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第八十章『ノーベンバー・クライシス4』

世界地図で『オセアニア』を見る。


オーストラリアの北にはニューギニア島があり、千五百キロほど東にニューカレドニア島が

ある。この一帯の海域を『珊瑚海』と呼ぶが、その北部…ニューギニアとその東に列島状に

連なる島々で囲まれたあたりは、その諸島の名を採って『ソロモン海』と呼ばれる。


十一月二十日早朝、米軍はソロモン諸島のガダルカナル島に上陸を開始した。

一部の部隊は水上機の泊地として良好な北のツラギ島に向かう。


上空には警戒のためのF4F戦闘機や対潛爆弾を積んだドーントレスが舞い、戦艦や

巡洋艦が海岸近くにより砲門を向ける…もちろんそれが発射されることはないが…


「景気づけにぶっ放したいところだが、なにしろ敵がいないからな」


ハウリング…吠えるという異名を持つターナー提督の声が指揮艦マコーレイの艦橋に轟く。


「敵どころか、味方のコースト・ウオッチャーを吹き飛ばしかねませんからね。

それに…原住民を殺しちゃっても後味が悪いですし」


「まあな、それにしても上陸舟艇の動きが悪いな。隊列はバラバラだし一カ所に

突っ込み過ぎて渋滞を起こしてる…あ、馬鹿め! 一隻ひっくり返ってやがる」


完全装備の陸兵が海に投げ出されると重くて即沈むし、浅瀬で転んでも起上がれずに溺れる

こともある。この朝、海兵隊八名と陸軍兵士十九名が敵のいない上陸作戦で命を落とした。


いや、正確にいうと『敵』はいた…


島を覆うジャングルの中から米軍の動きを見守っていた彼らは無線機に手を伸ばす。


『米軍ガダルカナル島北海岸に上陸、師団規模…沖合に戦艦二隻を含む艦隊…

空母は視認できないが艦載機多数が上空を飛行中…』


『陸軍別班』…いわゆるコマンド部隊である。格闘術にすぐれ英会話が達者な者も多い。

椿の指示により陸軍はこの特殊部隊をソロモン諸島に派遣した。潜水艦で運ばれた彼らは

夜間に上陸すると、偵察およびオーストラリアが配置しているコースト・ガードの殺害に

いそしんで?いた。


「長官! 出ました…大規模な日本艦隊がパラオ諸島西方を南下しているのを潜水艦が

見つけました!」


ガダルカナル島の南を遊弋してる…北側は狭い多島海で艦隊運動に不自由なので…

ハルゼーの空母部隊に緊張が走る。


「針路からするとニューギニア島の西を抜けてアラフラ海に出るようですが…やはり

オーストラリア攻撃に向かうのでしょうか?」


「油断はできん…ラバウルの陸軍航空隊にはトラックとの間の哨戒を密にしろと言ってあるから

こっちに向かってくれば捕捉できるはずだが…」


「しかし、日本軍はここに我々がいることは知らないでしょう。いずれにせよ、こことは

三千キロは離れていますし、すぐにはどうということもないでしょうが…」


「ジャップは艦隊に余裕があるから別働隊も考慮に入れとかないとな」


「はい、万が一に備えてガダルカナルのかなり北まで哨戒機を飛ばしています」


「うむ、少し神経質すぎるかもしれんが…おれたちだけなら日本艦隊に来て欲しいけど

今回は海兵や陸軍のおもりだからな…慎重にやるしかあるまい」


四日間をかけて兵員の上陸、物資の揚陸はほぼ順調に行われた。


空母インディペンデンスにマコーレイが接近してターナーが乗り移ってきた。


「お疲れさんだったなハルゼー…あと二、三日で戦闘機用の滑走路は使えるようになるそうだ。

海兵はF4Uを持ってきてるから、そいつを組み立てれば一安心…艦隊も無事お役御免だな」


「コルセアか…あいつならどんな日本機より高性能なはずだからな。空母にも欲しいところだが

敵との交戦より着艦事故で損害が増えそうで使えないんだ」


「早くF6Fが配備されるとよいのですがね。コルセアほどじゃなくてもゼロは充分圧倒できる

性能だと言いますし」


グラマンF6FヘルキャットとヴォートF4Uコルセアは、ともにダブルワスプ二千馬力の

エンジンを搭載する新型戦闘機だが、その性格は大分違う。ヘルキャットが堅実な造りで

艦載機として使いやすいのに対し、コルセアは強い逆ガルの主翼や大直径のプロペラに

象徴されるように、特に初期型はトリッキーな機体であり、下方視界が悪いことから空母への

着艦は相当に困難であった。その代わり速力はヘルキャットの五百九十より五十キロも速く、

上昇下降の機動性も優れていた。性能に進化の余地も多く、史実ではジェットの時代になった

朝鮮動乱以降も戦闘爆撃機として活躍することになる。


ヘルキャットも零戦より優速であり、機動性を含めた総合力でも圧倒できると考えられている。

『鉄工所』と揶揄されることもあるグラマン社製の機体らしく頑丈で12.7ミリの

一、二連射を受けても充分耐えられるとされる。43年半ばには相当数が配備される予定で、

さんざん苦しめられてきた日本海軍からの制空権奪取の切り札になるはずである。

なお、武装は両機種とも12.7ミリを主翼に六挺…である。


『あと一年…いや、半年後には状況はずいぶん改善される。こころおきなくジャップと戦える

ようになるんだが…』


「…で、ジャップの艦隊はどこにいったんだ? ダーウィンが攻撃を受けたって報せは

まだ来てないようだが」


「音沙汰無しだ…オーストラリアにいる連中が血眼で探してるが、ジャップは狡猾だ…

すんなりと来やしないだろうな」


「それじゃな…おれはいったんニューカレドニアに戻って、追加の荷物…陸軍の兵隊込みだが

運んでくるとするよ。お前さんはもうちょっとだけ頑張っていてくれ」


部屋を出かかったターナーは飛び込んできた通信係の士官とぶつかりそうになった。


「し、失礼しました…長官、緊急の通信です!」


「日本艦隊か…どこに現れた?」


「エスピリッツサント島の航空基地が日本軍艦載機の攻撃を受けています…無線は途中で

切れました」


「エスピ……!?」


ニューカレドニアの北東、ソロモン諸島の南東に珊瑚海の東端を形作るニューヘブリデス

諸島がある。その中の一つに陸軍の航空基地があって一帯の哨戒にあたっていた。

ガダルカナル島に大型機用の滑走路が完成した暁にはB17などが移ってくる予定になって

いたのだが…


いまの報告が冗談でないのなら、日本の空母部隊がそこから半径五百キロの範囲にいるのは

確実だ。


『逃げられない』


ハルゼーが直感したのはそれだった。


つづく


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