第29話 最後の夜
俺達は夕食の後、それぞれ風呂を済ませた。
今日は俺が千枝と入る事になったのだが、いくら子供とは言え、女の子と入るのには抵抗がある・・・。
千枝は可愛いくて癒やされるのだが、湯船に気楽に入れないのはなかなか辛い・・・。
今は22時、今夜の見張りは3人交代でする事になった。
悠介と美希は22時から翌6時までを4時間交代で、俺は0時から2時と5時から7時までを2時間ずつ休む予定だ。
「この家は、数日でしたけど楽しかったです・・・」
「そうだな、ここの前のガレージではゆっくりと寝られなかったし、風呂も無かったしな・・・。 これからは、この家みたいにゆっくりは出来ないと思う・・・すまないが、九州に着くまでは我慢して貰えたら助かる・・・」
「そんな! 私達兄妹にこんなに色々してもらって、誠治さんには感謝してもしきれませんよ・・・忙しいのに、千枝の面倒まで見て貰って・・・本当にありがとうございます!」
美希は頭を下げてきた。
「俺も君達には助けられてるよ・・・君達と一緒に居ると、楽しいんだ・・・。 もし、君達と出会ってなかったら、俺は自分を見失ってたかもしれない・・・」
俺は人を殺したのだ・・・しかも、それに対して何も感じなかった・・・。
彼等と出会わなければ、さらに手を汚していたかもしれない・・・。
「だから、お互い様さ! 悠介はちょっと抜けてるけど、家族思いで良い奴だし、千枝ちゃんは優しくて、天真爛漫で癒やされる・・・美希ちゃんはも優しくて、働き者で、兄妹をしっかりフォローして彼等を支えてる・・・君達を見てると、家族の大切さを改めて実感する・・・それを見ているだけで、俺は救われてるよ」
「兄さんがちょっと抜けてるのは同感です!」
美希は笑って言った。
俺もつられて笑った。
「美希ちゃんは可愛いし、家事全般出来て気が利くしモテそうだよね? 」
俺はふと思った事を言った。
「そ、そんな事無いですよ! 私、休学してたので、友達は皆んな卒業してましたし、復学してからは、皆んな歳下でしたから・・・まぁ、告白された事はありましたけど、父が亡くなったり、私の病気だったりで恋をしてる暇は無かったです・・・」
「そっか・・・好きな人とかは居なかったの?」
「それは・・・前は居なかったです・・・」
ほほう・・・前はって事は、今は居ると?
こんな良い子に惚れられるとか幸せ者だな!
「そっか・・・こんな状況じゃなかなか難しいかもしれないけど、無事に九州に行けたら、恋をするのも良いかもね・・・俺も、夏帆と出会って人生変わったからね・・・」
「そうですね・・・でも、私は望み薄いと思います・・・」
俺の言葉に美希は自信無さげに答えた。
「自信持ちなよ! 美希ちゃんなら大丈夫だ! 俺が保障しよう! まぁ、俺の保障とかあんまり当てにならないかもしれないけどね・・・」
「ふふっ! 誠治さんが言うなら、頑張ってみますね!」
美希は微笑みながらそう言った。
「誠治さん、そろそろ休んじゃってください!」
「えっ? まだもう少しあるけど・・・」
「いえ、いつもお世話になってますからね! 休める時に休んでください!」
美希はそう言うと、俺の背中を押してきた・・・俯いているが、耳が真っ赤だ・・・妙な話を降っちゃったかな?
俺はそう思いつつ、美希に言われるがまま休んだ。
午前2時になり、今度は悠介と一緒に見張りをする番だ。
「誠治さん、さっき美希と楽しそうにはなしてましたね、何の話をしてたんですか?」
悠介がふいに話を振ってくる。
「悠介はちょっと抜けてるけど、家族思いで良い奴だって話してたんだよ」
俺は冗談混じりに答えた。
「ちょっと抜けてるって酷いなぁ・・・まぁ、否定はしませんけど・・・でも、良い奴って言われるのは嬉しいもんですね・・・」
俺は悠介の事が好きだ。
もちろんそっちの意味ではなく、人として好感が持てるのだ。
少しお調子者ではあるが、今みたいな状況だと、そういう存在はありがたい。
「お前は良い奴だよ・・・家族を気遣って、明るく振る舞える・・・こんな状況でそれが出来る奴はそうは居ない。 だから、お前は良い奴だ」
「ありがとうございます・・・」
素直に褒めた俺に、悠介は頭を下げた。
「・・・誠治さん、さっき美希に恋をした方が良いって言ってましたよね・・・?」
(なんだ、聞こえてたのか・・・)
俺は少しだけ後悔した。
ややシスコン気味の悠介が怒るかもと思ったからだ。
「あぁ、言ってたな・・・まぁ、今すぐじゃなくても良い・・・九州に着いて、余裕が出来たらって話してたんだよ」
「いや、美希は好きな人居ますよ」
やっぱり居るらしい。
「そうか・・・こんな状況だ・・・無事なら良いが・・・」
「無事も何も、目の前にいるじゃないですか・・・」
「・・・お前か?」
悠介は俺の答えを聞いて、やれやれと首を振った。
「誠治さん・・・幾ら何でもその答えは無いですよ・・・美希が好きなのは誠治さんですよ」
俺は悠介の言葉に絶句した・・・。
「気付いてなかったんですか?」
「気付くも何も、歳が一回りは違うぞ・・・確かに、好意は感じてはいたが、家族とか友人に対する親愛の情とかそんな感じだと・・・」
俺は狼狽して答えた。
「たぶん、この前の実戦訓練の後辺りからだと思います」
悠介は淡々と言葉を続ける・・・。
「誠治さん・・・美希の事どう思いますか・・・?」
「どう思うも何も・・・良い子だと思う・・・優しく、家族思いでしっかりしてる・・・確かに、一人の女性として見ても、美希ちゃんは理想的だろう・・・」
俺は悠介の問いに正直に答えた。
「誠治さん、俺は美希の相手が誠治さんなら、安心して任せられると思ってます・・・俺は美希を応援したい・・・誠治さんが夏帆さんの事を大切に思ってるのも知ってるし、今だに愛してるのも知ってます・・・! でも、兄としては、あいつの事を応援してやりたいんです・・・!」
悠介が俺に詰め寄る。
「今すぐじゃなくても良いんです・・・九州に着いたら、美希の事を真剣に考えてやってくれませんか・・・?」
そう言った悠介の目には涙が浮かんでいた・・・。
「悠介・・・俺には、人並みの幸せを送る資格は無いんだ・・・俺は4人も人を殺しているから・・・だから、俺には無理だ・・・俺は、九州に着いたら自首しようと思っている・・・どんな理由であれ、人を殺したのは事実だから・・・」
(そう、俺は人を殺した・・・こんな状況だ・・・正当防衛と受け取られるかもしれない・・・情状酌量の余地もあるかもしれない・・・だが、人を殺したのは事実だ・・・。自分の取った行動に対して責任を取るのは当然の事だ・・・)
「ちょっと待って下さいよ・・・! あの時、誠治さんは俺達の為にやってくれたんじゃないですか!? なのに、誠治さんだけが責任を取るなんて間違ってますよ! それなら、俺も一緒に・・・!」
悠介は納得出来ないらしく、俺に掴みかかってきた・・・。
「悠介・・・お前はあの時誰も殺してない・・・殺したのは俺だ・・・だから、あの時の事は俺の負うべき責任だ・・・。 お前まで居なくなったら、美希ちゃんや千枝ちゃんはどうする・・・? それに、美希ちゃんの件も自首の件も、九州に着いてからの話だ・・・すまないが、それまで待っててくれないか? 正直、美希ちゃんが俺の事を好きって事に頭が混乱してる・・・」
俺は悠介に頼んだ・・・正直頭がついていかない・・・。
「・・・判りました。 でも、俺は美希に幸せになって欲しい・・・その為には、誠治さん・・・あんたじゃなきゃダメだと思ってる・・・だから、この件に関しては、九州に着くまでに考えておいてくれたら助かる・・・受けるにしろ、断るにしろ、誠治さんが本気で悩んだ結果なら納得するからさ・・・」
「判った・・・俺も美希ちゃんの事は大事に思っている・・・しっかりと考えて答えを出すよ・・・」
俺は悠介に誓い、見回りがてら夜風で頭を冷すことにした・・・もうすぐ2回目の休憩時間だが、眠れないかもしれない・・・。
俺はそう思いながら暗い裏庭で頭を抱えた・・・。




