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第七十二章『征西の艦隊…4』

1942年七月二十六日…椿五十郎の分身、五十二郎はインド洋上で戦死した。

設定により椿が使える能力ポイントは半分になってしまった。

最近のはプレイしていないのでわからないが、あの『ドラクエ』のシステムである。


『にひゃくろくじゅうおくぽいんとが……』


椿は総連のトイレの中で悔恨にのたうち、情けなさと心細さに涙を流した。

トイレでこんなに涙を流したのは久しぶり…前回は胃の検診でバリウムを飲んだのに

下剤を飲むのを怠ったため、どーやっても出ない『それ』を指を突っ込んで…いや、

それはどーでもいいが…


問題はこれからだ。魔王艦隊には吉浜少将という次席指揮官が設定してあり、それなりに

戦いを継続することはできる。…が、ロールプレイングゲームのAIの戦闘を見るのと同様に

歯痒さはつきまとう。やはり魔王艦隊は自分で指揮をとらねばつまらん…というわけで

椿五十三郎ごじゅうさぶろうを出現させることにした。


九十九億ポイントを消費する。ただでさえ半減したポイントをそんなに安直に使って、

これからの戦争をどうするんじゃ…と思うかもしれないが、『楽しむ』ことが最優先で

ある以上こうするしかないのだ。


『勝つ』ことはある意味簡単である。五百キロ爆弾の単価を千ポイント…平成の感覚で

百五十万円…とすれば、一割り増しの千百ポイントで日本領土外の任意の場所に出現させる

ことができる。一億一千万ポイント使えば十万発、五万トンの爆弾を大都市の人口密集地に

いちどきに降らせることができるのだ。B29六千機分の弾量といえば感覚がつかめるかな…

大方の都市は一瞬にして灰燼と化し、十万単位の死傷者を出すだろう。いっぺんに五十ぐらい

都市を消滅させてやればヤンキーもちっとは考えるかもしれない…戦争をやめたい…と。


…『ある種の化学物質』を使えばもっと安価に、千万人単位で駆除することも可能だから、

北米大陸をほとんどノーマンズランドにして『敵国』そのものを消滅させれば『勝ち』だろう。

だが、そんなことをしても…少なくともこの時点では…つまらん!

別に人道的見地から『しない』というわけではないので選択肢としては残しておく…

『神をも恐れぬ所行』かもしれないが、魔王なのだからかまわないのだ。


能力ポイントの残…百六十七億三千八百八十四万四千七百五十…


魔王艦隊、旗艦『みなと』艦橋…


「ちょ、長官…ご無事でしたか」


窓から飛び込んだ機銃弾が椿の頭を粉砕した…のだが、一瞬艦橋内を黒い雲がおおったかと

思うと、椿五十三郎が姿を現した。五十二郎の死体の方は、まあ適当に処分したということで

消えている。


「ああ、まだ御使いの役目を務めろということらしい」


下西参謀長以下の艦橋スタッフの眼が『奇跡』を見た信者のそれに近くなっているのは困りもの

だがしかたあるまい。


「皆も無事のようでよかったな。空襲もどうやら終わったらしい…艦隊の被害状況をいそいで

まとめて欲しい」


さっきのドーントレスが最後の攻撃だったようだ。電探はおよそ三十機ほどが南下していくのを

捉えている。


「七十機ばかりは墜としましたか…今度はこちらの番ですな」


「うむ、まずは第一次攻撃隊を収容して、南東に向かおう」


「空母部隊ではなく戦艦の方へ…ですか?」


「理由はいくつかあるが…空母は脚が速いし、海域の雲量が多いことから捕捉が難しいだろう。

それと、英空母の搭載数からいってさっきの空襲は全力出撃に近かったはずだ。存在と位置が

判明したことで脅威はかなり減じている。警戒を怠ることはできないが、まずはもう一方の

脅威を排除しよう。追加の索敵機を出して接触を切らないようにしてくれ」


艦隊の主な被害は空母『しぶや』が至近弾で若干の浸水…一、二ノットの速力減。

戦艦『ひゅうが』が爆弾一発の被弾で高角砲二基を損傷…その他は機銃弾や破片で何隻かが軽微な

損傷を受けたに留まった。とくに六隻の給油艦にまったく被害が出なかったのはこれから先を

考えるとラッキーであった。


攻撃隊の収容と陣形整備が終わるまで、わずかに危惧された再度の敵襲はなかった。

魔王艦隊は『反転、逃走しつつある』と報告された英戦艦部隊に向け突進を開始する。


「コロンボ港および二カ所の航空基地は壊滅、敵戦闘機十五機を撃墜破…スピットファイヤーが

出て来てたらしいな」


「ハリケーンよりは手強いようですが、数の優位を保つ限り大丈夫でしょう。今回も

攻撃機には近づけさせませんでしたから」


空中戦で零戦三機、対空砲火により彗星四機、流星改二機…がコロンボ攻撃隊の損害である。


英空軍の誇るスピットファイヤーは余裕のある機体で、それだけに多くの性能向上型が造られた。

初期型と最後期型では最高速度が百キロ以上も違うほどだ。この時点での最新型はイギリス本国や

アフリカ戦線にいて、インドに回ってくるのは一段墜ちる機体になる。早めに戦場を離脱した

ものが多かったので半数の損害で済んだのだろう。


戦艦ウォースパイトの艦橋でサマーヴィル提督は諦念にも似た感情の中にいた。


作戦はうまくいったはずだった。日本艦隊がセイロン島の基地航空隊との戦いに拘束され、

この戦艦部隊にも気を取られている隙をついて、意想外の方向から空母部隊が奇襲をかける…

だが、得られた戦果は戦艦一に爆弾命中、空母一に魚雷命中(誤認)だけであった。


日本空母を沈めないまでも戦闘不能にすることができれば戦艦部隊を突入させる…

そのもくろみが完全に破綻した以上は逃げるしかない。


『空母が十隻だと…分遣隊ではなく、こちらが本隊だったのか。いずれにせよ反撃を受ける

ことは必至だ。空母部隊は全速で南下しているから簡単には捕捉されまい…おそらくこちらに

くる。なにしろこの速度だからな…』


クイーンエリザベス級であるウォースパイト以外の四隻はR級戦艦だ。

『ラミリーズ』『リヴェンジ』『ロイヤル・ソブリン』『レゾリューション』…頭文字に

『R』がつくのでそう呼ばれる。もう一隻『ロイヤル・オーク』がいたが、39年にドイツ海軍に

よって撃沈されている。


どれも第一次世界大戦時に建造された旧式艦で、近代化改装を受けたといっても最高速度は

二十三ノット…実際は二十一ノットが精一杯なのに、さらに『ラミリーズ』が機関の不調を

うったえており艦隊は十八ノットでしか行動できない。


レーダーが北東から接近してくる大編隊…三百機規模の…を捉えたとき、サマーヴィルは

覚悟した。


『多くの艦が傷を負うことになるだろう』


ここに至っても、まだ英海軍の航空攻撃に対する認識は甘かったようだ。


午後四時、二波合計四百五十機におよぶ日本機の空襲は終わった。

史実では、第二次大戦中もっとも多くの戦場で活躍した英戦艦として名を残すウォースパイトは

ここで『史上初めて外洋を行動中に純然たる航空攻撃によって撃沈された戦艦』として記録される

ことになった。


それはハワイ沖の米戦艦サウスダコタだろうという説も多いが、日本側ではあれを

『潜水艦隊との共同戦果』としている。


十発以上の五百キロ爆弾と六本の魚雷を受けたウォースパイトは大爆発を起こし、

サマーヴィル以下千名以上の乗組員とともに沈んでいった。


リヴェンジとラミリーズも同様に轟沈に近い形で沈んだので生存者がほとんどいなかった。

ロイヤル・ソブリンとレゾリューションは大破炎上、航行不能となった。

ギルバート沖と違って潜水艦隊の攻撃が望めないのと、護衛艦艇が少ないことから

戦艦に攻撃を集中したのだ。


おかげで三隻の巡洋艦と十隻の駆逐艦は無事…といっても零戦の機銃掃射で穴だらけ…

だったが、日本艦隊の追撃が予想される以上戦艦の曳航など論外であった。

多くの駆逐艦の艦上が人肉市場状態になっており、戦闘力が無いに等しい状態では水上戦闘を

挑むことも不可能…結局二隻の戦艦は総員退艦後に自沈、インド洋に一隻の戦艦も存在しない

こととなった。


『戦艦五隻か…三〜四千人はおっ死んだだろうが、これくれえじゃ三百六十億ポイントの

おたからのもとはとれねえ…お楽しみはこれからだぜ』


いや、別にそんな口調になる必要はないのだが…


つづく




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