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第七十七章『ノーベンバー・クライシス1』

1942年十一月一日…

アメリカ西海岸にある合衆国海軍の本拠地サンディエゴから六隻の空母が出港した。


「ハルゼー長官、『プリンストン』より連絡…『機関不調、出しうる速力二十八ノット』です」


参謀長ブローニング大佐の報告にウイリアム・B・ハルゼー中将が吐き捨てるように応える。


「就役してからずっと不調だろうが…あの空母はまともに最高速力を出したことなんかあるまい」


「なにしろ急がせましたからね…プリンストンにしろ、この『インディペンデンス』にしろ、

この時点で海に浮かんでいること自体が奇跡みたいなことだそうで…」


「はっ、わが合衆国の技術レベルがそんなものだとはな…多少の突貫工事でこんなに不具合が

出るとは思ってもみなかったぜ」


ハルゼーの神経を逆撫でするように『エレベーター故障』の報告が乗艦である

インディペンデンスの甲板作業員から入ってくる。


「…大丈夫ですかね長官…就役して一月半で実戦に出るのはやはり無理なんじゃ?」


「乗組員も新兵が多いからな…作戦発動まで少し時間もあるし、航海中も訓練を続けて少しでも

レベルアップさせるしかあるまい。プリンストンの艦長にもそう言っとけ」


「シャーマン大佐ですな。本来なら彼自身にも空母の操艦にもう少し習熟する時間が必要

でしょうが…」


「しかたねえや、フレッチャーやミッチャー…それにスプルーアンスの奴までハワイで

死んじまったからな」


「長官はスプルーアンス少将をずいぶん買っていましたものね」


「ああ、おれは頭で戦争をするような奴とはうまが合わないんだが、スプルーアンスは

頭がいいだけじゃなくて、ファイティングスピリットもしっかり持っていた。

おれの代わりに空母部隊をまかせるとしたら、ためらわずに奴を選んだだろうがな…」


「長官、『カサブランカ』より報告…発艦事故です…ドーントレスが一機、海に落ちました」


『グ…艦も乗組員もパイロットも素人ばっかりか…さすがのおれも、こいつらを率いて

ジャップと戦うのは心細いぜ』


六隻のうち二隻はクリーブランド級軽巡の艦体を利用した『インディペンデンス級』の

軽空母である。一万一千トン、三十一ノット、四十五機を搭載しており、正規空母には

及ばないけれどなんとか戦闘行動に耐えられる。


開戦前に米海軍が保有していた空母、ヨークタウン級四隻、レンジャー級三隻はすべて海の底か

スクラップにされている。負け戦という状況の中で、乗組員も多くが死ぬか傷つくか捕虜となって

失われていた。米海軍は乗組員を含め空母部隊を一から再建しなくてはならないのだ。


二万七千トン、三十四ノットで百機を運用できる期待の新鋭空母『エセックス』は就役を

前倒しするため工事が急がれて、計画より一か月ほど早く十二月初めには完成の予定だ。

同級は二番艦が来年二月に…その後も二か月に一隻のペースで完成し43年中には六隻が揃う

ことになっている。


もっと増やす計画だが、造船所が『戦艦』でふさがっているので44年前半はペースが落ちる。

なにしろ旧式艦のネバダ以外は、やっぱりみんな海の底にいってしまっている。

米海軍も空母部隊の威力は認めていたが、レイテ沖海戦やギルバート沖の最終局面で日本海軍の

戦艦部隊が活躍したこともあって『量産』に踏み切っていたのだ。


三万五千トンのサウスダコタ級の二〜四番艦『インディアナ』『マサチューセッツ』

『アラバマ』の三隻はすでに完成して訓練に励んでいたが、四万五千トンの『アイオワ級』が

六隻、六万トンの『モンタナ級』が二隻造船所を占領していた。


いかにアメリカとはいえど三万トン級の大型艦を造る施設には限りがある。その分空母の

建造にしわ寄せが来るのはやむを得なかった。ハルゼーに言わせれば全部とはいかなくても

せめて半分は空母に回せ…といったところであるが…


それを補うというのが、一万トン級の船台でできるインディペンデンス級の量産である。

現在の二隻に加え43年中には八隻が就役し、合計で十隻が戦場に姿を現す予定になっている。


海軍としては待ちたかった。来年の後半には正規空母、軽空母あわせて十隻以上が戦力化される。

それを待ってから日本海軍に戦いを挑みたかったのだが…


そこで、さらに補助戦力として出されたのが『カサブランカ級』護送空母…であった。


東京、総連の会議室…


「護送…空母ですか…椿閣下?」


「日本にもありますよね。『大鷹』や『沖鷹』といった商船改造の小型空母ですよ」


「はあ、おもに航空機の輸送に使っていますが、米軍はそれを戦闘用に出してくると?」


「一万トン弱、二十ノット程度で搭載機は三十機といったところでは普通なら戦闘には使いたく

ないでしょうがね…だが、米軍は必要とあらば見栄や体裁にはこだわらずになんでもやって

きますよ」


「それはわかりますが…その性能で実際戦力になるのですか?」


「いくつか方法はあります。後方においておき前線の戦闘用空母が消耗した艦載機を補充する

…というのがまともな使い方でしょうが、その逆も考えられますな」


「逆…?」


「数にまかせて前線に出してくる…艦は小さくて速力も遅いですがカタパルトを持ってますから

機体の大きな新鋭機も運用できます。現時点で完成してるのは多くても十隻程度でしょうが、

多数の造船所で建造にかかっているはずですから、来年からは一週間から十日で一隻ができて

くると思って下さい」


「………なる…ほど…十隻まとまれば三百機…あなどれませんな。そいつらを相手にこちらが消耗

したあとに戦闘用空母が押し出してくるというわけですか」


「しかも、たとえ沈めてもちゃんとした軍艦ではなく、正体はただの輸送船…米軍のダメージは

小さいという算段ですな」


「いや、それは違います。米軍が同じように思い違いをしてくれれば面白いんですがね」


椿のこの言葉の意味をすぐに理解したメンバーは少なかった。多くの者が一か月に三〜五隻と

いう建造ペースから受けた衝撃に気を取られていたからだ。


「椿閣下、スペインやメキシコからの情報では、なにか大きな動きがありそうです。いっそう

緻密な情報収集に務める必要があると考えます」


「同感です。この時期に太平洋で動くことの不利は米軍も承知の上でしょう。あえてそれを

行うとすれば、必死であるともいえます…必死の者は手強い、それを忘れないようにして下さい」


ただし、必死なだけでは自ら進んで墓穴に入ることも多い…さて今回は…


つづく



ユニークでのアクセス累計が二万を越えました。一日一カウントですから仮に一つの端末だけだと六十年くらいかかる計算です。妄想の垂れ流しをかくも多くの方々に温かく見守って頂き有り難うございます。仕事が忙しく更新も遅れがちですが今後ともよろしくお願いします。

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