3話
村長の言うとおり、丸一日かけて森を抜けシャードラ地方ブナスの郊外サノーン城へと着いた。
ブナスというところはベアニアル伯爵ルエナ家の所領でベアニアル伯爵の屋敷がある。
領内屈指の活気にあふれた市街地が立ち並ぶ。
しかし、郊外ともなると家もなくサノーン城へはなぜだかレングア男爵エトナス家の所領のエート村(ロザリンドが1週間滞在した村)方が近い。
その上、ブナスという街は他の街と比べて物価が高い。
おそらくは距離と金銭的な関係上、エート村へ調達し、配達も頼んでいるのだろう。
主に居住と政務が目的で作られた城とは違い効率よう支配するために建てられたともその昔、戦のために建てられた城で何かと便利が良くそのまま使われているとも言われている。
戦で焼け落ちたのかここにはサノーン城だけがそびえ、そばには城下町がない。
廃城にならない理由は不明だが、とても寂しい風情を漂わせ、一見すると廃城のようにも見えるそのたたずまいは悠久の歴史を感じさせる。
「本当にあの道一本でまっすぐ進めばたどり着いたわね。」
森の中は脇道もなくただ真っ直ぐの道を丸一日。
木こりの小屋さえない静かな森を寂しさを紛らわすために春の神を称える歌を歌いながら歩いてきた。
ほっと一息ついたところで、城の入り口へ足を進める。
時刻は夕方近く。
予定より早めにたどり着くことが出来そうだ。
「すみません。」
「あぁ、新人さんか。紹介状を。」
「あ、これですね。」
弟の手紙に同封されていた正式な紹介状を提出する。
「そうですか、はい。よろしい。」
紹介状をロザリンドに返却する。
「私は、城専属の執事アーネストでございます。」
「はじめまして。ロザリーと言います。」
実名はあまりにも珍しいためここでは偽名を使う。
ロザリンドからもじったロザリーだ。
「ロザリー、では早速ですが使用人の部屋、貴女の部屋まで案内します。制服は買えと共に用意しています。それに着替えて、荷物を置いたらマーラのところへ。彼女は食堂にいます。食堂は玄関のすぐそばです。」
すたすたと城の離れに案内される。
言われたとおりに荷物を置き玄関付近へとどうにかたどり着くことが出来た。
そこに心配そうな顔をしてこっちよと手招きしている人物がいた。
ここが食堂らしい。
シンプルな作りに暖炉があり、暖かな室内。
そこに一人の女性がにこにこと笑顔で迎えてくれた。
「私はマーラよ。名前は執事から聞いているわ。ロザリー。」
マーラという人物はメイド兼料理人のやや太めのご婦人だ。
「あら、綺麗な指輪ね。」
「これですか?大事な友人からもらったもので、肌身離さず持っていてほしいと言われたので。秘密ですよ。」
「私たちだけの秘密よ。」
おちゃめにマーラはウインクしてみせる。
「では、お皿を拭きましょう。それが終わったら床のそうじ。夕食作りは倉庫から食材を一緒にとって来てからメニューを決めましょうね。」
「はい。」
マーラはスコップを手にロザリンドはざるを持って雪の降り積もったある場所へと向かう。
「倉庫の一つめ。」
「ゆ・・・雪の中??」
「そうすれば良いことがあるの。じゃあ、キャベツとにんじんを掘り出しましょう。暖かな野菜スープができるわ。普通の倉庫もあるから。」
必要な食材を選び出し早速料理に取りかかる。
質素だが栄養バランスの良い食事ができあがった。
食事の時に庭師の若い男性ジョゼフと顔を合わせた。
掃除、洗濯、料理にとめまぐるしい日々はほんのひとときでロザリンドがサノーン城に来て2週間ばかり過ぎたある日。
執事が手紙を持って走り回っている。
「おぉぉ!大変ですぞ!」
「あら。」
「なんと。もうそんな時期か。」
「えぇえぇぇえ?伯爵が?」
たった4人しかいない使用人達がざわめく。
伯爵が共2人をつれてやってくるのだという。