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一文字タイトル・1,000文字小説シリーズ

作者: 日下部良介

 クリスマスが終わると、年越しムードが一気に加速する。あちこちでしめ飾りやお供え餅が売られている。商店街は歳末大売り出しをしている店の店主たちの掛け声や福引のガラガラという音で賑わっている。

 私も年末年始休暇に入ったので、我が家でも新年を迎える準備を始めた。


「まずは大掃除ね。ということで…」

 妻に大掃除で使う洗剤などの買い物を頼まれた。まだ小さな娘を連れて商店街へ出かける。

「ガラガラやりたい」

 娘が抽選会場の前で立ち止まる。2等賞の電子オルガンが欲しいのだろう。

 抽選をやるには500円ごとに1枚もらえる補助券を10枚集めなければならない。出がけに妻から預かった抽選券の枚数を数えてみる。補助券8枚。

「あと2枚ないとできないな…」

 娘が残念そうに下を向く。

「でも大丈夫! 今からそこのスーパーで買い物をすれば券が貰えるから」

「ほんとう?」

「ああ、本当だよ」

「じゃあ、早く買い物行こう」

 パッと表情が明るくなった娘が私の手を引っ張って走り出す。洗剤と雑巾を購入して1,296円を支払う。お店の人が補助券を2枚取り出した。娘が嬉しそうに補助券を受け取る。


 10枚の補助券を手に福引の列に並ぶ。1等賞は赤い玉で賞品は温泉旅行。娘の目当てであろう電子オルガンは2等賞で緑色の玉。白い玉が出たら参加賞のポケットティッシュ。

 いよいよ順番が来た。娘が10枚の補助券を差し出す。

「どうぞ。1回回してね」

 係りの人がにっこり笑う。娘は緊張した表情で抽選機のハンドルに手を掛けた。“ガラガラガラ”ゆっくり回転させる。出た。青い玉。

「おめでとうございます5等賞です」

 賞品は鍋だった。

「残念だったね。また買い物をしてもう1回やってみる?」

 娘ががっかりしているのではないかと私がそう言うと、娘は首を振って微笑んだ。意外な反応だった。私は娘に尋ねてみた。

「お鍋が欲しかったの?」

「そうだよ。きっと、ママが喜ぶよ。ウチのお鍋はデコボコだから」

 そう言って娘は5等賞の鍋を大事そうに抱えてニコニコ笑っている。

 ふーん…。こんなに小さいのにそういうところをちゃんと見ているんだな…。私が知らない間にしっかり成長している娘の姿になんだか目頭が熱くなってきた。

「パパ、どうしたの? もしかして、1等賞が欲しかったの? 1等賞は当たらないんだよ」

「いや、ちょっと目にゴミが入っただけだから」

 いつまでも子ども扱いはしていられないなあ。お年玉はちょっとはずんでやろう。





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― 新着の感想 ―
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[一言] とても温かいお話で、感動しました。 感動する物語と言えば、誰かと離れ離れになったり、何かを成し遂げたりと、壮大なストーリーもありますが、こういった身近な感動というのも良いですね。 ほっこり…
[一言] 確かに子供って意外と見てますよね! 「パパの靴下買ってあげてと言われた・・・」と義母からプレゼントされたことがあります。 なんだか複雑な気分でしたが(笑) ではでは、一年間おつかれさまでし…
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