第47話 実験
俺と悠介は、お互い無言のまま朝を迎えた。
美希に合わせる顔がないと悶々としていたが、時間は残酷にも早く過ぎていった・・・。
「誠治さん、兄さん、おはようございます!見張りお疲れ様です!・・・2人ともどうかしたんですか?」
最初に起きて来たのは美希だった・・・。
(あぁ・・・神は死んだ・・・)
「いや・・・なんでも無いよ・・・。ただ、思いの外疲れただけだよ・・・」
「そうですね・・・」
俺と悠介は力なく答えた。
美希は不思議そうな顔をしている。
「おじちゃん!お兄ちゃん!おはようございます!」
千枝か満面の笑みで挨拶してくる。
汚れのない無邪気な笑顔が俺と悠介の心を抉る・・・。
「あぁ・・・おはよう千枝ちゃん!良く眠れたかい?」
俺は気持ちを切り替え、千枝を抱き上げて挨拶をした。
やはり千枝は癒される・・・。
可愛いは正義とはよく言ったものだ。
「あのね、渚お姉ちゃんも一緒に寝てくれたから、ぐっすり眠れたよ!」
「そうか、なら渚さんにお礼を言わなくちゃな!」
(渚・・・あんたって人は・・・)
逞しい渚に、俺は内心呆れてしまった。
「そろそろ皆んな起きてくると思いますよ!」
「だったら、朝食の準備でもしておこうか?」
美希に提案し、一緒に朝食の準備を始めた。
(なんか良いな・・・こういうの・・・)
「朝食はパンで良いですかね?」
「良いんじゃないかな?」
俺は、美希との準備を楽しみつつ、お湯を沸かしてスープの準備をする。
俺は基本的に朝食はご飯派だが、数が限られているので、文句は言わない。
「おはよう!・・・なんだ、もう殆ど準備出来てるじゃないか・・・。任せてしまって悪いな」
渚が出来上がった朝食を見て、すまなそうにしている。
他の皆んなも、渚のすぐ後に揃った。
「まぁ、良いんじゃないか?そう手間の掛かるもんでも無いしな。皆んな揃ったし、食べようか?」
俺は渚に言い、皆んなで朝食を摂った。
「さて、始めるか!」
俺は朝食を済ませ、今は車庫に居る。
俺の他には悠介、慶次、隆二だ。
今日は、俺達の車に、先日手に入れた遮光フィルムとカーテンを取り付ける。
「俺、これ貼るの初めてなんだけど・・・。皆んなはどうだ?やった事あるか?」
俺は自信なさげに皆んなに聞いた。
誰1人として、首を縦に振る者は居なかった・・・。
「まぁ、良いんじゃないですか?奴等から見えなければ良いだけですし、多少不恰好でも大丈夫ですよ!」
「まぁ、そうだな!取り敢えず、俺の車にだけ貼って実験してみよう!それで奴等に効果があったら、他の車にも貼るって事で良いかな?」
隆二の言葉に同意し、俺達は作業を開始した。
渚には、交番の見張りを頼んでいる。
車庫に居る俺達には、通りの様子が見えないからだ。
「なかなか難しいな・・・。どうしても気泡が出来る・・・」
「誠治さん・・・。さっき適当で良いって言ったばかりじゃないですか・・・」
悠介が、気泡に悪戦苦闘している俺に言って来た。
「すまん・・・。やりだすと凝ってしまう性分でな・・・」
「俺も止まらなくなるから、その気持ちは解るぞ」
慶次が頷いている。
悠介と隆二は、そんな年長2人組に呆れている。
なんだかんだで、悠介と隆二は仲が良い。
歳が近くて似た者同士と言うのもあって、暇な時はよく2人でくだらない事を話している。
その度に美希と由紀子に呆れられている。
「まぁ、そんな目で見るなよ・・・。時間も限られてるし、手早く済ませるよ・・・」
俺は2人に言い、作業を続けた。
「出来た・・・。長く苦しい戦いだった・・・」
「あぁ・・・なかなかの強敵だった・・・」
俺と慶次は完成した車を見て呟いた。
シャワールームの一件以降、慶次のノリが軽くなった気がする。
俺の冗談にも、控え目ながら乗って来てくれる。
「おっさん達・・・まだ終わりじゃないんだから、ふざけてないで実験しないと・・・」
隆二がボヤく・・・。
すかさず慶次の拳骨が炸裂し、隆二がダウンした・・・。
「おっさんじゃない。俺はまだ20代だ」
(そうですか、じゃあ30代はどうなんですか?)
俺は少し落ち込んだ・・・。
「まぁ、冗談はさて置き、行ってみますかね・・・。どうします?20代の慶次さんや・・・」
「・・・すまん。別に誠治さんが・・・30代がおっさんと言う意味で言った訳では無かったんだ・・・」
珍しく慶次が慌てている。
「冗談だよ・・・だから、きにしないでくれ。取り敢えず、俺は行くとして、もう1人運転手が欲しいな。俺が奴等を誘き寄せて車に戻るから、運転をして欲しいんだが・・・」
「なら、俺が行こう。もし失敗したとしても、誠治さんと俺なら、ある程度の数は対処出来るだろうしな」
慶次が自ら立候補した。
「おっ、これは頼もしい!何気に一緒に行くのは初めてだな!まぁ、頑張ろうか!」
慶次は力強く頷いた。
「じゃあ、渚さん達に言ってから行こうか!」
俺と慶次は車に乗り込み、実験をすべく街にくりだした。
俺達はしばらく車を走らせ、比較的奴等の少ない場所を見つけ、実験を開始した。
「俺が先を歩いて奴等がいないか確認するから、後ろからついて来てくれ」
「あぁ、了解した」
慶次が小さく頷いた。
俺は助手席から降り、ゆっくりと周りを確認しながら先をあるいた。
交差点の角に隠れて奥を見る。
「2体か・・・。丁度良いな」
交差点から少し離れた場所に奴等を発見し、慶次にジェスチャーで待つように指示した。
カンッ!
俺は交差点の真ん中に出て拾ってきた空き缶を投げた。
奴等が音に反応し、俺の方を見た。
「ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛・・・」
奴等が、呻き声を上げて近付いてくる。
俺は奴等が追って来るのを確認し、車に戻った。
「さて慶次さんや、どうなると思うかね?」
「誠治さん・・・その呼び方はやめてくれ・・・。呼び捨てで良い・・・。そうだな、成功してくれるとありがたいが・・・」
「了解!じゃあ慶次、成功してもしなくても、念の為もう一度試してから戻ろう。個体差があるかもしれないからな。おっ・・・来たな・・・」
俺は、折りたたみ式の日除けの隙間から奴等を確認し、息を殺して様子を伺った。
「ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛・・・」
ズズッ・・・ ズズッ・・・
奴等の呻き声と、足を引きずる音がする・・・。
俺は、奴等が車の真横に来た所で、慶次にカーテンの隙間から見るようにジェスチャーで指示をした。
「どうだ・・・?」
「今の所気付いていない・・・」
俺達は小声で話す。
ズズッ・・・ ズズッ・・・
足音が少しずつ遠ざかる・・・。
「成功だな・・・。さっき言った通り、もう一度試そう・・・」
俺は慶次に言い、次の奴等を探した。
結果、2度目も成功した。
俺と慶次は喜んだ。
だが、俺の表情はすぐに曇った・・・。
「どうしたんだ・・・?」
慶次が訝しむ。
「慶次・・・今思ったんだが・・・。成功したって事は、あと2台もあの作業をしないといけないんだよな・・・」
俺の言葉に慶次は渋い顔をした・・・。
(これは、今日は他に何も出来ないな・・・)
俺達は、内心うんざりしながら帰路に着いた・・・。