第27話 夏帆の遺品
「誠治さん、お帰りなさい! 無事でなによりですよ!」
「おじちゃん、おかえりなさい!!」
俺がリビングに入ると悠介達の千枝が迎えてくれた。
「あぁ、何事もなく帰ってこれたよ」
2人に言い、走り寄ってきた千枝の頭を撫でてやる。
帰る場所があるっていうのは幸せな事だと思う。
「俺が見てきた事を話すから、席についてくれるか?」
俺は皆んなに言い、状況の説明を始めた。
「俺は奴等の進んで行った方に行ってみたんだが、此処から徒歩で30分ほどの所に学校があった・・・その周りに奴等がいた。 学校には生き残った人達が多数いるのを確認したが、あの数の奴等だ・・・門やバリケードはそう長くは持たないかもしれない・・・。 其処に行くまでにも奴等と戦ったが、一昨日よりも数が増えていた・・・このままだと、さらに増える可能性もある。 だから、明日の午前中には出発しようと思う」
俺は皆んなに告げた。
「学校の人達は救えませんよね・・・?」
「10体程度なら俺1人でもなんとかなるが、表に確認出来ただけで5倍近い数がいた・・・車で突っ込んでも、奴等の血や肉でスリップして立往生するのが目に見えている・・・現実的に見て不可能だ・・・」
俺は、尋ねてきた美希に答えた・・・。
残酷なようだが、自分達の事ですら手一杯なのに、赤の他人のためにそこまて危険を冒す理由はない。
まぁ、美希達を助けた俺が言っていい話じゃないが・・・。
「ですよね・・・仕方ないって事は判ってるんですけど・・・」
「君が気に病む事じゃないよ。 誰だって、こんな状況じゃ自分の事で手一杯なんだから」
俺は、項垂れる美希を励ました。
「悠介、何か使えそうな物は見つかったか?」
俺は、状況の説明を終え、悠介に聞いた。
「あるには有ったんですが、それほど多くはないですね・・・それと、誠治さん・・・客間に飾ってあるアレ、どうします? 誠治さんが全く触ろうともしなかったんで、一応そのままにしてますが・・・」
悠介が言っているのは、客間に飾ってある二振りの日本刀の事だ。
夏帆の父親のコレクションの一つで、遊びに来た時に何度も自慢された。
「日本刀か・・・確かに武器としては良いが、扱いがな・・・」
日本刀は、ヒロイッククレイモア、チンクエデアに並んで世界で最も高価な刀剣類とも言われている。
日本刀は、見た目こそ他の2種類に比べて地味に見えるかもしれないが、刀そのものの攻撃力はかなり高い。
まぁ、見た目が地味に見えても、拵や鍔などは凄い金額だが・・・。
日本刀は、攻撃力があるのは良いが、それを活かせるのは熟練者でなければ難しい。
素人が扱うには、重いのだ。
客間にあるのは、長さ70cm程の打刀と、50cm程の脇差だが、どちらもマチェットよりもかなり重い。
打刀で約3倍近い重さだ・・・長さがほぼ一緒なのに、それでは片手で扱うのは難しい。
「俺もどうかなとは思ったんだが、重いんだよな・・・長い方は1.5kg位あるんだ・・・両手で持たないと、しっかりと振れないんだよな・・・」
「俺も持ってみましたけど、そんなにあったんですか・・・確かに片手ではキツイですね・・・」
俺の言葉に悠介が苦笑いした。
「まぁ、あるに越した事は無いし、持っていくか!」
俺はそう言い、客間から日本刀を持ち出し、脇差を悠介に手渡した。
「こっちは、お前が持っててくれ。 マチェットより重いが、斬れ味は段違いだ・・・くれぐれも、扱うには気を付けてくれ」
悠介は神妙な顔で頷き、脇差を受け取った。
「さて、美希ちゃんと千枝ちゃん、ちょっと夏帆の部屋に行かないか?」
俺は悠介に脇差を渡し、美希達に言った。
「どうしたんです? 何か探し物があるんですか?」
美希が千枝の手を引いて来た。
「探し物とは少し違うんだけど、君達にみて欲しいものがあってね」
俺がそう言うと、2人は顔を見合わせ首を傾げた。
俺は2人を連れて夏帆の部屋に入り、クローゼットを開け、中に入っていたダンボールを確認した。
「おっ、あった! 美希ちゃん、そっちのタンスの引き出しから夏帆の服を出してくれ!」
俺はクローゼットからダンボールを取り出しつつ美希に頼んだ。
美希は俺の真意がわからないまま指示に従う。
「誠治さん、夏帆さんの服なんて引っ張り出して何をするんです?」
美希が俺に尋ねてきた。
「サイズを確認して、君達が気に入った服があったら持って行ってくれ。 こっちのダンボールの中には、夏帆が小学生の頃の服が入ってるから、千枝ちゃんのも選んでやってくれ」
俺がそう言うと、2人はキョトンとしている。
「えっ・・・でも、夏帆さんのなんですよね? 勝手にそんな事して良いんですか・・・?」
「夏帆はもう居ないしね・・・このまま部屋で眠らせるより、君達に使って貰った方が夏帆も喜ぶと思うから・・・。 だから、この部屋にある物で、気に入った物は持って行って良いよ!」
俺は2人に言い、部屋を出た。
サイズを確認するとなると、着たりしないといけないからな! 千枝とはお風呂に入ったりもしたし、まだ子供だが、美希は高校生だ。しかし、20歳で身体は大人の女性だ・・・。
居続けるわけにはいかない・・・。
「終わったら、声をかけてくれ」
俺は部屋の外から2人に言い、階段を降りてリビングに向かった。