2話
ロザリンドは当主であり自身の弟からの手紙を読み返していた。
何度読み直しても腹立たしいようで歩みを止めてじっと手紙を握りしめる。
「誰がデブよ!次会ったらただじゃおかない。」
出不精の彼女が動き出すのだからただごとではないとしか書かれてはいない。
どうやら出不、精と分けて読んでしまったらしい。
伯爵領は男爵領のとなり。
ロザリンドが住んでいる城からはずいぶんと離れている。
「”近くの村に協力してもらうようにするから。そこまでは自力で行くんだよ。いいね。”わかっているわ。」
手紙をしまいまた、歩き出す。
目的の村へとたどり着いたときには小遣いの半分を使い果たしていた。
城を出てから丸3日。
普段ほとんど歩くことがないロザリンドはもう、足が使い物にならないのではないかと思うくらい痛かった。
重い足取りの中どうしても許せないことがあった。
「宿泊費がこんなに高いなんて。」
普通の値段のグレードも並の宿であった。
長い冬のため、食費が通常の数割ほど増していたので思った以上の出費となったのだ。
「おぉ!よくぞここまでいらっしゃいました。」
「貴方が村長さん?でしょうか?」
「そうですとも。お話は伺っております。ささ、中へ。」
村長に促され小さないすに腰掛ける。
「では、1週間ほどこちらで研修と申しましょうか一通りの仕事を体験されてください。」
「そのほうがいいわ。ここまで来るのにもう、くたくたですもの。」
ロザリンドの手を取る。
しげしげといとおしそうに眺める村長はロザリンドのあかぎれ混じりの手を撫でる。
「いえ、メイドとして働くのであれば一通りの。あぁ、レングア男爵様のお嬢様だというのにこんなに手が荒れていらっしゃる・・・」
「使用人の数は思っているほどいないの。使えるものは娘だって使う。」
「は、はっはぁ。」
借金はないものの国王への税金を払ってしまえば残りはわずか。
それに日々の食事、侍女達の給料、庭木にかかる代金などで貯蓄をするだけの余裕はない。
慎ましやかな生活をしていればどうにかこうにか生きてはいける程度。
国王からの受爵をしており弟が代表として貴族達の社交界に行っている。
それも、日々の生活を切り詰めてその費用を捻出する有様だ。
もしロザリンドまで社交界へ出ればどれだけの出費がかさむことになるかわかっている。
間違いなく借金地獄で没落処では済まないだろうとロザリンドは思っている。
「洗濯、掃除、編み物に縫い物。小物などを作っては売って生活費の足しにしているの。本当は城の補修もしなくてはいけないのだけれど。えっと、後は料理。簡単なものだけですけれど。」
優しく最後まで聞き終えて村長が口を開く。
「そこまで出来ていらっしゃるのであればほぼ心配はありません。ね。」
「そうだと良いのですが。」
「いやぁ、時々薪などを持って行くのですがね。数人の使用人だけでほとんど不在のようですよ。なんでも伯爵様はいくつもの領地をお持ちとかで普段はこちらにはお見えになることはないとか。ですので、短期間のメイドとして伯爵家へと。まぁ、そこまで困窮されているとは知りませんでした。」
「そうですか。どのくらいのその城まではかかりますの?」
「そうですなぁ、一日はかかると思ってください。」
「領界とはいえ、そんなに近くに城を持っていたらいざというときに攻め込まれてしまうものね。」
「ははは。大昔の話ですよ。それ。」
「しばらくお世話になります。」
村長の家の空き部屋へと案内され一人になったロザリンドは違和感を口にした。
「あの愚弟。なんて伝えたのかしら??」
今までに感じたことのないほどの怒りを覚えたロザリンドは疲れていたのにもかかわらずすんなりとはねつけなかった。