第3話 終わりの始まり
俺は今、駅前広場のベンチに座っている。ここは夏帆とデートする時の待ち合わせ場所にしている。この場所からだと、駅から夏帆が出て来た時にすぐに見つけられるのだ。
本屋から出てすぐに夏帆からメールがあったので、あと10分もすれば駅に着くはずだ。
広場に来る途中、やけにパトカーと救急車が走り周っていたが、事故か何かだろうか?もしかすると、夏帆の乗った電車に何かあったのかと思い、メールしてみたが、特に問題は無いらしい。
俺は夏帆を待ちつつ、行き交う人を眺めていた。
今日はハロウィンという事で、広場でイベントがあるらしく、多くの人で賑わっている。
ハロウィンのコスプレをした人達や、買い物帰りの主婦、帰宅途中の学生など様々な人で溢れている。
俺が、いかにもホラーなコスプレをした大学生くらいの男子を見ていると、彼が友人になにやら言っている。
「おい、あの人のコスプレヤバくね!? めっちやリアルなんだけど!」
「おぉ、マジじゃん!すげーなアレ!」
彼等の見ている方に目をやると、20代くらいの1人の女性が覚束ない足取りで歩いている。
ゾンビのコスプレだろうか? 肌の色、血糊、傷の再現度など、確かに凄いクオリティのコスプレだ。映画の特殊メイクと言っても過言じゃないほどだ。
「気合い入ってるなあの人・・・」
俺はその女性のコスプレを見て感心する。たかが街のイベントでそこまで気合い入れてどうすんだとも思うが・・・。
周りの人達は、その女性のあまりの不気味さに距離を置いている。
すると、大学生グループの1人が女性に近づきつつ話しかけた。
「お姉さん、凄いコスプレだね!めっちやリアルで怖いんだけど、自分でメイクしたの?」
彼はフレンドリーに話しかけるが、女性は彼の方を見るばかりで答えない。
「お姉さん、無視しないでよ! まさか役になりきってる?」
彼が話しかけつつさらに近寄ると、女性は彼に掴みかかった。
「ちょ、お姉さん何ムキになってんの!? いきなり掴み掛かってくるとかマジ意味わかんねーんだけど!」
彼は女性を振り払おうとするが、なかなか離れない。彼が友人に助けを求めようと後ろを振り返った瞬間、女性が彼の首に噛み付き、肉を喰いちぎった。
一部始終を見ていたはずの俺は、目の前で起きたあまりの出来事をすぐには理解出来なかった。
「あ゛あ゛あ゛・・・いたっ・・・やめっ・・・」
彼はもがき、ようやく女性を引き剥がしたが、その反動と痛みでその場に倒れた。
引き剥がされた女性は、喰いちぎった肉を咀嚼し、飲み込み、さらに彼に襲い掛かった。
彼の友人達も、あまりにも非現実的な光景にしばらく動けなくなっていたが、我に返って、襲われた友人の元に駆け寄った。
「え、何!? 映画か何かの撮影!?」
道行く人達の中には、それを撮影か何かだと勘違いしている者もいる。
だが、 俺の本能がアレはヤバいモノだと警鐘を鳴らしている。今すぐ此処を立ち去らなければ、命は無いと感じる。
俺は腕時計を確認し、そろそろ夏帆が着いているであろう駅の入り口まで走った。
彼女を連れて逃げるため、俺は人にぶつかるのも構わず一心不乱に走った。