エスエヌ
「やあやあ、いらっしゃい!」エス氏は満面の笑みを浮かべ、久しぶりに訪ねてきた親友のエヌ氏を迎えた。
「これはこれは、しばらくぶりです!」エヌ氏も満面の笑みを湛え、手土産の紙袋を持った両腕を拡げながらエス氏宅の玄関をくぐる。
バチン! と音が聞こえ、エス氏とエヌ氏は固く抱擁し合いお互いを強く抱きしめて再会を喜んだ。
それぞれの背中に回した両手で相手の背中をぽんぽんと叩き、再び会えたという実感を噛み締めながら知らずの内に涙さえ浮かべてしまうようなふたりだった。
「それはそうと」抱き合ったままエス氏は肩越しにエヌ氏へ話しかける「玄関で抱き合ったままも何ですから、とりあえず中に上がりませんか」
「そうですね」エヌ氏も照れ笑いを零しながら答える「あまりにも喜びが大きくていつもこんな感じですみませんね、本当に」
ふたりは抱き合ったままぎこちなく部屋の中へ移動しようと試みるのだった。
「ちょっと待ってください、私はまだ靴を履いたままです」とエヌ氏。
「そうでしたな、それに上着も脱いでもらってハンガーに掛けて差し上げたいところですね」エス氏もきまりが悪そうに言う。
「しかし私たち、離れませんなあ。いやもちろん離れたくなんてありませんけどね」抱き合ったまま器用に片方の靴を脱ぐエヌ氏。
「私たちいつも会うとこうなってしまうので、やはりいつものようにアレをやるしかありませんな」
エス氏の提案にエヌ氏もしたり顔で頷き、それでは、とお互いが勢いをつけてその場でくるりと後ろを向くように半回転した。
バチン! エス氏とエヌ氏のおしりとおしりがくっつき、今度は背中合わせにぴったりと引っ付いた。
「おやおやこれはいけません、失敗ですな。それぞれが裏がえったら結局同じことにしかなりませんからね」
「いやいや失敬、ではこうしましょう。私だけが半回転します、これならうまくいくはずですから」
ふたりは笑顔で示し合わせ、提案したエヌ氏が勢いをつけて振り返るように半回転。エス氏を背中から抱きしめるような格好になった。
スパン! エス氏の背中、つまりエヌ極の反発を正面から受けたエヌ氏は、後ろ向きのまま勢い良く玄関を飛び出した。再び彼方へと弾き飛ばされて行ったのだった。
終
2ちゃんに投下済み。行空け以外は原文のまま投稿。