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腹痛が功を奏したものは

ウサギと話をする為に、お腹が痛いと嘘をついてトイレに駆け込んだ俺だったが、病は気からという大昔から存在している伝承のせいか、本当に腹痛が起こりはじめ、現在俺は保健室で横になっている。

絶対ウサギからのストレスのせいだ。そんなことを思いつつお腹を治すことに専念していると、保健室の扉が、誰かの手によって開けられる。保健の先生が戻ってきたのかな?と気にも留めないでいたが、ベッドの周りを囲んでいるカーテンの隙間から見えたその人物に、俺は思わず息を止めてしまうこととなる。

カーテンの隙間から見えたその人物は、クラスのマドンナ的な存在の子で、クラスで一番の人気者で、俺が過去へ戻ってきた理由の子。

今朝、俺が遅刻したときに、少し笑われてしまったんだよな・・・。その笑い顔も可愛かったけれど、それが俺にはとても恥ずかしくて恥ずかしくて、穴があったら入りたかったよ。


声をかけようかかけまいか悩んでいると、再び保健室の扉が開かれ、保健の先生が帰ってきてしまった。折角のチャンスだったというに、俺はなんてヘタレなんだ。相手は小学生だぞ。それに対して、俺はアラサー。何を緊張する必要があるんだ。

「あら湧別さん、どうしたの?怪我?それとも体調が悪いの?」

先生からの質問に答えようとする、湧別あかり。肌が白く、髪は漆黒で、頬は適度に赤みを帯び、まるでお人形さんみたいだ。

「はい、なんとなくなんですけど、体調が優れないんです。少し横になれたらなって思いまして。」

可愛らしい声が保健室内に響き渡る。ああそうだ。彼女はこんな声をしていたっけ。懐かしいなあ。

「あら、体調が優れないの。一応体温を測っておきましょうか。はい、体温計。」

彼女の脇に挟まれた体温計になりたい。そんな変態的なことも過ぎりつつ、彼女の体調不良が一時的なモノでありますように。と、僕は天に祈った。だって、もしここで早退なんてされてしまったら、湧別との距離を縮められないじゃないか。そんなことは御免だ。僕はなんとしても、自分の未来を、人生を、薔薇色になり過ぎて真っ赤になるくらいにしたいんだ。

彼女をモノにして、マイホームも手に入れちゃったりして、仕事もバリバリこなし、子どもにも恵まれる。そんな人生を、俺はモノにするんだ。

そうこうしているうちに、湧別の脇に挟まれた体温計がピピピっと鳴り、「36.9℃か・・・。ちょっと横になって様子見てみましょうか。」と先生が言う。やった!湧別は今すぐには帰らないぞ!しかし、油断は禁物だ。少し寝た後、もしかしたら熱が上がっているかもしれない。神に祈ることを続けておかなくては。


1限目の終了を知らせるチャイムが鳴り響き、先生が俺の寝ているベッドのカーテンをシャっと開けた。

「斎藤君、体調はどう?お腹はもう治った?」

お腹などとっくの昔に治っていたのだが、今更授業に出るのもな・・・。と、俺は仮病をきめていた。

「はい。もう大丈夫です。」

俺がベッドから降りて靴を履いていると、「湧別さんはどう?大丈夫?」と先生が隣のベッドの様子を確認していた。中からは「はい。少し寝たら良くなりました。」と可愛らしい声が聞こえてきて、俺は安堵する。多分もう今日、湧別が帰ってしまうことはないだろう。

しばらくすると、湧別がベッドのカーテンをシャっと開け出てきて、偶然そちらの方向を見ていた俺は、パチリと目線が合ってしまう。すると湧別はニコリと微笑み、「教室にいないと思ったら、斎藤君も保健室にいたのね。大丈夫?」と話しかけてきたではないか。俺の記憶が正しければ、まだ自分が本物の小学生だった頃、湧別あかりと話をしたことはあまり多くない。それなのに湧別ときたら、同じクラスというだけで俺に微笑みながら話をかけてくる。なんて優しいんだ。俺なんて、未だに話したことの無いクラスメイトだっているというのに。

「う、うん。大丈夫だよ。湧別さんこそ、大丈夫?」

小学生に緊張しつつも、俺はなんとか返事を返す。

「うん。大丈夫。少し体調が優れなかっただけだから。それよりも、湧別さんだなんて。あかりって呼んで?」

名前呼びを本人からオススメされ、俺は驚きを隠せなかった。湧別のことを名前で呼んだこともないし、本人から勧められたことも、昔はなかった。これは確実に自分の運命を変えていっているのではないだろうか。

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