよ!」
美希は恥ずかしそうに俯いた。
俺は美希を抱き寄せた。
「誠治さん・・・良かったら・・・」
美希は俺の服を引っ張り、誰も使っていない仮設住宅に連れて行った。
「美希・・・?」
「誠治さん・・・私、誠治さんの赤ちゃんが欲しいです・・・。誠治さんが娘にしたいと言ってくれた千枝の為にも、赤ちゃんが欲しいです・・・。私や兄さんみたいに、千枝を愛してくれる弟か妹が欲しいです!」
美希はそう言い、キスをしてきた。
俺は美希を床に寝かせ、彼女を抱いた。
俺は美希を抱いた後、しばらく美希と話をした。
「美希、良かったら、四国を発つ前に病院で検査をしてみないか?妊娠してるかどうかさ・・・。まだ早いかも知れないけど、人によっては10日位で判るみたいなんだ」
「判りました・・・。赤ちゃん、出来てたら嬉しいな・・・!」
美希はそう言うと、笑顔で俺にキスをした。