第4話 かくて世の終わり来たりぬ
「夏帆! どこだ!!」
俺は、駅に入るなり声を上げて彼女の名前を呼び、改札から出て来る人々の中を必死に捜した。
人を喰う奴が1人では無く、複数居たとして、電車の中に現れたら、逃げ場の無い車内だと無事では済まないと思い、夏帆の身が心配だったからだ。
「誠治さん!こっちこっち!」
夏帆が手を振りながら改札を抜けて来る。
「どうしたの、そんなに慌てて?」
俺は、小走りで近付いてきた夏帆を抱きしめ、無事である事を確認した。
「夏帆、説明は後でするから、今は黙って俺についてきてくれ!」
俺は彼女の返答を待たずに、手を握って走り出した。彼女は少し痛そうにしていたが、俺について来てくれた。
「何あれ、事件か何かあったの?」
今しがた駅から出て来た人達は、広場の様子を見て騒然としている。
夏帆を連れて始まるつつ、人垣の間から広場の様子をうかがうと、人が数人倒れているのが見えた。あの女の仕業だろう。
「え?事件があったの?」
夏帆が尋ねてきた。
「そんな生易しいものじゃない! 後でちゃんと説明するから、今は此処を早く離れないと!」
俺は夏帆に強い口調で語りかけ、人垣に沿って広場の出口を目指した。
「そこの女、今すぐその人から離れなさい!」
俺はその声を聞き、もう一度広場の方を見た。警察官が駆けつけたようだ。
「離れろと言ってるんだ!」
女は、倒れている被害者に覆い被さる様にして何かをしている。
「あの女の人、男の人を食べてる!?」
夏帆にも見えたらしい。俺の手を強く握り返して呟いた。
2人の警察官は女に対して拳銃を向けている。
「その人から離れて、手を上げろ!」
警察官は再度女に警告し、少しずつ距離を詰めて行った。
女はそれに気づいたのか、警察官の方を見てゆっくりと立ち上がった。
「そのまま地面に手をつけ!」
警察官が拳銃を向けたまま指示を出す。
だが、女はその指示を無視し、警察官へと近付いて行く。
「止まれ!止まらなければ撃つぞ!」
警察官が叫ぶ様に警告する。
女の顔は血で汚れ、手には被害者の一部と思われる残骸を持っている。
「うっ・・・!」
それを見た夏帆が吐きそうになる。
「今は我慢してくれ、このまま俺の家まで走ろう!」
俺は夏帆の事を気にかけつつ走る。
後少しで広場を抜けられる。
「止まれ! こ、こっちに来るな!」
警察官が恐怖に引きつった様な声を上げた。
ガァァァン!!! ガァァァン!!!
大きな破裂音が響いた。警察官が女に向けて発砲したのだ。
「キャアッ!!」
俺の後ろで夏帆が悲鳴を上げる。
周りの人垣も発砲音に驚き身体を強張らせていた。
俺は撃たれた女を見て戦慄した。女は撃たれたにも関わらず、平然として警察官に近付いて行く。
「こっちに来るな! 来ないでくれ!」
女を撃った警察官は、自分に近付いて来る女に恐怖し後ずさったが、足がもつれて後ろに倒れてしまう。
仲間の警察官は、撃たれても意に介さず歩く女の未知の恐怖に呆然としている。
ガァァァン! ガァァァン! ガァァァン!
カチッ! カチッ! カチッ!
女はなおも近付いて行く。
倒れた警察官は、そのまま後ずさりながらさらに発砲し、弾切れになっても引鉄を弾き続けた。
「や、やめろ! やめてくれ・・・! ぎゃっ・・・ぐっ・・・あぁっ・・・い、痛い! 助けっ・・・がっ・・・」
女が倒れた警察官に襲い掛かり、貪り始める。
広場を囲む人々は、その光景に一瞬静まり返り、やがて堰を切ったかのように絶叫し、逃げ惑い始めた。
「こんな事が現実に起こるなんて・・・」
夏帆が涙を浮かべながら呟いた。彼女の掌は、俺のものか彼女ものか、かすかに汗ばみ、あまりの恐怖に小刻みに震えていた。
俺はそんな彼女の手を、離れないよう再度握り返し広場をあとにした。
色々と至らぬ点もあるかと思いますが、頑張ろうと思います。