第19話 中谷邸
俺は今、困惑しながら車を運転している・・・。
「何故だ・・・」
「おじちゃん、何か言ったー?」
困惑の元凶が不思議そうに問いかけてくる・・・千枝だ。
「いや・・・何で千枝ちゃんは俺の車に乗りたかったのかなって思ってね・・・」
「おじちゃんと一緒が良かったのー!」
千枝は、俺の言葉に無邪気に笑って返してきた。
ガレージを出るとき、千枝が俺と一緒に行きたいと駄々をこねたのだ。
美希がいくらなだめても聞かず、俺の車に乗りたいと言い張った。
美希曰く、千枝がここまで言う事を聞かなかったのは初めてらしい・・・。
「誰もいないねー」
千枝が外を見ながら言ってくる。
「そうだね、皆んな何処かに隠れてるのかもしれないね」
俺は、千枝の言葉にそう返すのがやっとだった・・・。
(ヤバい、会話が続かない・・・! こんなに小さい子と二人きりとか、何を話したら良いのか解らない!!)
俺は心の中で慌てた・・・悠介や美希が一緒ならある程度は大丈夫だが、二人きりになるとテンパってしまう・・・。
(子供は好きだけど、関わる機会は少なかったしな・・・)
「おじちゃん、まだ着かない?」
俺が物思いにふけっていると、千枝が聞いてきた。
「あと少しで着くよ。 だから、もうちょっとだけ待っててね」
俺はそう言いながら千枝の頭を撫でてやった。
それから5分ほどして、夏帆の実家に着いた。
此処に着くまで、奴等の数は少なかった。
まだ大型商業施設は落ちてないのだろう。
俺は車を降り、悠介にその場を任せ、門の外から中の音を探った。
奴等の声や足音は無い。
その後、門をゆっくりと開けて目で確認したが、中には居ないようだった。
「大丈夫だ! 車を中に入れてくれ!」
俺は悠介に指示を出し、車を2台とも入れて門を閉めた。
「すまないが、此処でしばらく待っていてくれないか・・・? 裏とガレージを確認してくる・・・」
俺は悠介と美希に告げ、1人で確認に向かった。
ガレージの中には夏帆の父親と母親の車が2台ともあった。
「2人共家にいるのか? 電話しても出なかったが・・・」
俺は疑問に思いながらガレージを出て、裏庭の確認に向かった。
「何だ・・・?」
裏庭に入ってすぐ、奥の木に何か大きな物がぶら下がっているのが目に入った。
「・・・お父さん」
夏帆の父親が首を吊っていた・・・。
俺は愕然とし、ゆっくりと夏帆の父の遺体に近づいた。
すると、足元に人が倒れているのが見えた。
俺は嫌な予感がして走り寄った・・・。
「そんな・・・お母さんまで・・・」
夏帆の母親が倒れて死んでいた。
遺体に近づいて確認すると、腕に抉れたような傷が見えた。
奴等に襲われ、死んで転化したのだろう・・・。
「そりゃあ電話に出ないわけだよな・・・」
俺は呟き、夏帆の父親を見た。
「ん・・・? 何だ・・・?」
遺体のポケットから何か出ている。
俺はそれを取り、確認した。
(遺書だ・・・)
遺書の内容は、騒動の起きた日、夏帆の父親は急いで家に帰って来たら、母親が転化していて、襲われ、殺したと書かれていた。
そして、愛する妻を手に掛けた事に耐え切れず自ら死を選んだ事、夏帆に、俺と一緒にしっかりと生きるようにとの遺言も書かれていた。
「誠治さん・・・」
後ろから名前を呼ばれた・・・。
美希が立っている。
「戻りが遅かったので、気になって来てみたんですが・・・その方達は、もしかして・・・」
「あぁ・・・夏帆の父親と母親だ・・・。 美希ちゃん、すまないが悠介を呼んできてくれないか? お父さんを降ろしてあげたいんだ・・・」
戻りの遅い俺を心配して来てくれた美希に頼んだ。
「・・・判りました」
美希は一言だけ言って走って行った・・・。
俺は、駆けつけてくれた悠介と共に、夏帆の父親を木から降ろし、母親の遺体と共に裏庭の奥に運び、並べて寝かせ、2人に厚手の布を被せて手を合わせた。
悠介と美希も手を合わせてくれた。
千枝も見様見真似で手を合わせてくれていた。
「お父さん・・・すみません・・・俺は、夏帆を守れませんでした・・・図々しいとは思いますが、しばらく家を使わせてください・・・」
俺は夏帆の父親の遺体に話しかけ、入り口に戻った。
「悠介、すまなかったな・・・助かった。 美希ちゃんもありがとうな・・・」
俺は2人に感謝の言葉を伝えた。
「いえ、良いんですよ・・・それより、夏帆さんのご両親、残念でしたね・・・」
「あぁ・・・騒動の起きた次の日に電話をしても繋がらなかったから、もしかしたらと覚悟はしてたんだけどな・・・」
俯く美希に俺は言った。
「まぁ、仕方がないさ・・・それより、俺達の車をガレージに入れよう・・・お父さん達の車を出して、門を塞ぐ。 俺は車のキーを取ってくるから、悠介は俺達の車をガレージの前まで移動させておいてくれ」
俺は悠介に指示を出し、夏帆の家に入った。
「この家に入るのも久しぶりだな・・・」
俺は感傷に浸りつつ車のキーを見つけ、車を移動させた。
「よし、じゃあ、まだ日没まで少し時間はあるし、今朝話してた強くなる練習でもしようか?」
俺は悠介と美希に提案した。
「そうですね、ここなら安心して練習出来そうだ」
「はい! よろしくお願いします!」
悠介と美希はそれぞれ返事をした。
「戦い方と言っても、俺の我流だし、本当にこの立ち回りで良いかは分からないから、違うんじゃないかと疑問に思ったら言って欲しい」
俺は2人にそう告げて、日が暮れるまで自己流の戦い方をレクチャーした。
千枝は庭の花壇で何やらやっているようだが、別段退屈はしていないようだった。
練習を終えて疲れきった2人は、さぞお腹が空いたのだろう、その日の夕食は、夏帆の実家にあった食材などを使い、かなり豪勢な食事になった。
温かい食事はとても美味しく、懐かしく思った・・・。




