第10話 生き残る為に
俺は夏帆に別れを告げた後、物資や武器、移動手段の確保に専念していた。
生きてる人間のいそうな場所は避けている。
人が集まれば必ず音が出る。 音が出るという事は、奴等が集まるという事だ。
ゾンビ物の映画などで、大型商業施設などに立て籠もる展開を目にするが、建物が大きければ大きい程守る場所は増える。 全てを守るには多くの人手が必要だが、人が多ければ食料の消費も比例して増える。 そして、足りなくなる。
確かに大型商業施設は物資は豊富だが、無限では無い。
物資の補給をしようにも周りに奴等が集まっていたら、それもままならない。
そんなのはゴメンだ。 俺には九州に帰ると言う目的もある。
幸運なことに、この周辺は奴等が少なくなっている。 今の内にこの辺りで必要最低限の物を確保する事にした。
俺はまず、商店街にあるスポーツ用品店に行き、武器として金属バット、防具用にスノーボード用のインナープロテクター、あとはテーピングとスポーツ飲料の粉末を手に入れた。
レザージャケットとチャップスの下にインナープロテクターを装着し、動きを確認したが、若干キツめにはなったが支障は無さそうだ。
「冬用たがら、厚着出来るように少し大きめを買ってて正解だったな」
俺は着心地を確認して安心する。 いくら丈夫な革だからと言っても、油断は禁物だ。 革製の衣服は長年着ると、鞣されて薄く、柔らかくなるのだ。
テーピングは何かと重宝するので、いくつか確保した。
スポーツ飲料の粉末は、水に溶かしても良いし、食料が無くなった時に舐めるのも良い。
多少の栄養補給にはなりそうだ。
次に探したのは物資輸送用件移動手段だ。
俺は普通車と大型二輪車を所有していたが、乗ってきていない。
理由は簡単だ。 どちらも普通のガソリン車なので、エンジン音が響くのだ。
普段ならそれでも良いが、今は奴等に気付かれるのはまずい。
なので、探すべきは音の少ないハイブリッド車だ。 贅沢を言うならステーションワゴンタイプが理想だ。
完全な電気自動車だと、充電が切れたら走れなくなるが、ハイブリッド車なら予備のガソリンを持っておけば良い。
俺は道端に放置してある車両を1台ずつ見て回るが、なかなか見つからない。
目当ての車を見つけても、キーが無いのだ。
おそらく、奴等に襲われた時に、キーを持ったまま逃げたのだろう。
「これだからキーレス車は・・・」
俺はなかなか見つからない苛立ちから、普通のガソリン車で妥協しようかと考えていたが、1台の車に目が止まった。
ステーションワゴンタイプのハイブリッド車だ。
だが、今までの車と違う所がある。 運転席に、人らしき影が見えるのだ。
俺はゆっくりと近づき、中を確認する。
俺が近づくと、その影は動き出し、窓ガラスを引っ掻く。 奴だ。
腕に噛み傷がある。 おそらく、噛まれて逃げている最中に転化したのだろう。
俺は包丁を構え、ドアを半分だけ開き、奴が頭を出した所でドアで挟み、眼窩から突き刺し殺した。
死体のポケットを確認し、キーを手に入れ、車の状態を確認する。
ガードレールにぶつかって左フェンダーがへこんでいるが、走るのに支障は無さそうだった。
「すまない、貴方の車を使わせて貰うよ」
俺は持ち主の死体に話しかけ、次の目的地に向かった。
次に俺が訪れたのはガソリンスタンドだ。
燃料の補給をするのもあるが、手に入れたい物があったのだ。
俺は給油をする前に車をカーピットに入れ、倉庫を物色する。
「おっ、あったあった!」
俺がそう呟き手にしたのは2本のタイヤレバーだ。
タイヤ交換の時に使う鉄製の棒で、長さや形は大小様々だが、俺が見つけたのは50cmくらいの長さの大きな耳かきみたいな形だ。
鉄製なので重量はあるが、狭い室内や通路では金属バットより取り回しが効く。
片手で扱えるのも非常に助かる。
俺はお目当ての物を手に入れ、給油をする。
途中、給油の音に奴等が3体ほど寄って来たが、手に入れたばかりのタイヤレバーで倒した。
攻撃力や使い勝手は申し分なかったが、改善点が見つかった。
全体が鉄製のため、滑りやすいのだ。
俺は、スポーツ用品店で手に入れたテーピングを巻き、グリップの代わりにして再度振ってみた。
「おぉ、使いやすい! 早速テーピングが役に立ったな!」
俺は呟き、車に乗り込み走らせた。
俺は周辺の建物を見ながら車を走らせている。
他に必要な物が無いか頭の中で考える。
途中奴等が近いて来るが、こっちは車の中だ。 窓を叩かれるだけで全く被害はない。
やはり、奴等の数が少ない。
しばらくゆっくりと進んでいると、高台に展望台が見えた。
街の状況を確認するため、一路展望台へと向かった。
展望台に着き、周囲の安全を確認し、自宅から持って来た双眼鏡をバックパックから取り出し街を見る。
「やっぱり、集まってやがる・・・たった2日でこんなに増えたのか・・・」
俺は双眼鏡で街にある大型商業施設の方をみて呟いた。
施設の周辺や道路には、凄い数の奴等が群がっている。
施設の屋上や窓を見ると、多くの人が外の光景を見下ろしているのが見えた。
俺は双眼鏡を下ろし、車に乗り込んでしばし考え込む。
(あれだけの数だ・・・そう長くは持たないんじゃないか・・・? 生き延びた人達の中に小さい子供も居たなぁ・・・怖いだろうな・・・)
俺は、自分にはどうしようもないと首を振り、車を発進させた。
そろそろ泊まる所を探さないと夜が来る。
俺は、安全な場所を探すべく、展望台を後にした・・・。