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運命の歯車

運命を変えることが、並大抵のことではないことを、俺は知っている。

遠い昔、自分の運命を変えようとして、結局何も変えることは出来ずに負の歯車へと巻き込まれてしまった男の話を聞いたことがある。

でも、それでも、目の前にある空前絶後のチャンスを、俺は逃す訳にはいかないのだ。


「契約を結んだ貴方のことを、今後どのようにお呼びすれば宜しいでしょうか。」

ウサギは首を傾げながらそう言ってきた。

人間らしい動作をすることもあるが、顔はお面をつけたかのように変わらないままで、それがヤツの異質感というか、恐怖感を増幅させている。俺も、正直今だにウサギのことが怖い。

「変な呼び方じゃないなら、なんでもいいですよ。」

俺がそう言うと、ウサギはふむ。と少し頷いてから、「では、貴方の御名前である、斉藤正士(さいとうまさし)から取りまして、斉藤様と、お呼びいたします。」異質の塊であるようなウサギにそう呼ばれるのは何だか微妙な気持ちにもなったが、名前やあだ名で呼ばれるよりは良いような気がして、俺はウサギへ肯定の意を示した。

「そう言えば、貴方の名前は何て言うんですか?」

ふと、ウサギの名前が気になり、質問を投げかけてみる。だけど、ウサギは俺からの質問に首を傾けたままで、答えは一向に返ってこない。

「も、もしかして、名前、ないんですか?」

ウサギはこくりと頷いた。

「そのまま、ウサギと呼ばれていたり?」

ウサギはまたこくりと頷いた。

「私に、名前は必要でしょうか。ウサギと呼ばれれば、自分が呼ばれているのだと分かります。」

それはそうなのだが、なんだか名前がないというのは、少しだけ悲しい気持ちに、俺はなってしまった。

名前というのは、生物を現世に留まらせて置く為の、最初の一歩ではないだろうか。それがないから、ウサギは益々、不気味で異質で、恐怖しか感じない。のかも、しれない。

「俺といる間は、不便じゃないかもしれませんけど、ほら、本部とか帰った時、ウサギはきっと貴方1人ではないでしょう?その時は、どう呼ばれているんです?」

少しだけアタフタとしながら、俺はウサギに再び質問を投げかけた。

「運命を変えるお手伝いをするモノ達は皆作られた存在ですから、製造番号で呼ばれます。私の番号は6ですから、No.006と呼ばれています。」

作られた存在ということが衝撃的で、ウサギがどう呼ばれているかということは、あまり頭には入ってこなかった。

作られた存在…?確かに、見た目はウサギで人間には見えないし、俺と最初に会ったときの動きも、人間とは思えなかった。ああ、確かに、姿を消したりもしていた。考えれば考える程に、ウサギが作られた存在であるということに、納得しかできなくなる。だけど、心のどこかで、「被り物なのではないか?」という思いも消えなかった。

「最終的に、私のことはどうお呼びになるのでしょうか。」

ウサギの声で、ハッとなる。作られた存在ということについて考え過ぎていたようだ。

「じゃあ、その、俺も今のところはウサギ、さんで、いいでしょうか?」ウサギと呼び捨てになってしまいそうになり、慌ててさんを付ける。しかしウサギは、「私に、さん、様、その他諸々、畏まった呼び方は不要です。ウサギ、とお呼びください。」とのことだった。


ウサギの呼び方が決まったところで、現在俺達は、運命を変えるということについて、話し合っていた。

「運命を変えるって、具体的にはどうするんですか?」

「まず、過去へ貴方を送ります。その後は御自由に動いて戴き、御自分の好きな通りに、運命をお変えになることができます。また、過去へ戻った際、当時の貴方の歳の見た目になってしまいますが、記憶、精神共に、今の貴方のものが引き継がれますので、御安心ください。」

一気にいろんなことを言われ、俺は上手く理解できているか心配になった。こっちはこんなこと初めてで、不安しか感じていないというのに、ウサギは手慣れたようにスラスラと説明をしていくではないか。

「ええと、つまり、今の俺が小学生の時代に戻ったら、見た目は子供、頭脳は大人ってことですか?」

「ええ。簡単に言えば、そうですね。」

これは、俺が思っていた以上にすごいことなのかもしれない。彼女とよりを戻そうだとか、そんなちっちゃなことでは収まりきらないぞ。宝くじは当て放題だし、どの株を買えば儲かるのかも分かるし、もういろんなことができる!小さな頃から失敗ばかりしていた俺にとっては、ありがたい。いや、ありがた過ぎる話だ。神は俺を見放したとばかり思っていたが、どうやら違うらしい。

「俺、小学生の頃、スッゲー可愛い同級生がいたんですよ!もしかしたら、その子と付き合って、そのまま続いて、結婚なんてことも!ありえますよね!?あの子スッゲー可愛かったから、産まれてくる子供も、スッゲー可愛いんだろうなあ…!」

フワフワとした気持ちになった俺は、今迄感じていたウサギへの恐怖すら忘れ、ベラベラと、蛇口の壊れた水道から出続けるの水のように、口から溢れる言葉が止まらなかった。

「それは、小学何年生頃のお話ですか。」

ウサギからの問いかけに、「えーっと、その可愛い子と一緒のクラスになったのは、5年生の時かな。」と、ニヤニヤしながら答えた。あんなことやこんなこと。色々と想像を膨らませているのがバレバレである。

「では、その時その場所へ参りましょうか。」

「え?」

ウサギはそう言うと、どこからかナイフを取り出して、俺の心臓へと突き刺した。

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