表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/127

第九十三章『太平洋やや波静か』

「イギリスのチャーチル首相にとって今回のことは渡りに船…だったでしょう。

極論すれば、アメリカが対枢軸戦に参戦した時点で日本などどうでもよかったのですから

必死でアメリカをなだめに回ったと思いますよ」


日本とオーストラリアおよびニュージーランドとの停戦合意について椿五十郎はそう語った。

停戦が発効した1943年二月十六日の総連会議室でのことである。停戦期間は二年半…

終了は45年の八月十五日ということになる。


日本軍は捕虜を連れてニューブリテンから撤兵を開始、停戦監視委員は駐在するものの

領土に野心がないことを証明しようとしている。米軍航空隊に脅かされていたトラック基地は

艦隊寄港地としての機能を取り戻した。


日本側は停戦合意に際しオーストラリア兵の捕虜返還、もしくは日本兵捕虜との交換を

申し出たが、これは他の連合国…英米の目を気にしたオーストラリア側が拒否した。

講和ではなく、あくまで停戦に過ぎないという意思の表明であり、日本側も予想していた

反応だったので深追いはしなかった。


「我が国との戦争を停止するだけで、対ドイツ戦はおかまい無しというのが

決め手になったのでしょうな」


総連に特別参加?の近衛首相が安堵の表情を隠さずに言った。期間限定とはいえ交戦国が一つ

減ったのだ。その間はアメリカだけに集中できる…それが大変なのだが。


「元々たいしたことはできなかったとはいえ、オーストラリアへの軍事援助から解放される。

逆に中東戦線などで貴重な戦力となっている…ええと、ニュージーランドと併せてアンザック軍と

いうんでしたか…兵力の増援も望めるわけですしね」


これは体調を崩してる東条陸相の代理で出席した永田鉄山陸軍次官である。

東条の快復が思わしくないときは陸相就任もありうるとされている。


「その通りですよ永田さん。英国としては対独戦、ヨーロッパ戦線のめどがたつまで

全力をそちらに集中したいわけで、それまでは日本を…泳がしておくということです。

アメリカにもそうして欲しい…停戦とまでいわなくとも大西洋に全精力を向けて、

日本はほっとけぐらいのアピールはしたんじゃないですかな」


椿の言葉にアメリカの国民性をよく知る山本五十六連合艦隊司令長官が

うなずきながら続けた。


「アメリカにしては…アンザックの停戦と自軍のオーストラリアからの撤兵をよく了承

したものだと思いましたが、英国が相当根回しをしたということですね」


オーストラリアは停戦期間中、対日戦争については中立国となるので外国軍隊は…

イギリス軍を含め…撤兵することになった。


人に殴られたら、十倍殴り返さねば気が済まないアメリカがニューブリテンでの戦いで

一敗地にまみれた直後に、兵を退いたことに山本は驚いたのだ。


これは合衆国大統領ルーズベルトの精神状態が大きくかかわっていた。

『死にかけた』ルーズベルトはこの時期、精神に一種の『澄み』が出た感じで、

艦隊再建までは対日戦の戦略を通商破壊と『本土とハワイの防衛のみ』にとどめることや

ヨーロッパ・アフリカ戦線への全力傾注を割とあっさり呑んだのだ。


「まあ、日本としては『泳がされてる』間にできるだけの手を打っておかなくては…ですね。

東郷さん、フィリピンの方は順調ですか?」


東郷茂徳外相がうれしそうに報告書類を出席者に配る。


「…ほう、大分物いりになりそうですが、戦争をしてるよりはましですからな」


「交渉は現地軍の本間中将と…特使派遣…また重光さんか。脚がお悪いのにご苦労を

おかけしますな」


「重光特使にはマッカーサー将軍宛の陛下のお言葉を持参してもらいます」


「陛下の…?」


「椿さんの言われるには意思の表明はなるたけはでに、明確にした方がよいと…」

  

「そういうことです。彼らは『フェアプレイ』や『騎士道』といったものを好みます…

自分達に都合の良い限りにおいてですが。ただ、行間からそれを読み取るような細やかさは

期待しない方がいいです。言うべきことは、はっきり言っておくべきでしょうね」


1943年二月二十八日…フィリピンはケソン大統領を元首として暫定独立国家を宣言した。

あえて『暫定』と付けたのは翌年に『合衆国との約束通り正式に独立をする』という意味である。


フィリピン暫定…以下略…政府は、日本と45年八月までの期限付き停戦に合意、それまでの

中立を表明する…では、在比米軍はどうなる?


『日比両国は在フィリピンの米国軍に対し、国外への退去を求める。日本は彼らを捕虜にする

ことも武装解除することも望まない。敵勢力圏のただ中で一年余の間、孤立しながら戦い抜いた

将兵が国際関係の変化により移動することになったのである。勇者には、それにふさわしい

礼をもって送り出すべきであろう。移動には中立国籍の船舶を使用…特例として、武装したまま

中立国オーストラリアを『経由』して移動することを認める。これはオーストラリア政府と

合意済みである。なお、オーストラリアまでの移動および一時的な滞在にかかる費用は日比で

分担して負担することとする』


このうち費用については、アメリカが支払うことを主張して来たので、日比が前払いした分…

ほとんどが日本の分担だったが…はオーストラリアから返金されることになった。


これもアメリカにしてはよく呑んだものだが、さきに帰国したブレリートン少将が政府の

要人だけにした秘密報告が効いていたのだ。少将は在比米軍にモラル・ハザードが起こりつつ

あり、このままではフィリピンのみならずアジア全域で決定的な対米不信を招きかねないことを

強調した。日本の手に乗るのはいかにも腹立たしいが、かげで説得役に回ったイギリスの顔を

たてる…として無理やり納得したのだろう。


「とりあえずフィリピンには武器と食料の援助を始めなくてはなりません。レイテの基地の

使用料を含めて…ですが」


レイテ島は講和時に返還することになっているが、それまでは『有償』で日本が借りるという

合意がなされてる。


「武器、弾薬は旧式品で何とかなるとしても、食料は我が国にそれほど余剰品はないのでは?」


「その通りですので輸入代金を我が国が支払うことになります。米はインドシナ、小麦と肉は

オーストラリアが輸出を承諾しています。オーストラリアからは我が国にいる連合国軍捕虜用と

しての食糧も輸入できることになっています」


「支払いは大丈夫かね。外貨の準備高もそれほどないだろう」


「インドシナは円での支払いを了承しました。ただし、それで石油を輸入できるという条件付き

です。オーストラリアとは純金で取引をします…これには表向き民間から供出された貴金属を

充てるということにしますが、椿さんから三億円分の純金を提供して頂きましたので、

当面そちらからの支払いが主になります」


三億…平成の感覚で四千五百億円…の能力ポイント使用は小さくないが、オーストラリアに

アジア、とくに日本との付き合いが『商売になる』ことを知らしめることができるのであれば

惜しくはない。


この三億と、さきのソロモン海戦、ラバウル航空戦で魔王艦隊が失った搭載機および搭乗員を

埋めるのに使った二億五千万ポイントが能力ポイントから差し引かれる。

その残は…百六十一億八千八百八十四億四千七百五十万…である。


つづく

仕事がマジ忙しく、年末までほとんど更新できないと思います。復活しましたら、またよろしくお願いします。現在までのアクセス数がユニークで

三万、総ページ数で十万…師団、軍単位の数になってきたなあ…などと思いつつ、しばらくご無沙汰です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ