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非人格者の最低主人公がヒーローに選ばれました  作者: 時佐
異世界チュートリアル
3/10

日常の終わり

「ううぅぅん、はっ」


 俺はどうやら気絶していたらしい。

 まだ少しクラクラする頭を押さえながら周囲の状況を確認する。

 どうやら俺は自分の家の前で倒れていたようだ。

 いつの間に外に出ていたのだろうか?

 全く思い出せない。

 そういえば、こうなる前に鏡の中に落ちていったような気がするが、今家の前にいるということはあれは夢だったのだろうか。いや、夢に違いない。鏡の中に人が落ちるとか有り得ない。


「はぁ、鏡の中に引きずり込まれるとかどんな夢だよ。」


 思わず不満と溜め息が漏れてしまう。


「とりあえず家に戻るか」


 家の扉を開けるためにドアノブにドアノブに手をかける。だが


「ん?あれ?」


 扉を開けようと引いてみるも少しも扉は動かない。

 押すタイプのだったかと思い、押してみたがやはり開かない。


「これは障子みたいな横のタイプってオチか。」


 今度は横に引いてみた

 だが扉はびくともしなかった。


「やっぱ開くわけねぇよな」


 たが、分かったことが一つある。


 この扉は絶対に開かないということだ。


 初めは鍵でも掛かっていて、それで開かないのだと思っていたがそれにしてはおかしいことがある。


 さっきから言っているように扉が全く動いていないのだ


 普通鍵の掛かっている扉でも押し引きすれば開きはしないまでも多少の動きはするはずである。

 なのにこの扉は全く動く気配がない。まるで入り口と扉が溶接されてしまっているようだ。


 俺はそのことについていろいろと考えてみたが結局面倒くさくなり、親が帰って来るのを待ってみることにした。ただ親が帰って来るのは夜になってからなのでまだかなり時間がある。

 なので俺は隣町の桂白地区けいはくちくに出て暇つぶしをする事にした。



同日 桂白地区へ続く道にて


 俺は桂白地区が好きだ。

 飲食店、本屋、カラオケ、ゲームセンター、ボウリング場などの娯楽施設が充実しており、退屈なことが嫌いな俺にとってはまさに天国のような場所だ。暇で何もする事が無い日などは一日中この地区にいるときもある。


 しかし何故だろう?

 さっきから俺が感じているのは天国へ行く喜びなどではなくもっと別のもやもやしているものだ。

 絶対にあるべき筈のものを見落としているような、ピースが足りていない歯ぬけのパズルをみているような……。


 そのもやもやしているものの正体は着いた時にすぐわかった


「人が………いない!?」


 そう、目の前に見えるのはいつも五月蝿い位に賑やかな桂白地区から……、いや七津海市全体から人がすべて消えているというこの上なく奇妙な光景だったのである。


 俺は周りで起きている事態にまだ混乱していたがとりあえず人を探そうと思い気を落ち着かせた。


━━━━━━━


 人を探し始めて恐らく三時間程経っただろうか。

 人の姿は影も形もない。


「まったくどうしたっていうんだ」


 大きな独り言を呟くも聞いてくれる人は誰もいない。


 歩き疲れた俺はこの町の中で一番大きな十字路の真ん中に大の字に倒れこむ。

 

 本来であればすごく危険で迷惑な行為であるが、こんなことしても注意してくれる人はどこにもいない。


「まるでこの世界に一人で取り残されたみたいだ」


 俺は青い空を見上げてそう呟いた。


「え?」


どうして空がまだ青いんだ?


 確か学校を出たのが16時頃、人を探していたのがおよそ3時間、つまり今は少なく見積もっても19時以降でなければおかしい。

 今は6月である。日が長くなってきているとはいえ、19時以降に空が青いというのは有り得ない。暗くはならないまでも夕日が出てオレンジ色ぐらいにはなっているはずだ。

 もう一度空を見て今度は太陽の位置を確認。太陽はあったが、その位置はここに来てからずっと変わってはいなかった。時間が止まってしまってているかのように。


「俺は本格的にどこにいるんだ?」


 俺はどうしてこんなことになってしまったのかを必死に考える。


「そうだ、あの鏡だ」


 思えばあの鏡に入ってから奇妙なことばかり起きている。間違いなく関係しているはずだ。

 そうとわかればあとは早い

 俺はすぐさま家に向かった。



 俺は家の扉の前に立ち、指をパキパキと鳴らす


「よし、やるか」


 そして扉を、

押す引く押す引く押す引く押す引く押す引く押す引く押す引く押す引く


「クッ、開かねぇ。だったら───」


 近所の家の壁に立てかけてあった金属バットを無断で拝借する。


「こいつで窓を叩き割る」


 そして手ごろな窓の前まで行ってフルスイング。

 直後、ゴンという窓とは思えない硬質な音と共に手に凄まじい衝撃が訪れた。


「グアッ、クッソォォオオ」


━━━━━━━━━━


 あれからどの位殴っただろうか。手足が殴った衝撃でまだビリビリと痺れている。だが扉には変化がない。


「絶対ここには何かあんのに」


 しばらく扉を睨み付けていたが、この数秒後俺は衝撃のあまり扉のことなどすっかり忘れてしまった。


「あ、こんな所に居たんですね。探しちゃいましたよ。」



 それはこの誰もいない世界で目が覚めてから初めて聞いた人の声だった。

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