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能面ウサギ

変なウサギに丸い何かを無理やり飲み込まされて、俺は今、絶賛むせていた。変な所に入り、咳が止まらないで、思わず涙目に。こんなアラサー男が涙ぐんでいる所なんて、一体誰が見たいんだ。

「落ち着きましたか。」

突然聞こえてきた声に、俺は思わず身構えた。一体どこからその声が響いているのかと、俺は辺りを見回したが、現在この部屋にはウサギと自分しかいなかった。もしかして、もしかするとウサギの声なのか?と、恐る恐るウサギの方を見上げれば、目と目が合ってしまう。

ウサギの異質な雰囲気が怖かった俺は、思わず目を逸らしてしまうのだが、それがいけなかった。ウサギは、質問の答えが返ってきていない事に腹を立てたのかなんなのか、俺にはさっぱり分からないが、突然俺の前にしゃがんだかと思うと、力強く俺の肩に手を乗せ、もう1度「落ち着きましたか。」と言った。逃げようにも、自分の両肩に乗せられた手は、俺を逃がすまいと、ミシミシ音を立てているような気がするし、何よりも、ウサギが怖かった俺は、漏らしてしまいそうになるのを抑えて、「は、はい。」と言う他なかった。


「私の言語、キチンと聞き取れていますか。」

現在俺は、逃げられないよう紐で手足を縛られている。元々は普通に正座をさせてくれていたのだが、あまりの恐怖に逃げ出してしまった俺が、またもやウサギに捕まってしまったのだ。ウサギの身体能力の凄さといったら。もうそんじょそこらの人間では到底太刀打ちできないだろう。ごくごく普通の人間である俺がそう言うんだ。間違いないね。

「簀巻きにされたいですか。そうですか。」

「いい、いえ、ちゃんと、ちゃんと聞こえています!」

簀巻きなんかにされてしまったら、海に投げ込まれてしまうに違いない。そう思った俺が、素早く返事をしたところで、ふと疑問に思う。さっきまでは、ウサギの言っていることはちっとも分からなかったのに、今はバッチリと聞き取れているではないか。もしかして、あの丸い何かのおかげなのだろうか。アレはドラえもんでいう、ほんやくコンニャクのようなモノだったのか?

「あ、あの、さっき私に飲ませたモノは・・・?」

おずおずと、ウサギに質問をする。下手なことを言うと、鉄拳制裁が俺を待っていそうで、恐怖しか感じなかった。

「アレは、私と貴方のコミュニケーションが円滑に行われる為の補助道具です。どうやらアレを飲ませなければ、私の言葉はバグが発生してしまうそうなので。」

「あ、あのもう1ついいですか?」

自分の中にほんのカスぽっちだけ残された勇気を振り絞って、声を震わせながらも、俺はまたウサギに質問をしようとしていた。ウサギは「続けろ。」と言わんばかりの目で俺を見てきたので、殴られる前に、俺は質問の内容を話し始めた。

「貴方は一体何者なんですか?」


やっと身体の自由が俺の元へ舞い戻ってきて、嬉しいハズだった。しかし、俺は現在寝室のベッドの上で頭を抱えていた。

「貴方は一体何者なんですか?」

俺のその質問に、ウサギは答えてくれた。

「私は、貴方の運命を変える為に派遣されました。」

理解不能である。運命を変える?なんなんだそれは。俺の過去や未来を好きに変えられるということか?そんなことが本当に?

もしも、もしもだぞ?未来を思うように出来たら、俺は今みたいな冴えないサラリーマンから脱出できるんじゃないか?過去を変えることが出来たら、彼女と別れることもなくなるんじゃないのか?

こんな眉唾な話なんて、そうそう転がっているものじゃない。未来や過去をどうこうできるだなんて、大勢の人が望んでる。こういうモノは、天下人に有名な刀剣や工芸品が集まるように、この話も権力者の所へ行くべきなのではないか?

「大勢の人の中から、抽選で貴方は選ばれたのですよ。」

急にドコからか聞こえてきた声に驚き、俺は思わず飛び跳ねた。ふと、自分の横を見てみると、知らない内にウサギがそこに立っているではないか。そのことにも俺は驚き、終いにはベッドから落ちてしまった。痛かった。

「な、なな、なんで此処にいるんですか!?さっき帰りませんでした!?」

「貴方が悩んでいたようなので、一時的に姿を消していただけです。」

サラッと、姿を消していたと言われ、俺は驚きを通り越して何も言えなくなっていた。

「貴方の運命を変える手伝いをすることが、私の仕事です。どうしますか。変えますか。変えませんか。」

ウサギが、早く答えを出せと言わんばかりに俺に威圧をかけてくる。「いいえ」と少しでも言ってしまったら、次の瞬間には自分の首が飛んでしまっていそうで、「はは、はい。変えさせてください。俺の、運命?を。」と、肯定の言葉しか紡げなかった。

「では、私と契約を結びましょう。昔は粘膜接触をしなければいけませんでしたが、今はこれで済みます。」

ウサギはそう言うと、ずいと、俺の前に掌を差し出してきた。しかし俺はそんなことよりも、粘膜接触が気になって気になって仕方がなかった。やっぱり、キスとかしなくちゃいけないのか?ウサギと?絶対嫌だ。

俺が悶々と頭の中で空想を広げていると、痺れを切らしたウサギが無理やり俺の腕を引っ張り、自分の掌と、俺の掌を重ねた。その力が強かったので、掴まれた部分がジンジンと熱を帯びていたのを、俺は忘れない。


掌を重ねた後は、ボーっとしているだけで終わった。ウサギがブツブツと何かを呟いていたようだけど、それぐらいで、痛みも、特に変わったことも、全く無かった。なさ過ぎて、本当に何かしたのかと、ウサギを疑おうとしたが、鉄拳制裁が来るかもしれないことを考えると、俺は唯そこに黙って突っ立っていた。

「契約が完了し、安心しました。契約が取れなかった場合、本部でお仕置きされてしまうので。」

「お仕置き・・・?一体何をされるんですか?」

ウサギが無表情のまま安堵の言葉を述べているので、俺はお仕置きのことが気になり訊いてみた。

「場合によっては、死に至ることをされます。死んでも変わりは沢山いますから、わりかし簡単に殺されます。」

ウサギの答えに、俺は言葉を失った。場合によっては死に至るって、そんなことが普通に行われているのか?信じられない。

俺は、平和の国日本で生まれ育った身。そこそこの生活をし、別れてしまったが、彼女もいた。けれども、死に対しては人一倍に敏感であった。俺には父も、母も無い。2人とも病気で、もう死んでしまったのだ。

「じゃ、じゃあ、俺と貴方が契約をしたことで、貴方は俺に命を救われたんですか?」

俺のその問いに、ウサギは黙って頷いた。少しだけ微笑んだようにも見えたが、ジッとウサギの顔を見てみると、そのようなことはなかった。

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