第九十六章『連合艦隊1943』
『葛城』と『蔵王』の完成が少し遅れたのは、魔王艦隊から譲られた『乗鞍』を参考にして
カタパルトを装備するためであった。水上機用の火薬式カタパルトはすでにあったものの、
油圧式は初めてだったから開発は難航した。結局、すべての部品を模造することになったが、
それなりに時間が必要であった。
史実よりましな精度を持つ工作機械によって、オリジナルに遜色のないものができ試験の結果も
良好であった。新型の艦載機はこれを見越してカタパルト用の装備を取り付けてあったし、
脚部など機体の強度も上げてある…史実の零戦では華奢過ぎてカタパルト発進に耐えられない。
その他、対空奮進弾や新型電探の装備といった作業も加わり工期が延びたわけだが、
これにより日本空母の艦載機発進にかかる時間は飛躍的に短縮されることになる。
風量が少なかったり、機関の不調や損傷で速度が出ず合成風力が造りにくいときも
発進が可能になったのだ。
史実では、新型艦攻『天山』の機体が重くて発進が困難だったので補助ロケットを
使ったりしたが、そういう無理もしなくて済む。小型空母でも烈風などの新鋭機を
運用できるようになるだろう。
『翔鶴』『瑞鶴』の二艦が入れ替わるようにして改装工事にはいった。残りの空母も
順次改装される予定である。
ここで日本機動艦隊の編成が変わることになった。
第一機動艦隊は三つの航空戦隊によって構成される。
『赤城』『天城』と『雲龍』による第一戦隊
『翔鶴』『瑞鶴』と『飛龍』の第二戦隊
『葛城』『蔵王』と『蒼龍』の第三戦隊である。
当座は翔鶴級には烈風が三十六機機と新型攻撃機『流星』…後述…が四十八機ずつ
蒼龍級には烈風五十二機と彗星十八機が搭載される予定だ。
全体では烈風が三百六十機、流星が二百八十八機、彗星が六十機で総計七百八機という
この時点で…魔王艦隊を除いては…世界最大、最強の空母部隊が出現することになる。
一隻ずつ配された蒼龍級は主に防空と対潛哨戒を担当することになっている。
各戦隊は大和級と金剛級戦艦をそれぞれ一隻ずつ含み、新鋭の大淀級または利根級軽巡を
含めた巡洋艦五〜六隻、駆逐艦二十八隻前後によって護衛される。
補給艦艇を別にして、戦闘用艦艇だけでも百十隻を越える大艦隊である。
『流星』について述べておこう。シルエットは魔王艦隊が搭載している史実の流星改に
よく似ている。逆ガルの中翼で機体の大きさもほとんど同じ…見た目での一番の違いは
操縦席の風防の仕切りが少なくすっきりしてることくらいだ。
九七艦攻と比べると三座から二座になったことで、航法など搭乗員の負担は増えるかも
しれないが、未帰還になった場合の搭乗員の消耗は減らすことができる。
五百キロか八百キロの爆弾、または航空魚雷を搭載し、五百キロの場合は急降下爆撃もできる。
こういう『なんでもできる』兵器は、ときとして中途半端な性能になってしまいがちであるが、
流星は絶妙のできに仕上がっていた。
兵装状態で最高速度は五百五十キロ、空荷だと六百キロ近い高速を発揮する。
運動性も良好であり、いざとなれば主翼に装備された二門の二十ミリ機関砲で
空中戦をおこなうことも可能だ。
各空母の搭載機のうち八機ずつは索敵用に特化した機体で、最高速度は烈風並みの
六百三十キロにおよぶ。
防弾性能も含め史実の流星改より一段以上も上の性能といえる。
これを見て、椿は魔王艦隊の搭載機も順次入れ替えていくことにした。
当初は生産数が足りないだろうが、さいわいなことにしばらくは時間的余裕もありそうだ。
一機艦の司令長官は南雲忠一大将(昇進)が留任した。後任の候補に上がっていた小沢中将が
ラバウル沖で負傷してしまったので、もうしばらく頑張ってもらわねばならない。
第二戦隊は山口多聞中将(昇進)、第三戦隊は大西瀧治郎少将が指揮をとる。
第二機動艦隊は『隼鷹』(旗艦)以下『飛鷹』『龍鳳』『瑞鳳』『千代田』『千歳』の
六隻の空母を擁し、搭載機は零戦百二十、彗星八十、九七艦攻四十機の計二百四十機である。
司令長官は角田覚治中将が拝命した。
護衛艦艇は戦艦『陸奥』『扶桑』『山城』以下、巡洋艦十二隻、駆逐艦二十八隻…
総計で五十隻近い陣容だ。
魔王艦隊から編入された『乗鞍』の姿がないが、彼女は旧式艦の『鳳翔』と共に
空母搭乗員の養成に専念することになっている。
現在、搭乗員の充足率は百五パーセントというところ…つまり、各空母の定数を
満たした上に五パーセントが待機状態にあり、損耗を埋めることができるわけだ。
日本海軍はこの数字を少しでも上げておく必要を感じていた。
実はラバウル沖の前には、百二十パーセントにせまっていたのだ。
確かに大きな戦いではあったが、数日の間に熟練搭乗員を十五パーセントも失ったことは
日本海軍首脳部にとり衝撃だった。
来るべき米軍の反攻を考えると、最低でも百五十パーセントは確保しておきたい。
初級の基礎訓練を鳳翔でおこない、中級以上は乗鞍で鍛える…九十機の運用ができる
改翔鶴型を訓練用にすれば、一時に多数を錬成できる…ということである。
乗鞍自身がかなりの数の乗組員を魔王艦隊に呼び戻され、新人が増えているので
錬成しなくてはという意味もある。今後の戦闘で消耗が予想される乗組員の養成も急務なのだ。
ちなみに、乗鞍と鳳翔が外洋で訓練するときは『穂高』『高千穂』の両艦が護衛につく…
練習巡洋艦の彼女らも老体にむち打ち、大型艦の乗組員養成にはげんでいた。
輸送や船団護衛用の改造空母を除きこれ以上の建造計画はない。
設計だけは進めてるものはあるにはあるが、その話はまた今度ということで…
『大淀級司令部巡洋艦』が二隻、『阿賀野級防空軽巡』は四隻が建造にはいっているが、
あとは各級の駆逐艦、潜水艦と工作艦などの補助艦艇ばかりである。
日本は第一、第二の機動艦隊の質と回復力を上げることで、これからの戦争を乗り切って
いかなければならない…彼らにとり魔王艦隊は信頼すべき相手ではあっても、全面的に
頼り切れる相手ではないのだ…
そう!それは良いことだよ…と椿は思う。
椿は自分の楽しみのために戦争をしてるのだから…
つづく
仕事が後ろに押せ押せになって、書く時間がとれるのはいいのですが、先のことを考えると頭痛いです〜。