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The End of The World   作者: コロタン
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第12話 愉快適悦(ゆかいてきえつ)

  俺は警察署を出た後、昨夜泊まったガレージに戻り休んだ。

  どっと疲れが押し寄せたからだ。

  だが、夕食を取ろうにもなかなか食が進まない。 心に何かが引っかかるのだ。

   別にあの男を見捨てた事を後悔しているわけではない。

  あの男に物資を渡し、俺が生き延びたとしても、あの男を野放しにしておけば、恐らく別の人間を襲っただろう・・・。

  だから、後悔はしていない。

  

  「俺は人を撃った・・・夏帆、君はどう思うかな? 軽蔑するかな・・・?」


  あぁ、これか・・・俺は夏帆に対して後ろめたさがあったのだ・・・。


  「もう考えるのはやめよう・・・」


  俺は夕食に殆ど手を付けず、早めに寝る事にした。

  残した食事は明日の朝食べよう・・・。

  俺はガレージのライトを消し、車のシートを倒して目を瞑った。


  なかなか寝付けない・・・どうしよう・・・。

  俺はシートの上で目を開け、天井を見上げる。

  すると、外で何かがぶつかる大きな音がして飛び起きた。


  「なんだ・・・? 奴等か?」


  俺がマチェットを持ってシャッターに耳を近づけると、人の叫び声が聞こえる。

  若い男と女、それと子供の声だ。




  「美希! 千枝! 早く走れ!! 奴等が追ってくるぞ!!」


  「待って兄さん! まだ千枝が・・・!」


  「お兄ちゃん、待って・・・! 置いて行かないで!!」


  


  俺はその声を聞いて裏の出入り口から出て通りを確認した。

  俺のいるガレージまでまだ50m近く離れた場所に3人がいた。

  その奥には奴等がいる・・・街灯の光でわかるだけで10体ほどだ。

  シャッターの前には奴等はいない。

  俺はすぐさまガレージに戻り、シャッターを開け、矢をつがえたクロスボウを持って外に出た。


  「お前ら! こっちに来い! ガレージの中に入るんだ!!」


  俺が叫ぶと男が反応し、こちらに走ってくる。

  女は、小学生くらいの女の子の手を引き少し遅れてついて来ている。

  しかし、その時女の子が転んで手が離れてしまった・・・。


  「キャッ!?」


  「千枝!?」


  女は手の離れた女の子を見る。

  男はそれに気付き助けに戻る。


  「いやっ・・・来ないで・・・!」


  女の子の目の前には奴等が迫っている。



  ヒュッ・・・! トンッ!!


  

  女の子に一番近い所にいた奴等の頭に矢が突き刺さり崩れ去る。

  俺がクロスボウを射ったのだ。

  後続の奴等は崩れる奴にぶつかってよろめき後ずさった。


  「今の内にこっちに!!」


  俺が叫び、彼等を呼ぶ。

  男は奴等が後ずさった隙に女の子を抱き上げ、女と一緒にガレージに駆け込んで来た。

  俺もすぐにガレージに入り、シャッターを閉めた。


  バン! バン! バン! バン!


  「ア゛ア゛ア゛ア゛」


  俺がシャッターを閉めて10秒ほどしてから、ガレージ内に音が響く。

  奴等がシャッターを叩き、呻き声をあげているのだ・・・。


  「キャッ・・・! お姉ちゃん、怖いよぉ・・・」


  女の子が泣き出し、お姉ちゃんと呼ばれた女はその子の頭を胸に抱き寄せ頭を撫でている。


  「すまない、助かった・・・」


  お兄ちゃんと呼ばれていた男が俺に礼を述べてきた。

  俺は人差し指を顔の前にやり、ジェスチャーで静かにするように促すと、男は俺の意図に気付き無言で頷いてくれた。




  ガレージ内に逃げ込んでしばらくすると、徐々にシャッターを叩く音が少なくなっていき、15分ほどで完全に音は聞こえなくなった。

  俺は念のため裏の出入り口から出て通りを確認した。

  まだ近くにはいるが、それぞれ思い思いにフラフラと歩いてガレージから離れて行ってるのが見える。 諦めてくれたようだ。


  俺が外を確認してガレージに戻ると、彼等が改めて御礼を言ってきた。


  「すまない、本当に助かった・・・あんたが助けてくれなかったら、今頃千枝は・・・」


  兄は安堵の表情を浮かべていたが、さっきの状況を思い出し、俯き拳を握りしめていた。


  「妹を・・・私達を助けて頂いてありがとうございました! ほら千枝、あなたも御礼を言いなさい」


  姉はそう言うと、妹に優しく微笑んで促した。


  「おじちゃん・・・助けてくれてありがとう・・・」


  (お・・・おじちゃん・・・!? まぁ、このくらいの子供がいてもおかしくない年齢ではあるが、ちょっとショックだ・・・)


  少女は、まだ涙の浮かぶ目で俺を見あげて、おずおずと御礼を言ってきた。

  

  「優しいお兄ちゃんとお姉ちゃんで良かったな」


  俺はショックから立ち直り、少女の前にしゃがみ込み、頭を撫で、微笑んで声をかけてやる。

  頭を撫でられた少女は、照れたように小さく頷いた。

  彼等を助けられて本当に良かった・・・。



  グゥゥゥゥッ・・・。



  何処からともなく音が聞こえた。


  「お姉ちゃん、お腹空いた・・・」


  少女が顔を赤らめながら恥ずかしそうに姉を見て呟いた。

  俺はその発言に笑みが込み上げ、彼等も笑った。 少女は少しムッとしていた。




  「なんと礼を言ったら良いか・・・助けて貰った上に食事まで・・・」


  「何から何まで、本当にありがとうございます・・・」


  「おじちゃん、ありがとう!」


  俺は彼等に夕食を用意してやった。

  レトルトや缶詰めだったが、彼等は喜んでくれた。

  俺もさっき残していた物を口にする。

  

  人と食事をするのは楽しい・・・改めてそう思う・・・。


  最期に人と食事をしたのはいつ以来だろか・・・確か、10日ほど前に夏帆が泊まりに来た時以来だ・・・考えてみれば、記念日にこだわらずあの時プロポーズしていれば、違う現在(いま)になっていたかもしれない・・・だが、そんな事を言っていたらきりが無い・・・終わってしまった事だ。

  彼女が死んで、1人になって、数日しか経っていないのに、もう何ヶ月も1人でいる様な気分だ。


  彼等は口々に俺に礼を述べ、美味しそうに食べ、会話している。

  俺はそれを見て、1人満足しながら微笑んでいた。

  やはり、家族は良いものだ・・・彼等を助けられて本当に良かった!

  俺は、そう思いながら彼等の会話を聞き、家族と過ごすような楽しく、心地よい気分になりながら食事をした。


  


  


  


  

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