第78話 火葬
俺達は彼等に歓迎され、一緒に飲んだ。
俺はあまり酒を飲む方ではなかったが、元気が次々と勧めてくるのを断りきれず、普段以上に飲んでしまった。
「誠治、あんたは良い仲間に出会えたんだな・・・安心したよ・・・」
俺が酒に酔いぼーっとしていると、元気が静かに呟いた。
「最初あんたに会った時は、全てを警戒してたからな・・・。今日あんたと仲間を見て安心したよ・・・」
「あの時はすまなかったな・・・。色々あって、元気達を信用しきれなかったんだ・・・。でも、あの後彼等と出会った。2人死んだけど、彼等と出会えて良かったよ・・・」
俺と元気は酒を飲むペースを落とし、美希や渚達を見た。
美希は同い年くらいの子達と楽しそうにしている。
渚と隆二は若い男衆に囲まれ、今までの事を話し、由紀子は母親達から、妊娠中の注意などを受け真剣に話を聞いている。
千枝は他の子供達と遊んでいたが、今は一緒になって寝ている。
「さっきも言ったが、あんたは彼等を守ったんだ。今の仲間の笑顔は、あんたが居なけりゃ此処には無かった・・・。だからあんまり自分を責めちゃいけねぇよ」
俺は会話の途中で悠介や慶次、夏帆の事を思い出していた。
それを見ていたのだろう。
元気は俺を見て言ってきた。
「あぁ、心配かけてすまなかったな・・・。元気も家族や仲間を亡くしてるのにな・・・」
「構わねぇよ。今日はせっかく会えたんだ!しんみりするのはここまでにして、楽しもうや!」
俺は頷き、もう一度2人で乾杯をした。
「誠治さん!やっぱりあんた凄かったんだな!?渚さんに聞いたが、脱出する時、1人で30体以上相手にしたんだって!?」
俺と元気が2人で飲んでいると、あの日元気と共にいた男が話しかけてきた。
そいつは、慎吾と名乗っていた。
「そりゃあ凄えな・・・!戦い馴れてそうだったが、まさか其処までとは恐れいった!誠治、良かったら、こいつらにもあんたの戦い方を教えてやってくれ!この先どうなるかは判らないからな・・・」
「あぁ、良いよ。俺達がここに滞在する間で良ければな!」
「ありがてぇ!なら早速明日から頼む!あ・・・確か明日は悠介君の所に行くんだったな・・・。誠治、良かったら俺も行って良いか?命を懸けて妹達を守った勇敢な兄貴を見送ってやりてぇんだ・・・」
「あぁ、俺からも頼むよ・・・。あんたは悠介にとっても恩人だからな。きっと悠介も喜ぶよ!」
俺は元気に頭を下げ、その後もしばらく宴会を楽しみ、飲み疲れた皆んなはそのまま雑魚寝をした。
午前10時、俺達は元気と共に火葬場に向かった。
悠介の遺体を荼毘にふすためだ。
「良い顔をしてるな・・・。満足そうな顔をしてやがる・・・」
「あぁ・・・。最期まで笑って死んでいったよ。なんで笑えるんだろうな・・・。道半ばで死ぬ事が悔しくないのかな・・・」
俺は元気に問い掛けた。
皆んなは、俺と元気の会話を黙って聞いている。
「さあな・・・。俺の仲間達も、死ぬ時は笑顔だった・・・。自分の命より大切な物を守れた満足感かもしれねぇな・・・」
俺は元気の言葉に納得した。
俺も仲間を守って死ぬならば、きっと笑って死ぬだろう。
そう思うと、不思議と腑に落ちた。
「さてと、待ってる間どうするかな・・・」
俺達は、悠介の遺体が炉に入るのを見送り、2時間程待つ事になった。
俺達は悠介との別れを惜しみ、火葬場で待つ事にしたが、暇を持て余してしまった。
「取り敢えず、飯でも食うか?今朝は皆んなバタバタして朝飯を食ってなかっただろ?」
「そうだな・・・。そうするか?」
俺は皆んなに問い掛けた。
「そうしましょう!兄さんも私達が元気がないままだと困るかもしれませんし!そうですよね、元気さん?」
「その通りだ!美希ちゃんは強いな!流石はあの勇敢な男の妹だ!」
元気は美希の言葉に笑顔で答え、大きく頷いた。
「自衛隊の人達が、お昼を用意してくれてるみたいだし、控え室でいただこうか」
俺は皆んなに言い、控え室で昼食を食べた。
千枝は元気にも慣れたのか、昼食の後は元気と渚に遊んで貰っていた。
元気は子供が居ただけあり、子供の扱いが上手かった。
2人共子供が好きなだけあり、楽しそうだ。
(なんか、あの2人はお似合いだな・・・)
「なんか、元気さんと渚さんて良い感じですね・・・」
美希が俺に小さな声で呟いた。
同じように感じたらしい。
俺は笑って美希に頷いた。
「渚さんにも幸せになって欲しいです・・・」
美希は微笑んで呟いた。
美希は渚の事を心配していた。
慶次と渚は昔付き合っていたのだ・・・。
別れたとはいえ、その後も互いに思い合っていた。
そんな中で慶次が死んだのだ。
美希が心配するのも頷ける。
「そう言えば、最後の見張りの時、渚さんに告白されたよ・・・」
「誠治さん・・・今何と・・・?」
美希は青ざめて聞き返した。
「渚さんに、好きだと言われたんだよ。まぁ、彼女自身は知っていて欲しかっただけらしい。彼女が俺を意識し始めたのは、俺と美希が付き合い始めた後だったらしいし、自分を選んで欲しいなんて思ってないって言ってたよ。俺とは、今まで通り憎まれ口を叩き合ってる方が楽しいって言われたよ」
美希は安堵の表情を浮かべた。
「でも、あれだよな・・・告白してきた相手に、告白と同時に振られるってなかなか貴重な体験だよな・・・」
俺は肩を竦めて呟いた。
「誠治さんは、私だけを愛してくれたら良いんです!あっ!千枝は例外ですよ!?」
美希は力強く言ってきた。
「美希・・・なかなか言うようになったね・・・」
「そりゃあまぁ・・・私は誠治さん以外見てませんし・・・」
美希は恥ずかしそうに呟いた。
(他の女性にはあまり優しくしない方が良いな・・・。誠治さん退いて!そいつ殺せない!なんて台詞を言いそうだ・・・)
俺は美希を見て、そんな事を考えた。
俺達は控え室でゆっくりと待ち、職員に呼ばれて収骨室へと向かった。
そこには、炉から出て、いまだに熱を放つ台車があった。
俺達はその上にあった悠介の遺骨を骨壷へ収め、火葬場を後にした。
「終わったな・・・これで本当にお別れだな・・・」
俺は骨壷を持つ美希を後ろから眺めながら、小さく呟いた。