第八十七章『ラバウル烈風空戦録1』
え〜、本章のタイトルは架空戦記の黄金時代に筆者が愛してやまなかった某有名作品とは関係ありません。何度も何度も読み返しながら次巻の発売を待ちわびたあの日々…ただしあの作品は名作でも傑作でもないと思います。何年も中断したあげくに半端なかたちで完結したからです。それでも終わっただけましで、出版社サイドの都合が多かったのでしょうが中途で打ち切られた架空戦記のなんと多いことか…戦争も作品も終わらせるのはとても難しいとはわかっていますが、完結して初めて作品になるのだと思います。ん〜と…天につばするような発言はこれまでにして話を始めましょう。
1942年十二月八日…言い忘れていたかもしれないが、出てくる日付は
基本的にすべて日本時間である。
第二次世界大戦に参戦して一周年のこの日、米海軍は新たな戦力を手に入れた。
待望の新鋭正規空母『エセックス級』のネーム・シップである一番艦エセックスが
就役したのだ。
二万七千トン、三十四ノット、百機を運用できる。サイドエレベーターや二基の
カタパルト、新型のレーダーとそれを用いての戦闘指揮をする指揮所(CIC)などの
新機軸が盛り込まれている。ハリネズミのように装備された対空火器はやすやすとは
日本機の攻撃を許さないだろう。
これでも戦雲の高まりをにらんで、急いで設計、建造された『戦時急造艦』なのである。
43年一月には二番艦のヨークタウン…二世(以下略)、三月にはエンタープライズ
五月にはワスプ、七月にはホーネット…以降も二か月に一隻の割合で就役してくる予定だ。
艦体をいくつかのブロックに分け、別々に造ってからくっつけるという工法で建造の
スピードアップをはかった成果だが、やはり恐るべき工業力である。
とはいえ、予定より三週間も工期を縮めた突貫工事の連続で、事故等によって十人を超える
殉職者と多数の負傷者を出している。やはり人間のやること、無理はどこかにしわ寄せが
来るものだ。
『搭載する機体も高性能の新型機になっていく。こいつの数が揃ったら、そのときこそ必ず
日本海軍を…』
米海軍関係者なら誰しもがそう思っている頃…
その目標である日本の神奈川県にある横須賀航空隊の追浜基地では…
海軍のみならず陸軍航空隊関係者も集まる中で四機の機体がエンジンの轟音を響かせていた。
「やあ、思ったより早くできましたな」
「人、物、金を集中させれば何とかなるものですね」
千八百馬力のエンジンを搭載した機体は海軍が『烈風』、陸軍では『疾風』(はやて)と
名付けて採用する予定の新型戦闘機であった。
滑走を始めた四機は超A級のテストパイロットが操るだけあって見事な機動で離陸、上昇に
入った。
「おおっ!話には聞いていたがすごい上昇力だ。これなら制空戦闘だけでなく迎撃戦にも
充分使えますな」
「陸軍では飛燕を制空戦闘、この疾風を迎撃用と使い分けるつもりです。鍾馗の性能向上も
限界に来ていたので助かります」
艦載機の烈風は最高速度が六百三十キロ、航続距離は増槽付きで二千四百と零戦よりは
やや落ちるが、実用上問題無しとされた。
疾風はやや軽いこともあって六百四十五キロを出す。武装は両者とも新開発の『三式二十ミリ
機関砲』四門を装備する。これは初速が早く、ブローニングには及ばないものの、重い弾頭を
国産の12,7ミリ機銃とほとんど変わらない軌道で飛ばせる優れものである。
零戦より一回り大きな機体に大直径のエンジンを載せているが、シルエットはそれほど
ずんぐりとした印象は受けない。史実の『紫電改』と四式戦『疾風』の中間といった感じか…
主翼は中程で軽い上半角を持つ穏やかな逆ガル翼で、艦載機型はそこから油圧で上に折り曲げる
ことができる。
「そのおかげで、大柄な機体にもかかわらず空母への搭載数は減らさずに済むということです。
ただ、小型空母には難しいでしょうが…」
外形で特筆すべきはきれいな涙滴型をした操縦席の風防だ。合成樹脂を多用したそれは骨組みが
少なく、いかにも視界が良さそうだ…椿の目にはP51ムスタングの後期型に似てるように映った。
『こりゃあ迷うなあ…』
実は…椿の腹づもりでは最終決戦…あるかどうかはわからないが…で再建なった米海軍の
大機動部隊と戦うさいの戦闘機として、グラマンF8F『ベアキャット』の日本版を候補に
考えていたのだ。
史実では、ベアキャットを搭載した空母が日本に向かう途中で終戦になったので、実戦には
参加してないが『未来兵器の縛り』はクリアしている。
無骨な機体が多かったグラマン社の作品とは信じ難い繊細なシルエットを持ち、零戦より
小振りな機体に二千百馬力の大出力エンジンを搭載していた。
六百八十キロの速度、優れた上昇力、俊敏な機動性は純粋な対戦闘機用の機体として一つの
極致だといえよう。
その反面で設計に余裕が少なく、航続距離や爆弾搭載量の減少というデメリットをもたらした。
コルセアが戦闘爆撃機として長く活躍したのに比べ、1950年には退役を余儀なくされたのは
時代に逆行した結果といえよう。
しかし、43年に出現すれば、その性能は圧倒的である。ベアキャットがヘルキャットをばたばた
落とすというのは画面としておもしろいんだが…
烈風の性能がこれだけいいと、速度以外には魅力を感じなくなってしまう。
その速度にしても…米軍機のスペックは機銃弾も積まず、燃料も最小限しか積んでない
カタログデータなのである。機銃弾と燃料を半分ほど積んだ実戦態勢で出す日本機の
スペックと比べるときは三パーセントほど割り引く必要がある。
史実で最高速度五百五十キロの零戦が四十キロは速いはずのヘルキャットになんとか食いつけたり
するのは、実戦態勢のヘルキャットは五百七十ぐらいしか出ないからだ。
そうして考えると…烈風とベアキャットの実際の速度差は三十キロ程度…
烈風にはまだ熟成の余裕もありそうだし…量産性と信頼性を第一にしたのでぎりぎりまで
磨き込んだわけではないということだ。
『補充の面からも烈風に賭けた方が良さそうかな…』
いずれにせよ、実戦によるデータのプルーフは必要である。次の戦いの前に『みなと』と
『なかの』の二空母の戦闘機隊を烈風に転換させ訓練させよう。機体は生産が間に合わない
だろうからポイントを使って『出現』させる。
烈風、疾風の生産予定は43年はラインの変更や初期故障の改善などの時間も見込むと
千二百機程度とされるが、そのまま軌道に乗れば44年には六千機以上が生産できるという。
あとは、この高性能機を乗りこなせる…せめてレベルB、空母の搭乗員ならBプラスをいかに
増やしていくかにかかっている。
この時期は他にも艦上攻撃機の『流星』、陸攻の『銀河』や対潛哨戒攻撃機『東海』、
高速偵察機『新司偵』など新型機が続々と誕生、もしくは誕生間近なのであるが、
その話はいずれそれらが活躍する場面ででも…
つづく