青春は祭りと共に
チャイムを鳴らし、ドギマギしながら待っていると、出てきたのは艶のある黒髪を綺麗に一つに纏めた浴衣姿の湧別あかりであった。涼やかな青色が蒸し暑いこの夏に、一滴の制汗剤となる。
「斉藤君、どうかな。変?」
けっして変などではなかった。むしろ良く似合っていたし、結っている髪も可愛い。だけど見惚れ過ぎていて俺は何も言えずにただ立っていた。
「斉藤…?どうしたの?やっぱり、変だった?」
湧別の言葉に、俺はブンブンと首を横に振る。似合っていない、変などと、一体誰が言えようか。
「その、すごく似合ってるよ。」
俺が必死にそう言うと、湧別は「ふふ、ありがと。」と微笑みを浮かべていた。
祭りの会場への道のりは、緊張からか良く覚えてはいなかった。ただ、湧別の「私ね、生肉が大好きなの。良く変わってるねって言われるし、親からは怒られてしまうんだけど、それでも止められないのよね。」という話しだけは胸に刻み込まれていた。
会場へ到着してからの自分は益々興奮してしまって、湧別がジッと何かを見つめればそれを買い、湧別が疲れたと言えば全力で休憩できる場所を探した。
「私ばっかりいろんな物を買ってもらっちゃって、ゴメンね。私も斉藤君に何か買ってあげる!何か食べたい物はない?」
歩き疲れたという湧別と一緒に休んでいると言われたのだが、俺は昼に沢山食べたから別に平気だし、湧別にお金を払わせるというのがなんだか気が引けて「湧別と一緒にいられるだけで満足だよ。」だなんて良く良く考えるととても恥ずかしいセリフを言って、なんとか断ろうとした。が湧別は「ううん。そんな訳にはいかない。ほらほら、カキ氷?焼きそば?何がいい?」と譲らない。俺が何か欲しい物を言わないと引かない。そう思った俺は「じゃ、じゃあたこ焼きが食べたい、かな?」と言った。すると湧別は「分かった!たこ焼きね!ここで待っててね!」と素早く行動を起こし、あっという間に人混みの中へとと姿を消した。
しばらくして「ただいま。」と帰ってきた湧別の手には、たこ焼きの他にも焼きそばがあった。
「美味しそうだから買っちゃった。一緒に食べよ?」
差し出された割り箸を受け取り、俺は湧別と一緒に同じ焼きそばをつついた。その焼きそばは、今まで食べてきたどの焼きそばよりも甘酸っぱい青春の味がしたような気がした。