退屈な日常
六月中旬の水曜日、入学式ムードもすっかりと冷めるのと対象的に日が高くなりだんだん暑くなって来た今日この頃。
街か村かと聞かれれば街ではあるが、都会か田舎かと聞かれれば田舎と呼ばれてしまうような寂れた土地──七津海市。
その町のほぼ中央に建てられた私立慢芯高校。風紀は特に乱れてはおらず、素行不良の生徒はほぼいない。学校内の生徒の成績が特別良い訳ではなかったが、常に明るい雰囲気であったその高校には毎年数多くの生徒が訪れた。
その高校にはある一人の少年が在籍していた。名前を明石 煌という
彼は手入れを怠ったボサボサの髪の毛、健康管理をおざなりにしているせいなのか血色の悪い肌、視力が若干落ちたのにメガネやコンタクトをつけないために自然と身についてしまった三白眼、そしてこの世のすべてに絶望してしまったような光の灯らない死んだ目をした少年だった。
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「めんどくさ」
放課後の誰もいない教室の中で煌はそう呟く。
俺の目の前の机の上には山のように数学のプリントが積まれていた。
なんのことはない、ただ担任の教師にこのプリントを職員室の自分の机に置いて来て欲しいと頼まれたのだ。
俺はこのプリントを運ぶのを非常にめんどくさく感じている。
別に紙の山が重いというわけではない。さすがに紙も材質や枚数で重くなったりもするのだろうが、目の前のそれはただのコピー用紙で枚数もクラスの人数45枚ほどである。
俺が問題としているのは距離だ。
自分の今いる教室から職員室までの距離が非常に長い。この校舎は東西に長い造りになっている。一番西にある教室がここであり、職員室は東の方にあるのだ。教室と職員室では階数も違うので階段も合わせるとかなりの長さになる。
「めんどくさ」
思わず俺はまたそう呟いた。
そもそもクラスメイトは普通に行ったり来たりしているので不満を言っているのは煌だけであった。
煌は怠惰な奴であった
そこに一人の少女が教室に入ってきた、きれいな茶髪のショートで美少女と呼べるような顔立ちをしている。
この美少女、実は頭もなり良く前のテストの時に張り出された順位はかなり上位にあったはずだ(上位にいたのは覚えているが何位かまでは覚えていない)。
こういうのを見ていると「人は皆平等に造られている訳ではない」というのを思い知らされる。
確か名前は
カナツキ ノゾミだったっけ?
「望月 叶だよ。キラキラくん。」
しまった、名前を間違えたのが声に出ていたらしい。いや、それよりも
「キラキラくんはやめて欲しいんだけどな……」
「いいじゃない、キラキラくん。名前の〈煌めく〉と掛かっていて良いと思わない?」
「むぅ」
煌はあまりこのあだ名は好きでは無い。
子どもっぽいからではない(それも少しはあるが)。自分の性格が普通の人のそれと比べればひどく歪んでいるというのを知っているからである。
故に自分の性格と真逆の明るいイメージのキラキラくんと言うあだ名が好きではない。
俺は視線を紙の山に戻す。
そこで俺は思いついた。
そうだ、このプリントの山を望月に持っていかせれば良い、と。
さっそく実行させてもらうことにした。
「ごめん望月さん、僕このプリントを職員室まで届けないといけないんだけど今急ぎの用が入っちゃって、良かったら頼まれてくれませんか?」
ちなみに俺は部活動とかいうめんどくさいものに所属していなければ、塾に通っているわけでもない。
よって急ぎの用事など入るわけがない。
嘘である。純度100%の嘘である。
「大丈夫よ、私今やること無いし」
「助かるよ、じゃあ望月さんまた明日」
煌はそのまま教室を出て昇降口に向かう。
この男は人に嘘をついた上に自分の仕事をなすりつけておきながら、痛む良心など一欠片も持ち合わせてはいなかった。
初めて小説を書かせていただきました。
思っていたよりも小説を書くというのが楽しくて正直自分でも驚いています。
この小説が少しでも多くの人に楽しいと思っていただけるように頑張っていきますのでよろしければ応援よろしくお願いします。
最後に
私の拙い小説を最後まで読んでいただいて本当にありがとうございます。