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The End of The World   作者: コロタン
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第43話 自業自得

  「準備を任せきりにしてしまってすまなかった・・・。進み具合はどうだ?」


  俺は悠介に美希との事を報告し、車庫に下りて出発準備の進行具合を渚達に確認した。


  「いや、構わんよ。そこまで手間は掛からなかったからな!」


  渚に話しかけると、丁度終わったところだっあらしい。


  「千枝ちゃんも手伝ってくれたからな!張り合いがあると言うものだ!」


  渚は、由紀子達と遊んでいる千枝を見て微笑んだ。

  渚は千枝の相手をしている時はかなりデレる・・・それはもう気持ち悪いくらいにデレデレだ。

  初めて千枝に渚お姉ちゃんと呼ばれた時なんか「この子を貰えないか!?」と言い、目が怖かった・・・。

  美希は、千枝は人見知りをし易いと言っていたが、今の所そんな素振りは見せていない。

  自分が信頼出来るか否かで判断しているのだろうか?

  一度慣れてしまえば、凄く懐いてくる・・・猫みたいな子だ。


  「本来なら、この状況で子供がいると言うのは不利になるはずなのだが・・・。不思議なものだな・・・あの子が居てくれるだけで、どんな状況でも頑張ろうと思える・・・。諦めてはならないと自分を奮い立たせる事が出来る・・・」


  渚は感慨深い顔をしている。


  「あぁ・・・だから、俺は自分を保てる・・・。あの子にはいつも感謝してるよ」


  渚は俺の言葉に頷いた。


  「じゃあ、そろそろ出発しようか?」


  「誠治さん、ちょっと良いだろうか?」


  悠介と美希が下りてくるのを待って、車に乗り込もうとした時、俺は渚に引き止められた。


  「ん?何かあったか?」


  俺は渚に問いかけた。


  「誠治さんの車には、私と慶次が乗ろうと思うのだが、どうだろうか?」


  何故だろうか・・・。


  「誠治さん達は昨日走り回って疲れているだろう?今日は悠介君の車に乗って休んでくれ。それに、その方が千枝ちゃんも安心するだろう?昨日の千枝ちゃんは、見ているこっちまで辛くなる位に落ち込んでたからな・・・少しでも甘えさせてやって欲しい・・・」


  渚は俺と美希に近寄り、千枝に聞こえないくらいの小さな声で言ってきた。


  「気を遣わせてすまない・・・。じゃあ、お言葉に甘えてそうさせて貰おうか?」


  そう言って美希を見ると、美希も小さく頷いた。






  俺と美希は、悠介の車の後部座席で千枝と遊んでいる。

  悠介は、時折ルームミラーでそれを見て、顔を綻ばせている。


  「千枝ちゃん、昨日は心配させてごめんな?」


  俺は、膝の上に座ってはしゃぐ千枝に改めて謝った。


  「うん!許してあげる!・・・おじちゃん、お姉ちゃんを守ってくれてありがとう!」


  千枝は笑顔でそう答えてくれた。

  美希は俺の隣に寄り添い、千枝の頭を撫でている。


  「家族なんだから、当然だよ!」


  俺は千枝を抱きしめた。

  千枝は嬉しそうにはしゃいでいる。

  久しぶりにゆっくりと休めている気がする・・・。

  思えば、この状況になってからと言うもの、昼夜問わず警戒していた。

  体力には自信はあるが、流石に精神面の疲労は激しい。

  この機会に、生きたマイナスイオンとも言える千枝成分を存分に補充しておこう。


  「ん?千枝ちゃん、ちょっと眠くなってきたかな?」


  少し大人しくなった千枝を見てみると、少し垂れ目気味の千枝の目は、瞼が重そうになっている。

  悠介の話しでは、昨夜は千枝も遅くまで起きて、俺達の帰りを待っていたらしい・・・。

  眠くなるのも当然と言うものだ・・・。


  「誠治さん、千枝重くないですか?良かったら、私が変わりますよ?」


  美希が俺を気遣ってくれる。


  「大丈夫だよ。千枝ちゃんは軽いし、次はいつこうやって甘えさせてあげられるか判らないからね・・・。だから、今日は出来るだけ一緒に居てあげたいんだ・・・」


  俺は、膝の上で眠りに就いた千枝の頭を撫でながら美希に答えた。


  「そうですね・・・。早く次の町で休ませてあげたいです。兄さん達にも心配掛けてごめんなさい・・・。あまり寝てないはずなのに、運転までさせてしまって・・・」


  「美希、それは気にするなって言っただろ?誠治さんが一緒だったから、無事だろうとは思ってたよ!確かに、心配ではあったけど、美希達だって怖い思いをしてたんだから、お互い様だよ!」


  美希は昨日の事で休めていない悠介達を気遣ったが、悠介はルームミラー越しに俺達を労ってくれた。


  「それより誠治さん・・・。昨夜はどうでした?」


  ルームミラー越しに見える悠介の顔がニヤついているが、どうしたのだろうか?


  「周りに奴等が少ない所を選んだから、大丈夫だったって説明しなかったっけか?」


  俺は疑問に思いながらも悠介に答えた・・・。

  悠介は相変わらずニヤついている・・・。

  美希も訝しげに悠介を見ている。


  「そういう事じゃないですよ・・・。愛し合う男女が夜に2人きりだったんだ・・・。まさか、何も無かったなんて事は無いんじゃないですか?」


  俺は悠介の言葉を聞いて、狼狽して冷や汗が出た・・・。

  悠介と目が合った・・・してやったりって顔だ・・・。

  ムカつくニヤケ顔で俺を見ている・・・。

  

  (くそっ・・・悠介のくせに生意気だぞっ!そんな事聞いちゃダメなんだぞっ!そう言う話は、人のいない場所でするからこそ楽しいんだぞっ!)


  俺は、心の中でそう思っていると、車の中の空気が重くなり、凄まじい圧力を感じた・・・。

  俺は横から良からぬ気配を感じ、隣に座る美希を見て戦慄した。


  (美希の目が怖い・・・まさに虫を見る目だ!俺が以前向けられた物よりもキツい・・・!!この気配・・・これが殺気ってやつか・・・!?)


  俺はあまりの恐怖に縮み上がった・・・。


  「いやぁ、贔屓目に見ても、美希は可愛い方だと思いますよ?誠治さんは夏帆さんと付き合ってたんだし、結構な面食いでしょう!?美希と2人きりなら、そういう事もあったんじゃ無いかと思いましてね!」


  悠介はさらに続ける・・・。

  美希はブツブツと小さく何かを呟いている・・・。

  正直、かなり怖い・・・。

  悠介はまだ気付かずに話を続けている。


  (やめろ悠介!死ぬ気か!?お前このままだと、美希に殺されるぞ!!運転してるお前が死んだら、後ろの俺達はどうなる!?俺はまだ死にたく無い!!!)


  俺は、必死にルームミラー越しにアイコンタクトをしようと試みるが、悠介は気付かない・・・。


  「兄さん・・・」


  美希はドスの効いた声で呟く・・・。


          ゴクッ・・・


  俺は唾を飲む・・・。

  さっき水分補給をしたのに、喉が異常な程に渇いている・・・。

  悠介を止めようにも声が出ない。


  「兄さん!!」


  美希が叫んだ。

  それはもう、凄い声量だった・・・隣に座っている俺は、鼓膜が破れるかと思った。

  悠介は美希の声に驚き、どう言う状況か理解して、顔が青くなっている。


  「どうしたの・・・お姉ちゃん・・・」


  美希の叫びで起きてしまった千枝が、瞳に涙を浮かべて美希に問いかける。


  「ごめんね千枝・・・びっくりしちゃったよね・・・?なんでも無いから、ゆっくりと休んでて良いのよ・・・」


  美希は優しく千枝に言い、頭を撫でてやっている。


  「兄さん・・・。後で話があるので、休憩中にでも時間を作ってください・・・良いですね?」


  「い、いや・・・安全な場所で休憩するとは言っても、奴等を警戒しないといけないし・・・色々と準備や話し合いもあるし・・・!それに・・・」


  「それは大丈夫です・・・渚さん達には、私から頼んでおきますから・・・。逃げたら・・・解りますよね・・・?」


  悠介の言い訳を遮り、美希はドスの効いた声で言った・・・。

  これは死刑宣告に等しい・・・。


  「・・・はい」


  悠介は震える声で力なく返事をした。

  その目には涙が浮かび、顔色は真っ青だ・・・。


  (悠介・・・自業自得だ・・・。諦めろ・・・。もし生きてたら、今夜見張りの時にでもゆっくりと話してやろう・・・)


  俺は心の底から悠介の心配をした。






  

  俺達は、出発してから2時間程の所にあったコンビニの駐車場で休憩を取る事になった・・・。

  コンビニの中に奴等がいない事を確認し、残っている物資が無いかと棚を物色し、車の元に戻った。

  店舗を出る時、美希が逃げようとする悠介を捕らえ、俺や渚達に先に戻るように言った。

  

  「安全を確認したとは言え、グループから離れるのは危険だ!」


  渚は美希に注意したが・・・。


  「先に戻っててください・・・」


  美希の殺意と怒気をはらませた作り笑いに、渚は身の危険を察知し「ひっ・・・!?」と怯えた声を出して後ずさった・・・。

  渚の目元に光るものを見つけたが、そっとしておいた・・・。


  「では、また後で・・・。兄さん・・・こっちに・・・」


  殺気を撒き散らす美希と、怯える悠介を残してコンビニから出ると、しばらくして悠介の絶叫が響いた・・・。




  その日、悠介は死んだ・・・。




  と、言うことは無く、彼は左頬に赤い手形のミミズ腫れを作って項垂れて戻って来た・・・。

  美希は怒りが収まったのか、スッキリした顔をしている。

  悠介はと言うと、怯えた表情で泣いている・・・。


  「悠介・・・怖かっただろう・・・?俺も車の中では、生きた心地がしなかったよ・・・」


  俺は力なく項垂れ、左頬をさする悠介を慰めてやった・・・。

  美希を絶対に怒らせてはならない・・・。

  俺は悠介を見ながら心底そう思った・・・。

  


  

  


  


  









  

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