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第九十一章『ラバウル烈風空戦録5』

二段に構えた三百機以上の戦闘機の迎撃にさらされ、編隊を大きく崩されながらも

百機近い米軍重爆撃機が二機艦の上空に達した。


そこはまた猛烈な対空砲火という試練の場であったが、ともかく三千発近くの

五百ポンド爆弾が降り注ぐことになった。


五千メートルを落下した爆弾が広大な海面に無数の水柱を噴き上げる…

いくつかの閃光が走り、火柱と黒煙が立ち上る。


『空母二隻、戦艦一隻、その他に命中弾!』


攻撃隊からの報告に米軍司令部では歓声が湧いた。機数の割には戦果が少ないかもしれないが、

中型爆撃機からなる第二陣がさらにそれを拡大してくれるはずだ。


B24六十五機、B17八機の未帰還機と再出撃が困難なほどの多数の損傷機に見合う戦果に

なるかどうか…B24の損害がやたら多いのは数が多かったのと、B17は(比較的)落とし

にくいという認識が日本側にあり攻撃がB24に集中したためだ。


P38は十二機しか戻らなかった…二十八機が未帰還になったわけである。

生き残ったパイロットの中にはジャップが『P38より速い…実際はほぼ同速…戦闘機』を

繰り出して来たことをうわごとのように繰り返す者もいた。


少し話が先走り過ぎた…第一波空襲直後の日本艦隊に戻ろう。


第二機動艦隊は二つの輪型陣を構成していた。小沢中将座乗の空母『龍驤』と『龍鳳』

『瑞鳳』、戦艦『扶桑』を中心に巡洋艦三隻、駆逐艦十二隻…

もう一つは、吉良俊一少将が指揮する空母『隼鷹』『飛鷹』『祥鳳』、戦艦『山城』を

巡洋艦三隻と駆逐艦十二隻が護衛している。


『阿賀野級』軽巡や『秋月級』駆逐艦も入っているが、従来艦が多く防空戦の能力はやや低い。


「龍驤が被弾! 小沢長官が負傷されました!! 吉良閣下が艦隊の指揮をとるようにとの

ことです」


それを聞いた次席指揮官の吉良少将は即時に反応した。空母に初めて着艦した日本人搭乗員として

名を残す生粋の航空屋である彼は、航空戦における時間の重要性をよく知っている。


彼の輪型陣も飛鷹と祥鳳、山城が被弾しており混乱が広がりつつあったのだが…


飛鷹は前部エレベーター破損…発着艦不能だが航行に支障無し。

祥鳳は後部舷側に被弾…推進系に異常、速力十五ノットに低下

山城は対空火器に少なからぬ損害が出たものの、そこは戦艦…戦闘行動に支障無し。


龍驤の詳しい被害はまだわからないが、小沢長官が負傷したことから艦橋付近に損害を

受けた可能性が高い…事実そうだった。

至近弾によって巡洋艦、駆逐艦で被害も出ているようだが、致命的なものの報告はない。


「電探より…新たな敵編隊…約二百…中高度にて接近中、距離百五十」


「戦闘機隊に命令! 燃料、残弾に余裕のある者は戦闘継続…残弾無き者は一機艦、特機艦に

向かえ! いずれも余裕無き者及び損傷機は至急健在な母艦に着艦せよ」


艦隊は損傷艦を守るように乱れた陣形を整え始める。船が古いだけにベテランが多く、

二機艦として一年間組んだキャリアが生きていることもあって、驚くほどの短時間で

輪型陣が組み上がった。


「後方より二群の編隊が接近中…友軍戦闘機隊と思われます」


一機艦…南雲艦隊が六十機、特機艦…特設機動艦隊…魔王艦隊が八十機の戦闘機を

増援によこしたのだ。


残存機を含め三百機の日本軍戦闘機が百六十機のB25、B26とハボック、三十機の

P38に襲いかかった。


防御力の弱い中型爆撃機だけに被弾したときはもろい、たちまち撃墜される機が相次ぐが、

反面でスピードも速く機動性も重爆よりは優れているので迎撃を振り切る機も出てくる。


そして再び艦隊上空の防空戦闘へ…


「B25八機、低空で輪型陣内に侵入…高速です!」


「…まさか反跳爆撃!?…米軍はもう採用してるのか?」


スキップボミング…日本軍でも研究が進んでいる『水切り爆撃』である。

ラバウルではイギリス軍からの情報をもとに一部の部隊で実験的に採用していたのだ。

爆弾槽の改造も必要だし、専用の爆弾も作らねばならないので訓練もまだ充分とは

いえなかったが…とにかくやってみようでやっちゃうのがアメリカらしくて恐ろしい

ところである。


一団となった八機のB25は隼鷹に向かってくる…投弾されたが最後回避は不可能に近い…


「ようし! あの空母のどてっ腹にぶちあてるんだ、投弾用意!」


…空母の前後、中央の三カ所に白煙が噴出した…命中弾? いや、その中から無数の

炎の尾を引くものが編隊めがけて飛びかかって来た。


空中にふくれあがった黒煙から三機のB25が海面に落下した。

二機が姿勢を崩し煙をひきながら離脱しようとしている。


それでも四発の爆弾が隼鷹に向かって水面をはねてくる…一発が艦尾の後方に外れ、

二発が水しぶきを残して水面下に消えた…残る一発が…高く跳ね上がると飛行甲板すれすれに

飛び越えて反対側の海面に落下した。


「…どうやら隼鷹は幸運な艦らしいな。対空奮進弾もそれなりに効果があることがわかった」


K信管装備の奮進弾を三十二連裝にして発射する近接防御用の新兵器はこの作戦の前に

配備されたばかりであった…空母と戦艦に片舷三基ずつ、六基が装備されている。

百発近いロケット弾がB25の編隊を押し包んだのだ。打ちっぱなしで戦闘中は再装填も

きかないが、ここでは見事に隼鷹を救ったといえるだろう。


「祥鳳が被弾!」


先の被弾で動きが鈍っていた祥鳳は回避もままならなかったのだろう…艦首の水線付近から猛烈な

黒煙を噴き出している。前のめりに傾斜も始まっているようだ…

結局、祥鳳は日本空母で初の喪失艦となる。


他には龍驤が魚雷を受けてのたうち回っており、山城が火災を起こしていた。

巡洋艦が一隻傾斜しながら停止している…艦首部分を吹き飛ばされて沈みかけている駆逐艦も

いる…終わりつつある空襲がどれだけ激しかったかを、そして米陸軍のパイロットの闘志や技量が

いかに高かったかを示していた。


「龍驤に総員退艦命令が出ました。小沢長官は駆逐艦に移送されたとのことです」


日本空母部隊に開戦以来初めてと言ってもいいほどの大きな損害を与えた…その代償として、

米軍は九十機の爆撃機と二十二機の戦闘機を失い、基地に戻った機も半数以上が再出撃に

耐えられないと判断された。


一日の戦闘で二百三十機の爆撃機、五十機以上の戦闘機が戦力から消え去ったのである。


『日本軍の戦闘機が多過ぎる。まだ捕捉してない空母部隊が近くにいるのか…』


そして、その懸念は索敵に向かったB17の編隊がラバウルから九百キロの地点において

零戦の迎撃を受けたことで現実のものとして認識される。


『奴らはこちらに接近して来ている』


日本艦隊が攻撃を断念して引き上げる…という淡い期待は完全に否定された。


『よかろう! 明日、このラバウルの命運を賭けて決戦をするまでだ』


つづく





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